389.八つ当たり
同じ頃、カシュラーゼに到着したメイベルの部下のクロヴィスとエドワルドも彼女と同じ疑問を抱いていた。
先程、メイベルから連絡を貰って「今からそっちに向かうから」と言われているのでこうして待っている間に、目の前に居るカシュラーゼ筆頭魔術師でありこの王国の全ての実権を握っているディルクにその疑問をぶつけてみる。
「そんなもん、赤毛の二人に任せておけば良いじゃないですか。俺達はこうやってあんた達の依頼通り、このソルイールの二人を奪還して戻って来たんですから」
「そうですよ。そもそも私とクロヴィスは赤毛の二人と共同作業で奪還作戦を組み立てて実行する予定だったのに、あの二人は実行寸前に抜けてしまった。だから苦労したんですよ」
帰還した二人がブーブーと不満を漏らすのを目の前で見て、ディルクは尊大に組んでいた足を解いて執務室の椅子から立ち上がった。
「これは追加依頼だと言った筈だ。その為の報酬だって用意してあるんだから、君達は黙って依頼主の僕の指示通りにしていれば良いんだよ。余計な詮索はしない事だね」
「そんなの納得出来っかよ!!」
「おいよせ、クロヴィス!!」
今にも飛び掛かろうとしたクロヴィスをエドワルドが手で制すのを横目で見つつ、助け出されたソルイールのユフリーとドゥルシラに向かってディルクからの叱責が始まる。
「で、君達は何なんだ? あのアークトゥルスの生まれ変わりを上手く犯罪者に仕立て上げるのを失敗しただけで無く、逆に自分達が捕まってしまうなんて。こっちだって高い金を払ってソルイールに頼んでいるんだから、それなりの働きはしてくれなければ困るんだけどね」
「す、すみません……」
「ですがディルク様、聞いて下さいよ。俺達に対して邪魔が入ったんですよ」
「ふん、邪魔だか何だか知らないけど……失敗したのは事実なんでしょ? だったらどんな理由があるにしろ、今回の報酬は無しって事だからね」
「そ、そんな~!」
「俺達の頑張りって何だったんだよ……」
あんなに頑張ったのに、まさかの報酬はゼロである。
落胆するユフリーとドゥルシラに対して、更にディルクの叱責は続く。
「それに、君達を実力者だって言って送り込んだソルイールの皇帝も殺してやりたいね。あの男は僕は苦手なんだ。何でも力で解決出来るって思っている、世間知らずの愚か者さ」
「自分だってそこまで変わらないと思いますけど……」
「何か言った?」
「いえ……何も」
思わず心の中の本音が出てしまったユフリーに対して、鋭い目つきでディルクが睨みつけてから組んでいた腕を後ろに回して手を組んだ。
「まあ良いや。結果的にユディソスの城下町とフィランダー城の中を爆破して来たんでしょ?」
「ええ、至る所をやって来ました」
「だったら向こうが立ち直るまでには時間がある。帝都ユディソスとフィランダー城の復興に人員が必要だから、アークトゥルスの墓だってそうそう簡単には派遣出来る部隊を出せないだろうからね。でも、君達四人はしばらくエスヴァリークの中に入っちゃいけないよ。今回の大騒ぎで顔も見られているんでしょ?」
「は、はい……その神だって自分で言っていた、茶髪の男に……」
先程、邪魔が入ったと伝えようとした時に伝えきれていなかった茶髪の男の存在を何とか伝えたドゥルシラ。
だがそれは、既にメイベルからの連絡が入っていたらしいのだ。
「ああ、その変な男の話なら君達盗賊団のリーダーから連絡があったよ。君達からこんな報告を受けたって事で、彼女が連絡係になったっぽいね」
「姉御から既に聞いていたんですかい?」
「そうだよ。聞いた話だと、どうやらそれはあのアークトゥルスの生まれ変わりと一緒に行動していて……僕達のかつての仲間でもあったセバクターって男の屋敷の使用人らしいね」
「仲間!?」
驚くクロヴィス達に対して、ディルクは頷いて続ける。
「正確には、仲間だった振りをしていたみたいだけどね。僕達の仲間の振りをして、色々とこのカシュラーゼの内部事情を探っていたみたい。だからそれを逆に利用してあのアークトゥルスの生まれ変わり達をカシュラーゼの仲間だと言う事にして、エスヴァリーク帝国に始末させる予定だったんだけど……君達が失敗したから全て台無しになったんだよ!!」
「ぐえっ!?」
風を足に纏わせて移動速度をアップさせ、ドゥルシラに一気に接近して首を絞め上げて八つ当たりを開始するディルク。
「君達がその神だとか言っている、変な男にやられて捕まったりしなかったら全て上手く行ったのに……何で失敗したんだ!? え!? 答えろ!!」
「ぐぐ……苦しい……」
「や、止めて下さいディルク様!! あれは……私達が油断したからなんです!!」
「そうだろう!? ハンドガンがあるからと言って油断した君達が悪いんだろうが! しかも地下牢獄で脱出する時は四人も居たのに、その男一人に歯が立たなかったそうじゃないか!! 君達がここまで使えないとは知らなかったよ……!!」
「止めろ止めろ!!」
「落ち着いて下さい!! 冷静になって!!」
獣人のクロヴィスとエドワルドに力尽くで引き剥がされ、呼吸の為にゲホゲホと咳き込むドゥルシラを見てもディルクの怒りは収まりそうに無かった。