388.協力者のプロフィール
「へえ、ワイバーンで世界を回って旅をされているんですか……」
「ええ。でもそんな時にあんな爆発を見てしまうなんて思いもよらなかったわよ」
アイクトースの町にある騎士団の詰め所で、セバクターがその町に常駐している医師達、それからレウスに治療をして貰っている間に遅れてこの町まで戻って来た残りのメンバー。
その六人の内、自分も魔術師として手伝う義務があると言って応援に向かったアレットを除いた五人が、二人をここまで運んだあの茶髪のワイバーン使いの女に事情を聴いていた。
女の名前はメイベルと言い、どうやらこの近くを丁度通り掛かった時にファイナルカイザースラッシャーの攻撃で起こった爆発を見て、何かがあったのかと思い急いであの場所に飛んで来たらその爆発を受けて倒れたセバクターを運ぼうとしていたレウス達に出くわしたのだらしい。
「しかし、本当に運が良かったですわ。貴女がこうやってワイバーンで通り掛かってくれなかったら、今頃私達の仲間は……」
「いいえ、気にしないで。本当に偶然ここを通り掛かっただけだったし。でもあそこを根城にしていたドラゴンを倒すなんて、かなりの使い手だって事よね?」
「そうですね。彼は世界中に慕う者が居る名うての傭兵ですから」
「おいおいティーナちゃん、俺達の協力もあったからこそだろ?」
「あら、そうでしたわね。でもティーナちゃんなんて軽々しく呼ばないで下さいます?」
「はは、きついねぇ……」
実際サィードの言う通り、今回のドラゴンとの対決はセバクターだけでは無くて自分達全員で連係プレイをして倒したのだ。
ただしその代償として、セバクターが意識不明の重体に陥っている。
レウスやアレットが懸命に治療している中で、自分達だけがこうして元気なのは責任を感じてしまうのだ。
そんな一行を見て、メイベルはそろそろここから立ち去ろうとする。
「それじゃ、私はそろそろ行っても良いかしら?」
「え? ああ……そうですね。お手数おかけしました。本当にありがとうございました」
「良いのよ別に。それじゃ、その傭兵さんの無事を祈っているわ」
待機をするメンバー達と片手を振って別れたメイベルは、アイクトースの町の外に停めてあった自分のワイバーンに乗って大空へと舞い上がる。
そしてそのまま向かうのは、あのドラゴンを倒す為にセバクターがファイナルカイザースラッシャーを使うのを見ていた、セロデス平原の入り口だった。
「まさかこんな形で急接近出来るなんて思っていなかったけど、おかげで色々聞き出せたから良かったわ。善人の振りをするって言うのもたまには悪くないわよね」
普段は盗賊団のリーダーとして世界各地を回っている自分だが、ファイナルカイザースラッシャーを見届けた後はそのままレウスを空中からさらって、アークトゥルスの墓へと連れて行ってしまうつもりだった。
ダラダラとした行動を嫌う自分としては、わざわざ尾行してカシュラーゼのやり方は生ぬるいと感じた結果の行動だったのだが、その前にあのレウスの仲間を助ける為に行動するなんて完全に想定外だったのである。
だが、その想定外を利用してレウス達に着いて行こうと考えた。
(でも、そうなるとクロヴィスとエドワルドがどうなったか分からなくなってしまう。送り届ける様にって指示だったけど、こうやって見張りを続けるのがまさか日を跨ぐとは思わなかったから、あそこでクロヴィスやエドワルドに連絡をしたら私の正体がバレてしまう……ん?)
そこまで考えてふと気が付いた。あの連中は、帝都のユディソスが襲われたって事を知っているのだろうか?
ユディソスが襲撃されたと言うのであれば大騒ぎになっている筈なのだが、そんな襲われたなんて事を知っている様な素振りでは無かった。
(まあ、でも確かクロヴィス達からの報告によれば通話スポットも爆破したらしいしこっちに連絡が来ていないのも当然と言えば当然よね。だったらあの連中が知らないのも納得が行くわ。後はひとまずこのまま一旦ユディソスまで飛んで、そこで偶然を装って再会するとしましょうか……)
本当はあのアークトゥルスの生まれ変わりが率いていると言う一行と一緒に居て、見張りを続ける予定だった。だが何時までもあの連中と一緒に居ると、何かの切っ掛けで自分の正体がバレてしまうかも知れない。
だから強行突破で生まれ変わりのあの男だけをさっさとワイバーンでさらう予定だったのだが、先にワイバーンで迫っている事に気付かれてそれもまた失敗してしまった。
それだったら一旦離れて、偶然を装って帝都で再会した方が良いだろう。
あの連中は絶対にアークトゥルスの墓に向かうだろうし、旅をしているなんて一応それっぽい事も言ってごまかしたからこそ、観光スポットの一つでもあるアークトゥルスの墓に向かうのは不自然には見えない。
(セバクターって言うのが死んでも死ななくても余り変わりは無いけど、どっちにしても早めに動いて貰いたいわよね。全く……あの赤毛の二人が先に墓に向かったって言うんだからその連中に頼んでおけば良いのに、カシュラーゼの連中はそんなにあの赤毛の二人を信用出来ないのかしら?)
はあーあ……と溜め息を吐きながら再びワイバーンに乗ったメイベルは、ひとまずユディソスに向かうべく空へと舞い上がった。