399.遅れて来た勇者
しかし、その告白に驚いているのはセバクターだけでは無い。
この事実を横でバッチリ聞いていたエルザとドリスの二人が彼と同じく……いや、彼が今回の大規模爆発事件の元凶である事に対して疑いと軽蔑と、そして失望が入り混じった眼差しをセバクターに向ける。
「ねえちょっと待ってよ。それってどう言う事よ?」
「そうだぞ。貴様がアイクアルから仕入れた魔晶石が原因だったと? これはどうやら色々と事情がありそうだな。しっかりとジェラルド陛下の前で説明して貰わなければ私もドリスも納得しないぞ」
「そうよそうよ!」
「あ、いや……あの、これはだな……」
明らかにあたふたするセバクター。ここに来てからセバクターの色々な表情を見る事が出来ている様な気もするが、今はそんな事はどうだって良い。
今回、自分達が居ない間に起こったと言うユディソス大爆破事件について、その発端がセバクターと言うのであればジェラルド達に対して彼には説明する責任があるのだ。
何しろ城下町中にこれだけの被害をもたらした上に、フィランダー城だってあの有り様だし犠牲者だって何人も出ているからだ。
「ちょ、おいおいおい!!」
「良いからこのまま行くわよ!!」
「問答無用!」
とにかくこれは有無を言わせないと言う事で、エルザとドリスはセバクターを二人掛かりで担ぎ上げて肩に乗せ、フィランダー城までの道のりを駆け足で進む。その光景はまるで、一人では運ぶ事が出来ないので二人掛かりで担ぎ上げられる荷物の様である。
「セバクター様……ドラゴンを討伐したって言っていたけど、本当はまだ出来ていないんじゃないか?」
「私もそう思うわ。でも……それよりも問題はこれから私達がどうなるかって事ね……」
「きっちり説明すればきっと大丈夫かも知れないが、あの様子じゃなーんか不安だよ」
女二人に担がれて行くそんな自分達のリーダーの姿を見て、彼の仲間達は口々にそう呟いた。
◇
「ん……ん~」
「あっ、気が付きましたかレウスさん?」
「えっ?」
レウスが目覚めると、既に窓の外は夕方になっていた。
そして目の前には自分と一緒にドラゴンの討伐にやって来たヒルトン姉妹の姉、ティーナの姿があったのだ。
自分は何時の間にかベッドに寝かされていて隣ではまだアレットが眠っているのだが、一緒に居た筈の他のメンバーの姿が見当たらない。
となると自分がこうやって意識を失っている間に、色々と何か動きがあったらしいと察したレウスはティーナに説明を求める。
だが、その彼女の口からは思いもよらない報告が出て来た。
「ユディソスが爆破されただって!?」
「はい……私もまだ現地に行っていないので分からないのですが、今お話しした通りとにかく酷い状況になっているのだと言うお話を、このアイクトースの町に常駐している騎士団員達と魔術師達から聞きました。それをレウスさんとアレットさんが寝ていらっしゃる間に他のパーティーメンバーの方々に伝えて、先に現地へと向かって頂いてます」
「しかもユディソス全域だけじゃなくて、フィランダー城も爆破されたって話なんでしょ!? だったらすぐ行かないと!!」
説明の途中で意識を取り戻したアレットに対しても、そのユディソスで起こった大規模な爆発の話をしてみると、当然彼女も驚愕の表情になった。
「そうですわね。しかしお二人ともセバクターさんの治療でかなり魔力を使っていましたから、体調面で問題があるのでは……?」
「俺ならもう平気だ」
「私もよ。こんなに寝ていたら魔力だって回復しているわ。だからすぐに行きましょう!!」
心配そうに二人の体調を気遣うティーナだが、これだけ寝たのだから二人とも体力は問題無い状態である。
なので医療機関の関係者にお礼を言って、三人は急ぎユディソスへと他のメンバーと遅れて転送陣で帰還したのだが、そこで三人を待っていたのは更なる衝撃的な内容だった。
「セバクターが逮捕された!?」
「ああ。今は地下の牢獄に入れられている状態なんだよ」
「な、何で? 何でセバクターがそんな事になるのよ? だってセバクターは私達の目の前でドラゴンにとどめを刺したんだから、称賛される事はあっても逮捕される事は無いと思うわ!!」
「私もそう思います。これはきっと何かの間違いでは無いかと」
エルザが残念そうに首を横に振ったものの、さっぱり状況が呑み込めない三人は彼女に更に説明を求める。
だが、それはセバクターが逮捕された事を報告しに来たエルザも同じだった。
「私もそう思っている。しかし、今回の大規模な爆破事件の発端が彼だとするのなら、その原因となった彼が捕まるのも不思議では無い……」
「そ、そんな……」
「当然だろう。色々と不審な行動をしていたらしいし、今回の魔晶石を使った爆破事件に関してはカシュラーゼの連中も絡んでいるらしいし」
「お……おいおいまさかそれって、俺があいつから聞いた……魔晶石が大量に奪われたって話から始まったんじゃないだろうな?」
「ん?」
「え?」
「あっ」
そうだ、これはまだ話していなかったんだ。
レウスが「しまった」と後悔した時にはもう遅く、彼は三人の女達に抱え上げられて事情説明の為にジェラルドの元へと引っ張り出される事になったのである。