378.Infiltration
地下牢への階段へ続くドアの脇に居る騎士団員の二人には、先程の騎士団員達と同じ様に伝令だと偽って至急応援に向かう様に遠ざける。
しかし、今の連続爆発によって城下町中が混乱しているとは言え自分達の正体がバレるのはそう遠くないだろうとクロヴィスもエドワルドも思っているので、緩慢な行動は禁物だ。
「さて、あのソルイール帝国の二人は確か……ユフリーと言う金髪の女とドゥルシラと言う青髪の男だったかな?」
「そうだなー。まぁそれなりの理由をつけて探れば何とかなるだろうしな。じゃあ今度はお前が理由考えて騙してくれよ、エドワルド」
「何故私が?」
「えーっ? だって俺がさっき騙したんだしぃ~、今度はお前がやる番だしぃ~、お手並み拝見って所だしぃ~」
「気持ち悪い言い方をするんじゃない」
「は~? だったらさっさとやれよぉ~狼ちゃんよぉ~」
相変わらずのふざけた口調で顔を指でツンツンとつつくクロヴィスに対し、狼の牙でその指を食いちぎってやろうかと思う程に怒りを蓄積するエドワルド。
しかしそのやり取りがやけに地下牢の中に響いてしまっていたのか、前方の通路の方からカツコツと足音が聞こえて来た。
二人の方に向かって確実にへ近づいて来るその足音だが、気になるのはそれが軽い音だと言う事である。
こう言う場所に配備される騎士団員であればもっと武装されていて足音も重い筈なのに、妙に軽いのは一体どうしてだろうかと顔を見合わせて疑問に思う二人の目の前に現れたその足音の主は、予想もしない人物であった。
「何だ、誰か居るのか?」
「え……?」
「な、何だあんたは?」
二人の目の前に現われたのは明らかに騎士団員では無い、白いワイシャツに赤い蝶ネクタイ、茶色のベストに茶色のズボンと言う何処かの紳士と言った風貌の中年で茶髪の男だった。
しかしこの男に対しても自分達の正体がバレる訳にはいかないので、グイッとクロヴィスに押し出されたエドワルドが先に男に正体を問い掛けた。
すると、男は意外な事を言い出したのだ。
「いや、あの……私は色々あってここに投獄されていた者なんだがな。気が付いたら牢の扉が開いていて出られたんだ。でもさっき上の方から物凄い爆発音が聞こえて来て、何かあったのかと思って騎士団員を捜していたんだよ。あんた達は騎士団員なのか?」
どうやら勘違いをしてくれているらしく勝手にこちらの事を騎士団員だと思っているらしいので、エドワルドは素早く話を合わせる。
「そうだ。その爆発の事について騎士団が出動して城下町全体が大騒ぎになっている。だが牢に入っていたと言うのであればすぐに戻れ。犯罪者をここから出す訳にはいかないからな」
「いや、ええとそれはそうだとは思うんだが……確かに私も城下町が大変な事になっているんだったらここに居た方が安全じゃないのかとは思ったよ。しかし鍵が開いているって事は、この牢から逃げろって話で誰かが開けてくれたんじゃないのか?」
「そう……なのか? 私達は上からの伝令を受けてここの看守達に爆発の事を伝えに来たんだ。だけど囚人が脱走したとなればこちらとしても大問題だから、さっさと戻れ。戻らないと言うのであれば力尽くででも連れて行くぞ」
何だか話が噛み合わないのだが、ここで騎士団員の振りをし続けるのであれば強硬手段を取る姿勢を見せて強引に話を終わらせて押し切った方が良いだろう。
そう考えた上でのエドワルドに対し、中年の男は渋々と言った表情で頷いた。
もしかしたらその連行する過程で、目的のユフリーとドゥルシラを見つける事が出来るかも知れないからだ。
しかし、この中年の男から意外な情報がもたらされたのは連行し始めて二十歩程歩いた時だった。
「そうだ……そう言えばこの前ここに連行されて来た奴等が居てな。相当暴れて大変だったみたいだけど何かあったのか?」
「何かって?」
「あ……もしかして地下牢の事はあんまり知らない?」
「そうなんだ。俺とこいつは最近ここに配属されたばかりでさ。それまでは他の町で警備をしていたから分からねえんだよ。どんな奴等なんだ?」
「ええっと……確か金髪の女と青い髪の男だったな。凄い暴れていて、騎士団員が怒鳴りながら抑え込んで牢屋に入れていたけど」
「……!」
その情報に、男の背中側で二人は顔を見合わせる。
十中八九その二人と言うのはユフリーとドゥルシラで間違い無いだろうと頭の中で情報を整理しながら、更にその二人に近付くべく自然な感じを装って中年の男に話を続ける。
「へぇーっ、まあこんな所にぶち込まれるのはすげえ大人しいか、すげえ暴れるかのどっちかだろうからな。でもやけにその二人について詳しいんだな?」
「それはそうさ。私の斜め向かいの牢屋に入れられていて、それは凄い暴れ様だったから覚えているんだ」
「じゃああんたの牢屋に向かえば、自然とその二人組の牢屋の前を通るって事か?」
「いや……逆だ。私の牢屋を通り過ぎた場所にその牢屋があるんだ」
この際そんなのはどっちでも良い。
まさかこんなに物事が上手く行くなんて……とクロヴィスとエドワルドは心の中で、この世界の神であるエンヴィルークとアンフェレイアに感謝していた。




