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379.騙されたら騙し返せ!!

「ほら、あそこが私の牢屋だ」

「あそこだな。で、あの斜め前がその二人の入れられている場所なのか?」

「そうだ」


 男が指差した先にある牢屋は、確かに鍵が開いている状態だった。

 まずはこの男を牢屋の中に入れ、それから何とかして牢屋の鍵を開けてその二人を逃がしてここからさっさと脱出し、カシュラーゼまで連れて帰るのがクロヴィスとエドワルドに課せられた任務だからだ。


「ほら、じゃあお前はここに戻ってじっとしてろ」

「あいてっ」


 クロヴィスに乱暴に突き飛ばされた男は、よろけながらも何とかバランスを取って牢屋の中へと入れられそのまま扉を閉められてしまった。

 しかし肝心の鍵が無いので、そのままクロヴィスが扉の前に立って男が中から出られない様にした上でエドワルドが目的の牢屋に近付く。

 狼は視力が余り良くないものの、薄暗い牢屋の中に二人の人間が居る事は分かった。

 その二人の内、一人がエドワルドの姿に気が付いて声を上げる。


「……誰だ?」

「ソルイールのユフリーとドゥルシラだな? お前達をここから出す為に派遣された者だ」

「派遣?」

「そうだ。さぁ、ここからさっさと脱出するぞ」


 何が何やら分かっていない牢屋の中の二人にエドワルドがそう簡単に説明したものの、やはり肝心の内容が良く伝わっていない様である。


「えっ……ど、どう言う事なのよ?」

「話は後だ。さっさとここから出るぞ」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。何で俺達をここから出しに来たんだ? 誰なんだよお前は?」

「私達はカシュラーゼのディルク様からからの命を受けて、お前達を助けにこうしてここまで来たんだ。さぁ、さっさとここから出るぞ」

「ディルク様からですって!? でも、鍵が開いてないわよ」


 出られるのは嬉しいが、出る前にこの鍵を何とかしなければならない。

 しかし、そこはエドワルドの腕の見せ所である。彼は特に慌てる事も無く、懐からショートソードを取り出して牢屋の扉の隙間に刃の部分をギコギコと挟み込んだ。


「ふん、こんなものはこうすれば良いだけの話さ」

「うわ……凄い荒業……」


 荒業ながらも手慣れた動きで、エドワルドの差し込んだショートソードが鉄製の錆びた牢屋の扉をこじ開ける事に成功したのだ。

 後は他の騎士団員達に見つかって上手く騙しながらやり過ごすか、それが出来そうに無ければ実力行使で強行突破するしか無いだろう。

 とにかくこの二人を連れて城の外まで出てしまえば今回の任務はほぼ終わった様なものなので、まず二人はソルイール帝国の二人と共に城の外に出る事にする。

 ……筈だったのだが、その時クロヴィスが後ろから思いっ切り吹っ飛ばされて反対側の牢屋に顔面から激突した。


「ぶほっ!?」

「なっ、何だ!?」


 冷静沈着なエドワルドも、いきなり白いライオンの身体が吹っ飛ばされた事に感情を露わにして驚きを隠せない。

 その横ではユフリーとドゥルシラが、同じ様に驚きの表情を見せている。


「ね、ねえちょっと大丈夫!?」

「くっそ、てめぇ何しやがるんだこのやろお!!」

「何しやがる? 何かをしようとしているのはお前達の方だろう?」


 クロヴィスの巨体を牢屋のドアごと吹っ飛ばし、平然とした表情でそのまま牢屋から出て来た先程の中年の男に対して身構える三人と、顔面を抑えながら立ち上がって男に槍を構えるクロヴィス。

 しかし、それを見ても男は平然と構えたまま驚きの言葉を口にした。


「やはり、お前達はこうやってここに来ると思っていた」

「何だと? どう言う事だ?」

「そのままの意味だ。その牢屋に入れられていた二人を助け出す為にカシュラーゼが動くだろうと思っていた。あるいは口封じの為に抹殺部隊を送り込むかも知れないと、ジェラルド陛下達とも話し合って見回りをしていたらこの結果だからな。俺様がこっちに来て正解だった」


 一人称が「私」から「俺様」に変わった男を見て、クロヴィスが忌々し気な表情になった。


「てめぇ、俺達を騙しやがったな!?」

「先に騙したのはお前達の方だろう。エスヴァリーク帝国騎士団の人間だと嘘をついてまで、こうして地下牢に入り込んでその二人を連れ出そうとしているのだから。だが俺様もジェラルド陛下達と話し合った以上、もしそう言う連中が来たら殺さない程度に痛めつけて捕獲して良いと言われているんだ。今ここで大人しく降伏しちまえば、命だけは助けてやるぜ?」

「クロヴィスの真似をしてそんな口調になって威嚇しても、こっちは四人だ。何処の誰かは知らないが、お前に勝ち目は無いぞ」


 しかし、そんなエドワルドのセリフにも全く動じない男は次の瞬間不敵な笑みを浮かべてズボンのポケットに手を入れる。


「そいつはどうかな?」


 そう言いつつ左手でズボンのポケットから取り出した銀色の警笛を咥え、一気に吹き鳴らす。

 ピーッと言う甲高い音が地下の牢獄中に響き渡り、その警笛を聞きつけて遠くからバタバタと足音が聞こえ始めた。


「しまった……応援を呼ばれたか!!」

「俺様だけがここに居る筈が無いだろうが。さぁ、どーすんだよ?」

「だったらてめぇをここで倒して、逃げちまえば良いって事だろうがよぉ!?」


 クロヴィスが最初に覚悟を決め、彼に倣って他の三人も身構える。

 応援が来て囲まれてしまう前にこの男を倒し、そして逃げおおせてしまえば形はどうであれ作戦は完了なのだから。

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