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391.挽回のチャンス

「……うん、大体分かった。とするとその茶髪の男は結晶石の爆発の衝撃にも無傷で耐えた上に、何事も無かったかの様にクロヴィスに反撃。それも獣人の身体能力を超えるスピードで」

「はい……そうです」

「なるほどねえ。そしてその男は自分の事をエンヴィルークだと名乗っていた。この世界の名前の一部にもなっている、二大神の片割れであるエンヴィルークの名前をわざわざ語るって事は、何かしらの理由があるのかも知れない。でもこれだけだと、ただの人間でしか無いだろうね」


 事実、獣人の身体能力を超える事が出来る人間だって居る。数こそ多くないものの、自分だってそう言う人間を見た事があるからそう言える。

 だからその男が神だなんて自分で名乗った所で、良い歳こいて変な妄想に取りつかれている気持ち悪い中年の男じゃないか、との感想しか思い浮かばないディルク。

 そして、その男がエンヴィルークなんかでは無い本当の理由を自信を持って言える根拠がこれだった。


「大体さあ、君達……知っているかい? エンヴィルークって言うのが伝説の中でどんな姿をした神なのかってのをさ」

「それは勿論知っていますよ。喋るドラゴンだって伝説が残っています」


 エドワルドの回答に対して頷くディルクだが、その表情は真顔のまま。

 更に突っ込んだ回答を得る為に、手を後ろに組んだまま他の三人にも聞いてみる。


「もっと詳しく答えられる人は居ない?」

「あ……私も知っています。オレンジ色に近い赤のドラゴンだって伝説ですよね。しかも今このエドワルドさんが言った通り、喋る……つまり人間や獣人の言葉を理解する事が出来る、攻撃と破壊のドラゴンとして伝記の中に登場しています」

「その通り」


 ユフリーの回答に満足したディルクの唇の端に、ふっ……と僅かに笑みが浮く。

 すぐに表情を引き締め直した彼は、後ろに手を組んだまま石像状態の四人の前をゆっくりと歩きながら往復する。


「そう。僕達の様に現代に生きる者としては、それは伝説上の存在にしか過ぎない。それをわざわざ自分から、このエンヴィルーク・アンフェレイアの神だなんて名乗っているなんて聞いただけでも恥ずかしい。それに、そんな気持ち悪い中年の男に負けてしまった君達もまた僕にとっては恥ずかしい存在なんだよ」


 だから、とディルクは続ける。


「君達は確か、連絡用に魔晶石を持っていたね。ソルイールの二人も、それから盗賊団の二人も」

「ああ、持ってますけどそれをどうしようってんですか?」

「だったらそれで、君達盗賊団は他の仲間の盗賊団員達に協力を仰いでその中年の男の情報を片っ端から集めるんだよ。君達はエスヴァリークで顔がバレてしまっているんだから迂闊に入れない。でも他の仲間の盗賊団員の連中であれば、それなりに名前が売れて来ている存在とは言えなかなか表舞台には出づらい存在だろう。だから一般人の振りをして、それと無く情報を集めて貰うのさ」


 それから……と話はソルイールの二人の方にも巡って来る。


「そっちの二人はかつて、僕達カシュラーゼとともにエスヴァリークの隣国のヴァーンイレス王国に侵略して制圧した経歴があるんだ。その時からの繋がりがある訳だし、今回の失敗の挽回もさせてあげるよ」

「ほ、本当ですか?」

「ああ。だから君達も、顔がバレていて入国出来ないならソルイール帝国の他の人員に協力して貰って、色々とツテを当たって情報収集をするんだよ。僕達がセバクターと仲間の状態にあった時に彼から聞き出した情報によれば、セバクターはこの世界中を飛び回っている名うての傭兵だ。あいつを慕っている者も多いとなれば、同じく慕っている振りをして近付いて情報を手に入れるんだ」


 四人に指示を出し終えたディルクは、右手の指をパチンと鳴らして音を響かせる。

 するとその瞬間、石像の様に身体が動かなかった四人全員が何事も無かったかの様にスッと動ける様になったのだ。

 その四人に対して、ディルクは最後通告をする。


「良いかい。これでも君達の失敗に対して精一杯の対応をしているって事を忘れないでくれよ。本来ならば君達四人とも、僕が今ここで跡形も無い位にボロボロにしてから何処かの海に沈めている筈だからね。何時か八つ裂きにしてやりたいあのセバクターに裏切られた上に、失敗までされているんだからはらわたも煮えくり返っているんだ」


 気持ち悪い中年の男に四人全員がやられっ放しだなんて、寝覚めが悪くて仕方が無い。

 ディルクの握った拳がブルブルと震え、その拳を開いて四人に向けてバッと腕を振るった。


「そっちの盗賊団のリーダーがやって来たら僕から全ての事情を話しておくからな。それから何か分かった事があったらメモを取り、ある程度纏まってから報告をするんだ。分かったならさっさと行動を開始しろ!!」

「かしこまりました、ディルク様!!」


 クロヴィスが敬礼をしながら大声でそう返事をするのを見て、残りの三人も彼と同じ様に敬礼をして踵を返し執務室を出て行く。

 その四人の背中と閉まる扉を見据えつつ、椅子に座ったディルクは背もたれにもたれ掛かりながら呟いた。


「何がエンヴィルークだ……神なんてもう、この世には居ないって事を僕が証明してやる。その男の首を撥ねてな!!」

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