381.神
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ユフリーが投げたのは、かつて赤毛の二人組であるヴェラルとヨハンナがマウデル騎士学院の中に大量に仕掛けたと言っていた、あの魔晶石を集めて爆発を起こせる様にした結晶石だった。
それは確実に男の元に向かって飛んで行き、そして彼に当たって爆発する。
もしかしたらその爆発に巻き込まれて自分以外の三人の仲間も死ぬかも知れないが、そうなった場合は事故として上手くごまかしてしまおうと考えたユフリーは、その爆発によって来るであろう爆風の衝撃に備えて腕で顔を覆った。
直後、男が立っていた場所から物凄い光と煙が立ち上り、間髪入れずに衝撃が煙とともに腕に向かってぶつかって来た。
「ぶはっ、げほ、げほほっ!!」
あの男は間違い無く木っ端微塵になった。
そう確信したユフリーの目の前で煙が晴れ、その中に見えた光景は……。
「効かぬな」
「……!?」
平然とした顔で、全くの無傷で、その男は煙の中から現われた。
馬鹿な。確かにさっきの結晶石は彼に当たった筈なのに。しかもそれで避けたならまだしも当たって無傷だなんて。
普通の魔術防壁位のレベルなら、その防壁を粉砕して相手にダメージを与えるのは今まで彼女が経験して来た数多くの戦いで実証済みだったのに、この男には一切効果が無いのは何故なのだろうか。
しかし不幸中の幸いなのは、その男にダメージが無かった他にクロヴィスにもエドワルドにもドゥルシラにも被害が無かった事である。恐らくこの男が魔術防壁をギリギリで展開したからなのかも知れないが、煙に包まれていたので詳細は不明なままだ。
それでもこの男に対しての恐怖感が次第に増して行くユフリーは、懐から次々に結晶石を取り出して男に投げつける。
「無駄だと言っているだろう。これ以上の抵抗は無意味だ」
「な……何なのよ!? 何なのよ貴方はぁ!?」
結晶石だけが無駄に消費されながら、ゆっくりゆっくりと自分に向かって近づいて来る彼に対して恐怖の色が浮かぶユフリー。
だがそのユフリーにばかり注目して後ろに気が回っていなかった男は、後ろから投げつけられた結晶石に気が付かなかった。
「おいユフリー、伏せろっ!!」
「っ!?」
声の意味を問う前に反射的に伏せたユフリーの間の前で、物凄い爆発が起こる。
その声の主はドゥルシラで、ドゥルシラが投げた結晶石が狙ったのは攻撃の効かない男ではなくその上の天井部分だった。
「……!」
流石に天井が崩落してはひとたまりも無いだろう。
そう思いながら天井の崩落に巻き込まれる男の姿を見据えるドゥルシラの横では、自分に回復魔術を掛け終わったエドワルドが気絶しているクロヴィスにも回復魔術をかけてやり、意識を取り戻させて引き起こしている所だった。
そのエドワルドがクロヴィスを起こし終えると、天井の崩落を見ていたドゥルシラの肩を右手で掴む。
「おい、ここは逃げるぞ」
「はっ? だ、だがこの中年ヤローをどうにかしねえと! 俺は恨みだってあるし……」
「そんなのはまた返すチャンスが来るだろう。だが、ここで一方的にやられてしまっては元も子も無いし、さっき笛を吹かれて応援だって呼ばれているからな。しかもさっきからずっと見ていたら、結晶石の爆発を食らっていてビクともしていない。きっとこの崩落も奴にとっては無意味だ!」
そう言いながら、ここから退散するのを渋るドゥルシラを狼獣人のパワーで強引に連れて行くべくクロヴィスと一緒に引っ張ってユフリーの元に合流したエドワルドの後ろで、ガラガラと瓦礫の中から這い出て来る男の姿があった。
そのナリは既に人間とは思えない……いや、姿も形も人間なのだが何かがおかしい。この男は異様だ。
得体の知れない恐怖心に怯える四人に向け、のっそりと立ち上がった男は全身についた汚れをパンパンと手で払い落しつつ、鋭い目つきで四人を見据えて鼻を鳴らした。
「ふん……だから無駄だと言っただろう。この世界の人間や獣人如きがこの俺様に敵う訳が無いんだよ」
「何なんだ……何なんだよ、バケモンかお前は!?」
尊大な口調で喋りながら近づいて来る男に向かって、全員分の武器を回収してそれぞれに手渡したクロヴィスがそう言えば、男は真顔で当たり前の様に答えた。
「バケモン? お前達から見たらそうかも知れないな。だが俺様はバケモンじゃない。神だ」
「は?」
「俺様はこの世界の神の片割れ、エンヴィルークだ」
本気でビックリしてしまったクロヴィスに代わり、エドワルドが三人の腕を引っ張る。
「止めろ、もう相手にしないでここは逃げるぞ。応援の騎士団員もこっちにそろそろ合流する筈だし、こんな頭のおかしい男を相手にしていたらこっちの気がおかしくなりそうだ」
「あ……ああ。何が神だよバーカ!!」
「そうよ! エンヴィルークは偉大な創造神の名前なの! 貴方が名乗って良いものじゃないのよ!!」
「くっそ、覚えてろよ!!」
何てダサいセリフを吐きながら逃げて行くんだろうと思いつつ、やっと到着した騎士団員達に対して男は指示を出す。
「おい、全員とっ捕まえろ。絶対に逃がすんじゃねえぞ」
「はっ!」
「良し、全員全ての出入り口を固めろ。急げ!!」
「後は私達に任せておけ」
その中にはフォンとニーヴァスの姿もあったので、後は彼等に任せるべきだろう。
男はそう考えながら、ポツリと一言だけ呟いた。
『まぁ、信じて貰えねーのは当たり前だよな。だが俺様は本当に神なんだよ。世間を偽る仮の姿でやらせて貰ってるだけだっつの……』
そう言う男の眼の中に見える瞳孔は、普通の人間にはあり得ない……縦に割れたドラゴン独特のものだった。