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385.居なくなったドラゴン

「あれ、居ない……」

「う、嘘!?」


 ソランジュとサイカが驚くのも無理は無い。何故ならセロデス平原の、以前ドラゴンと戦ったその場所に奴は居なかったからだ。昨日と同じ様に何かを食い荒らした様子は残っていたものの、その痕跡だけを残してぷっつりと姿を消し去ってしまったのだった。

 意気揚々とこうして乗り込んで来たのに、肝心の討伐対象が居ないのであればどうしようも無い。


「くっそ……居ねえなんて聞いてないぜ!?」

「でも、ドラゴンが居なかったらユディソスには戻れないだろうな。私達がこのまま帰る訳にはいかない」


 足で地面を蹴りつけて悔しさを表現するサィードの横で、エルザがドラゴンの食い荒らした場所を見つめつつそう呟く。

 確かに彼女の言う通り、自分達はこうして転送陣まで使わせて貰った上でドラゴンを討伐しにやって来たのにその討伐対象を倒せなかったばかりか、一旦退却して翌日の朝にまたその目撃場所へ行ってみたら居ませんでした、等と言う事になればそれこそジェラルドから何を言われるか分からない。

 最悪の場合はドラゴンの代わりに自分達がこの世から消えて無くなるかも知れない。

 ソルイールの横暴な皇帝程では無いにせよ、あの好戦的な皇帝ならそうする可能性は高いだろうなと考えてしまうレウス。


「参ったわね……ここに居ないのは分かったけど、これだと何処かに飛んで行ったか見当が付かないわ」

「いいえ、分かりますわ」

「え? 姉様はドラゴンの居場所が分かるの?」


 アレットががっかりした様子でそう呟いたのを横で聞いたティーナが、キッパリとそう言ったのを聞いて更にその隣で反応したエルザを始めとする他のメンバー達の視線が彼女に集中する。

 しかし、ティーナは一度首を横に振った。


「居場所は分かりません。ですが飛んで行った場所の範囲の見当は付きます」

「それってどの辺りなの?」

「南の方には被害が出ていない。と言う事はあのドラゴンが南に飛んで行く可能性は低い事になります。更にこの辺りに食い荒らされた獲物の痕跡がまだこうして強烈な臭いとともに残っていると言う事は、まだこの獲物達が食い荒らされてそう時間は経っていない。だからまだこの近くに居る筈です」

「だ、だったらさっさとこの平原中を探し回れば……」


 妹の提案をティーナは手で制して却下した。

 そして、ドラゴンと出会う為の驚くべき方法を一同に向かって口に出したのである。


「いいえ、ここで待ちます」

「えっ?」

「待つんですよ。こうして大量の獲物が食い荒らされていますが、種族も大きさもバラバラです。そんなに多数の種族が一堂に会している所に出会えるなんてのは、何かでおびき寄せられたか、あるいはこうしてここに連れて来られてから食べられたかでしょう。種族間の争いもありますが、それで獲物がこんなに一か所に集まるなんて光景になるとは考えにくいです。それにあのドラゴンはここで悠々と眠っている姿を何度も目撃されていますから、恐らくこの場所が気に入っているのでしょうね」

「ってなると、あのドラゴンは……」


 その時バサッ、バサッと聞こえて来る音。

 それに気が付いたドリスが、そして他のメンバーが空を見上げるのを見てティーナは頷いた。


「ほら、戻って来ましたよ……新しい獲物が来たって気が付いてね」

「おお……お……!」

「本当だ!」


 徐々にそのシルエットが大きくなって来るのを、空を見上げているメンバーが確認しつつ武器を構える。

 ティーナも同じ様に自分のロングソードを腰の鞘から引き抜いて構えながら、何故ドラゴンがここに現われたのかを口に出して説明し始めた。


「あのドラゴンは恐らく空を飛び回って散歩をしていて、新しい獲物が自分のお気に入りの場所に近づいて来たのに気が付いたんでしょう」

「だろうな。そうで無ければ、こんな場所にこうやって魔物や動物の死骸が転がっている訳が無い」


 冷静に分析するセバクターにティーナは頷き、また空を見上げて鋭い目つきでその近付いて来るドラゴンを見据える。


「そして、他の獲物がこの死骸の強い臭いに集まって来た所で再び一気に襲い掛かる……それがあのドラゴンの常用手段ですね」

「って事は、生物兵器のくせになかなか頭が良いんじゃないのか?」

「と言うよりはドラゴンとしての本能なのでは無いでしょうか?」

「本能だって?」

「はい。あのドラゴンは確か、カシュラーゼから解き放たれた生物兵器だって話でしたよね。でもドラゴンとしての本能が残っているのであれば、普通のドラゴンと同じ動きをしたっておかしくは無いでしょうし」

「ティーナ……お前は何故、そんなにドラゴンに詳しいんだ?」


 彼女がドラゴンに詳しい事に疑問を抱いたレウスのその質問に、本人のティーナが答える。


「当たり前ですよ。私と妹のドリスの実家は、元々ワイバーンや騎乗用のドラゴンの飼育をしているんですから!!」

「え? 飼育?」

「そうです。詳しい話はまず、あのドラゴンを倒してからにしましょう。……皆さん、来ますよ!!」


 地上から殺気を察知したのか、ドラゴンが一直線に一行の元に突進して来た。

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