392.報告と報酬
「ええっ、クロヴィスとエドワルド達がその使用人の情報を調べに行ったんですか?」
「そうだよ。君が来る前にそう決まったの。だから君がこうやって報告をしに来てくれたって事で報酬の話もさせて貰わないとね」
四人が執務室を出て行ってから約二十分後。
やっとの事でカシュラーゼの王都エルヴァンにあるクルシーズ城までやって来たメイベルに対して、腕を組んだまま執務室のデスク越しにそう伝えるディルク。
報酬の話をする為にここに呼んだのだから、その話をしてさっさとあの勇者アークトゥルスの生まれ変わりの見張りを続けて貰わないといけない。
「とりあえず、これがまず今回の報酬だ」
「あれ……これって最初に提示されていた額よりも何だか多くないですか?」
ディルクから渡された小切手の額を見て、最初に聞いていた額よりも増額されているのを不審に思ったメイベルがそう質問をすると、彼からは当たり前の様な口調でこう返って来たのだ。
「そりゃそうだよ。君の部下が助け出したソルイール帝国の二人組が仕事に失敗したからその分の報酬を一部無しにして、それをこの報酬に上乗せしたんだよ」
「えっ、そんな事をして良いんですか?」
「良いの良いの。失敗したら報酬が無いのは君達がお宝探しに失敗したり盗賊行為に失敗して、お宝を見つけられないのと同じ様なもんでしょ」
「そ……そうなんですかね?」
それはちょっと違う様な気がするけど……と心の中で突っ込みつつ、報酬が上乗せされているならありがたく受け取っておくわと言いながら懐に小切手をしまい込むメイベル。
だが、彼女にはまだやらなければならない事がある。
「で……次の見張りの話なんだがね。先に言っておく。この任務が成功すればその報酬の二倍を出そう」
「ええっ!?」
「何、不満なの?」
明らかに驚いた表情を見せるメイベルに対して、この金額では不満なのかと顔をしかめるディルクだが、それはどうやら彼の早とちりだった様で彼に対してメイベルはこう言ったのだ。
「いいえ、あの……多すぎる様な気がするんですよ」
「多すぎる?」
「はい。この金額だって上乗せがされている分だけちょっと多い様な気がするのに、更にこの二倍だなんて……ただ見張るだけですよね?」
そんな簡単な任務なのに、何故これだけの金額を提示されるのかがメイベルには意味が分からなくて驚いてしまったのだ。
しかし、ディルクはその彼女のリアクションに目を丸くしてしまった。
「へ~、面白いんだね君」
「面白い?」
「うん。この金額を僕が提示するって言う事は、そこまで事情を分かっていないんだなって馬鹿にしちゃったよ」
「は……?」
もしかして馬鹿にされた上で目を丸くされたのか、とメイベルがムッとする。
対するディルクはハアーッと溜め息を吐いて更にメイベルを馬鹿にした上で、改めてその報酬の多さについて説明する。
「分かっていないんだったら、君みたいな馬鹿にも分かる様に説明してあげる」
「こ、こんのぉ……」
「それだけの報酬の多さがあるって言うのは、それだけの難易度の仕事になるって事なんだよ。今回、君にアークトゥルスの生まれ変わりであるレウス・アーヴィンの動向を探って貰う様にしたのは、君が危険に晒される危険性もあるからだよ」
「私が危険に?」
「ああ。だって相手はそもそも僕達の共通の敵だよ? 敵の動向を探るために、君にはこれから南のアークトゥルスの墓まで動いて貰う。もし彼等が墓に向かって動かない様であれば、何とかしてレウス達を誘導してアークトゥルスの墓まで連れて行ってくれ」
そう、この依頼は単純な様でかなり難しい。
アークトゥルスの生まれ変わりのあいつは、前世の長年の冒険で培った感が鋭いだろうとディルクが見当をつけているのだ。
そして今、ここにやって来た彼女からの報告を受けてからの話を纏めて彼女が既にレウス達と接触したのが分かったので、ここはそのチャンスを最大限に活かすべきだと考えた。
「君の報告によれば、確かセバクターがドラゴンとの戦いで重傷を負ってそのアイクトースの町で治療中だったって事で間違い無いね?」
「はい、間違いありません」
「それだったら君が自分で言っていた通り、その一行がセバクターが死んだにしても死ななかったにしても帝都のユディソスへと戻る筈だから、ユディソスで合流してそのまま墓に向かうんだ。と言っても、既にそれは君が自分で考えていたみたいだから大丈夫だと思うけど」
「は、はぁ……でもそれでしたらわざわざここに私を呼ばなくても良かったんじゃないですか? 時間もこれでかなりロスしたと思いますけど……」
そのメイベルの一言にディルクは頷く。
「確かにそれはそうかも知れないね。でも、君が裏切らないとも限らないから直接こうやって顔を合わせた上で、君の口から報告を受けたり報酬の話をしたかったんだよ」
「良く分からないですね……」
「まあまあ、細かい事は気にしないの。セバクターが死んでくれたらこっちとしてはラッキーなんだから、それを願いながら再びエスヴァリークに向かってくれ。良いかい、君がダウランド盗賊団のリーダーだって気が付かれちゃいけないよ? それと、向こうについたら一度僕に通話をくれ」
「は、はい……」
ディルクの執務室から出たメイベルは、こんな要領の悪い人が指示を出していて大丈夫なのかしらと首を捻りつつ、小切手を持って再びワイバーンに乗り込んだ。




