382.追跡後の報告
「逃げられたですって?」
「ああ……すまない」
「いや……すまないじゃなくて、何でそうなったのかを私は聞いているのですが……」
今回のユディソスの城下町の至る所で起こった爆発、そしてその爆発に乗じた地下牢の襲撃事件を引き起こした四人組は、あの後に帝国騎士団の追撃を振り切って逃げおおせてしまったらしいのだ。
謝られるのは勿論だが、何故そうなったのかを説明して貰わなければ納得出来ない男……ペーテルはフォンやニーヴァスに対してその説明を求める。
それに対して、ニーヴァスが申し訳無さそうにあの地下牢の出来事の後の話を始めた。
「あの連中は大量の魔晶石を使って、爆弾を作っていた。しかもそれは魔術防壁の防御力を上回る攻撃力を持っていた強力な物だった。それを至る所にばら撒かれた上に、獣人が二人も居たからその二人の戦闘力にやられてしまった……」
「白いライオンと黒い狼ですね」
「ああ。私達がその獣人達を含む四人組を追い掛けて行ったまでは良かったんだが、その連中は今も言った通り魔晶石の爆弾でやられてしまったんだ」
フォンとともにその報告を隣で聞いていた、この皇帝の執務室の主であるジェラルドがふと、その使われた爆弾の事について自分の予想を述べ始めた。
「その爆弾とやらって、確かマウデル騎士学院でも爆破事件が起こった後の現場検証で見つかったのが魔晶石から作った結晶石だって話だったから、もしかしたらこの事件もその騎士学院の事件も同じ奴等の息が掛かっているかも知れないな」
「私も同意見です、陛下。裏路地の五人を殺害したのがあのユフリーと言う女なのは私やフォンの事情聴取では結局判明しませんでしたが、こちらの方からの証言で犯人だと分かりました。そしてバックにはカシュラーゼの姿がある事も。ですから、もうこれは我が国に対する宣戦布告と受け取っても良いでしょう!」
普段は冷静な性格のニーヴァスが、感情を剥き出しにしてまでジェラルドにそう訴え掛ける。
だが、一方のジェラルドは渋い顔のままだ。
「それは俺も考えた。俺だって、こんなのが許されねえ事だってのは分かっているし、今すぐにでも全軍を率いて俺が乗り込みてえ。そしてカシュラーゼをめちゃくちゃにしてやりてえ」
「ならば……」
「けど、向こうは何をしでかすか分からねえ。ただでさえドラゴンの生物兵器を十匹も世界中に放って世界を混乱に陥れている上に、騎士学院の事件でも今回の事件でも何としてでも目的を達成する為に、城下町中に爆弾を仕掛けたり容赦無く爆破しまくる連中だ。実際、俺達だって騎士団に被害が出ているしこのフィランダー城の中も至る所を爆破されて、これからその修理に追われる事になるだろうからな。だからまずは速攻で後始末を終えてから、全軍でやられる前にやっちまうんだ!」
ペーテルが事前に騎士団から借りたあの警笛を使い、地下牢獄で呼ばれた騎士団員達の追撃をかわすべく城の中に逃げて来たあの一行は、なりふり構っていられないとばかりに爆弾を投げつけながら逃走していたのだ。
その被害状況は深刻で、騎士団の中に負傷者が実に二百名以上、死者も五十名以上。しかも最終的にその四人を全員逃がしてしまった騎士団やジェラルド達への、国民からのバッシングは免れない。
なので攻め込むのはその後始末が全て終わってからだ、と決意するジェラルド。
だが、その話を横で聞いていたペーテルが呟いた。
「果たして……そう上手く行くでしょうか」
「え?」
「確かに攻め込みたい気持ちは分かりますが、私が自分の店のお客様から聞いた話によりますと、向こうはもっと大きな兵器を開発しているとの噂がありました。その兵器がどんなものかは良く分かりませんが、一説によれば古代遺跡から見つかった兵器を手直しして使える様にしているとかで」
「そ、それは……」
「そんなの……攻め込んでぶっ潰してやりゃ良いんだよ!!」
予想だにしていなかったペーテルからの情報に絶句するニーヴァスと、その横で「だったらやっぱりやられる前にやってしまえば良いだろう」と意気込むフォン。
しかし、ペーテルは窓の外を見て再び呟く。
「攻め込む前に……既にブロックされている様です」
「え?」
「向こうが強力な魔術防壁を国の領土全体に掛けているのが、私の店に来店された傭兵のお客様の情報で分かりました。それからカシュラーゼへの転送陣が突然使えなくなったのも同じ様に、知られたくない何かがあるからでしょう」
「となると、今の向こうは完全に外部との情報交換や交流を遮断しているって事になるよな?」
「はい。国境も封鎖しているらしいので。ですからその自国だけの世界の中で、色々と証拠の隠滅を図ったり新しい兵器の開発を進めたりするのでは無いでしょうか。証拠が無ければこちらとしても動けないでしょうし、セバクター坊っちゃんの屋敷に残されていた書類や武器の証拠も全て爆破されてしまったんでしょう?」
「あ、ああ……城中を荒らし回った上に、ハンドガンとやらの武器を調べていた魔術師達も襲撃され、そちらでも三十人程が死んでいるし百人以上の負傷者も出た……」
だからこそ、全ての証拠を消して後はしらばっくれてしまえば何とでもなる。
そう考えているカシュラーゼの命によって動いていた四人は、ワイバーンを使ってそのカシュラーゼへと向かっていた。