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390.念には念を入れて

 ディルクが両手の指にはめている、銀色のリングの跡が残る位にきつく絞められた首を抑えつつドゥルシラは立ち上がる。


「な……何なんですかいきなり……」

「ふんっ、君達が失敗するから悪いのさ。八つ当たりだってしたくなるんだよ。まぁ……良いや。とりあえずその神とかってほざいてる中年の男だっけ? そいつの事をもっとちゃんと調べないとね」

「そうですね。ですがディルク様、その前にやはり教えて頂けませんか? その赤毛の二人組だけにアークトゥルスの墓の調査を任せずに、私達や姉御まで駆り出そうとしているのは一体どう言う意図があっての事なんです?」


 それもわざわざ追加依頼としてお金まで払って……とエドワルドが言うと、ディルクは後ろ手に組んでいた手を解いて右手の人差し指をエドワルドの顔の鼻部分に突き付けた。


「裏切られでもしたら困るからだよ、君達にね」

「裏切る……?」

「それって俺達が裏切るって事を言いたいんですかい?」

「そうさ。正確には、その可能性があるかも知れないって話だけどね」


 キッパリとそう言い切るディルクに対し、クロヴィスの顔に明らかな怒りの色が浮かび、エドワルドの眉間にシワが寄る。


「……っの野郎~っ、もう勘弁ならねえっ! 表に出やがれってんだよ!!」

「まぁまぁまぁまぁ!!」

「気持ちは分かる……気持ちは分かるけど落ち着けって! この男にはどう頑張ったって勝てる訳が無いんだ! 人が死ぬのを見ないと興奮出来ない危ない魔術師だって、バスティアン陛下も言っている位なんだから!!」


 ソルイールの二人が身体を張ってクロヴィスを止め、それを横目で見ながらエドワルドが会話を続ける。


「ですがこのクロヴィスと同じく、何故その赤毛の二人に任せておけないのかが私も納得出来ませんね。先程貴方はこうおっしゃいました。私達に裏切られでもしたら困るから……と。それはどう言う意味なのですか?」

「どう言う意味も何もそのままの意味だよ。さっきも言ったけどさぁ、こっちはあのセバクターにまんまと騙されちゃってる訳。そしてそのセバクターと一緒に行動していたヴェラルとヨハンナの赤毛の二人組もこの先で裏切らないとも限らないでしょ。だから念には念を入れて、君達にはその二人の監視役を頼みたいんだ」


 もう身の回りの人員を誰もかれも信用出来ない以上、相互監視をして貰って疑心暗鬼に陥らせてでもこれ以上仲間が裏切らない様にしておきたいディルク。

 しかし、それは今の状況からすると出来ない。


「……って思っていたのに、どっかの誰かが失敗するからエスヴァリークの連中に顔がバレちゃって、おかげでしわ寄せがこっちに来ているんだ。だから君達はさっき言った通りエスヴァリークへの出入りは出来ないだろう。そこで、そっちのライオンと狼の二人の上司にその役目をお願いするんだよ」


 それなのに、と更に苛立ちを募らせるディルクを見て「まだ何かあるのか?」と彼の目の前に立っている四人は顔を見合わせる。

 そんな四人を鋭い目つきで見据えつつ、ディルクはその苛立ちの原因を話し始めた。


「でもその上司が来ないんだよ!! まだ来ないんだよ!! 全く、何時まで時間が掛かっているんだ……え? 君達の上司はそんなにトロい女なのかい?」

「おい、姉御の悪口言ってんじゃねえぞ。姉御だってあんたの為に一生懸命やってんだよ!!」

「はっ……どうだかね。あの連中に上手い事乗せられて裏切るかも知れないんだからねえ。プロなら絶対ここに来ると思うけど、もし来なかったらどうなるか分かっているよねえ?」

「こ……の……野郎……っ!!」

「やれやれ……これだから脳まで筋肉に支配されている様な人種は困るよ。君と僕とでは力の差が余りにも違うんだって事を知って貰わないと困るね」


 何処まで人を馬鹿にすれば気が済むと言うのだ。

 こいつだけはぶん殴ってやらなければ気が済まねえ! とクロヴィスが一歩を踏み出したのだが、彼のその動きを見たディルクが先制攻撃を繰り出した。

 スッと彼の目の前に左手をかざし、手のひらから白金色の光をキィィィィ……と言う甲高い音とともに繰り出す。

 するとその瞬間、クロヴィスの動きが止まってしまった。


「……え?」

「お、おい……どうなったんだ?」

「ねえちょっとディルク様、一体何をしたんですか?」


 顔の表情以外がまるで石像の様に動かなくなってしまったクロヴィスが、冷や汗を流しながら驚愕の声を上げる。


「お、おいっ……何だこりゃあ!?」

「動きを止めたんだよ。顔以外はね。君は考え無しに動いちゃうタイプみたいだからこの話が終わるまで黙っててよ。まぁせっかく来たんだから君達の上司が来るまでゆっくりして行きなよね。それにこれは君だけじゃなくて、こうやって他の君達にも同時に掛ける事だって出来るんだよ?」

「うっ!?」

「えっ……え?」

「うわ……!!」


 スッとディルクが他の三人に向けて手を払えば、それだけで三人の動きも顔以外が止まってしまったのだ。

 その三人の中で最初に驚きの声を上げたのはユフリーだった。


「か……身体が……動かない!?」

「そうだよ。まぁこのままで良いか。じゃあ君達が戦ったって言うその神だとかって名乗った、中年の男についてもうちょっと詳しく教えて貰えるかな。僕はまだ断片的に話を聞いただけだからね」


 そう言いながら手を後ろに組み、ディルクが石像状態になった四人に聞き取り調査を始めた。

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