383.脱獄後の報告
『……は? 神?』
「そうなんですよ姉御。その自分を神だとかって言っている変な男に俺達、コテンパンにやられちまって」
『ちょっと何を言っているんだか分からないんだが……』
通話用の魔晶石の向こうで、メイベルの困惑した声が聞こえる。
それを耳で聞いていて、自分達がもし姉御の立場であれば同じ様に困惑するだろうなと思いつつ、クロヴィスはワイバーンの背中に乗ってカシュラーゼへと向かっていた。
事前にユディソスの近くに停めていたワイバーンに向かって脱出し、大空へ飛び上がってしまえば騎士団員達も追い掛けて来られないので助かった。
それまでのいきさつを色々とメイベルに伝えるべく、ワイバーンの操縦はエドワルドに任せた上で喋り始めるクロヴィス。
「分からないのは俺達もですから大丈夫ですよ。それでですね、とりあえずそのソルイールの二人の奪還は成功しました。現在はワイバーンに四人乗りでカシュラーゼへ向かっている途中です」
『分かった。でもちょっと時間が掛かり過ぎじゃあないのか?』
「へっへ、そこは勘弁して下さいよ。仕方無いんですよ姉御。あのハンドガンとか言う新開発の兵器と、こっちに来ていたアークトゥルスの生まれ変わりとかって奴をはめる為に作った資料を全て処分する為に、フィランダー城の中をあちこち走り回ったんですから」
クロヴィスは事実を述べる。
元々は騎士団に追われている事もあり、さっさと城の外へと逃げ出してなるべく裏路地を通り、そしてワイバーンで逃亡する予定だったのにこのソルイールの二人が色々とヘマをしでかしてくれたせいで、その城の中を駆け回らなければならなかったのだ。
騎士団員達の詰め所、騎士団長の執務室に貴族達の溜まり場、城の中にある書庫に宝物庫、応接室に談話室、仮眠所、通話スポット、騎士団員達の宿舎、鍛錬場の武器庫、埃っぽい倉庫、裏庭の花壇、魔術師達の研究室と言った、フィランダー城の至る所を結晶石で爆破した。
とにかくありとあらゆる所を爆破して、全てを粉々にしてうやむやにしてしまえばどうにかなると踏んだからである。
皇帝のジェラルドの執務室や寝室等にも危険を承知で突入して爆破したものの、肝心のハンドガンの資料やパーツは完全に爆破出来たかまでは分からないままなのが心に引っ掛かっている。
「とりあえず、ヴェラルとヨハンナの赤毛の二人が少し魔晶石を分けてくれたんですよ。あのセバクターって言うピンクの髪の毛の傭兵の仲間達から奪い取ったんですって。で、それで城のありとあらゆる場所を爆破しましたから恐らく大丈夫かと。後はユディソスの城下町も同じくやっておきましたよ」
『ふぅん、それは分かったわ。で、その赤毛の二人は今そこに居るの?』
「いえ、それがですね……本当は俺とエドワルドと一緒にフィランダー城の地下牢に向かう予定だったんですけど、自分達はワイバーンを使って南のアークトゥルスの墓に向かうって言って別行動になりましたけど。何でもその……それもディルク様の指示だそうですけど」
『はぁ? そんな話は私は聞いていないわよ?』
「ええっ!? 本当ですかい姉御?」
だとしたら話がおかしい。
そもそもその赤毛の二人と協力して奪還する予定だったのに、話が変わるとしたら何故団長の私に話を通さずに独断で行動させているのか、そのディルクの考えがまるで理解出来ない。
もしかしたら、あの時ドミンゴに話をした時の追加依頼に人手が必要だからと言ってそうなったのかな……と会話を思い出してみる。
『ソルイール帝国の二人の奪還が終わってここまで送り届けた後、奴等の行動を見張りつつ一緒に移動して、墓参りに行くって分かった段階で先回りをしてくれ』
「わ、分かりました……契約金とかのお話は……」
『それは奪還が成功してこちらに戻って来た場合に改めて話す。それでは頼んだぞ』
回想で黙ってしまったメイベルに対し、クロヴィスが声を掛ける。
「姉御? どうしました?」
『あのね……ほら、アークトゥルスの墓って私達も行ったでしょ。物凄いお宝があるって話だったから何人かに着いて来て貰って、墓を掘り返そうと試みたけど強力な魔力の結界で駄目だったあそこよ』
「あー、そういやありましたね」
『それで私も諦めようかと思っていたけど、私が今こっちで見張っているあのアークトゥルスの生まれ変わりを誘拐して、結界を解いて貰おうって思っていた矢先に追加で話が来たのよ。その生まれ変わりを見張りつつ墓に向かってくれって』
「ど、どう言う事です?」
『私も分からないのよ。恐らくその墓に墓参りをするんじゃないかって見立てた上での指示だと思うけど、何故赤毛の二人が先に向かっているのかが分からないのよね。とりあえず一旦あんた達はその二人をカシュラーゼに送り届けて。こっちは引き続き監視を続行するから』
「わ、分かりました……」
ディルクは一体何を考えて、ソルイール帝国奪還の人員を削ってまでその墓の方に赤毛の二人を向かわせたのだろうか?
その話を聞き出す為にもさっさと送り届けなきゃな……と困惑と決意が混じり合った感情を抱きながらクロヴィスはカシュラーゼへと向かって他の三人と一緒に夜空を飛んで行った。