373.セバクターの特訓
「おいセバクター、話を聞いているのか?」
「ん……ああ」
レウスの斜め右前でそう返事はするものの、話半分に聞いていると言ったその様子にレウスは身を乗り出して彼の手元を覗き込む。
「何を見ているんだ?」
「ペーテルの先祖から代々伝わる、剣術の必殺技が記されているメモ書きだ。時間がある時にこれを見て習得すれば、役に立てるかも知れないって言われて渡された」
「必殺技ぁ?」
セバクターの隣に座っているサィードも、その必殺技のメモ書きとやらに興味を示す。
「古文書みてーだな。もうボロボロじゃねーかよ。それが必殺技だってのか?」
「そうらしい。もし今の話通りに囮作戦であいつを倒しに向かうのなら、この必殺技でとどめをさせるかも知れない」
「えー? でも必殺技ってそんなすぐには身につかないでしょー?」
呆れた様な口調で彼の向かい側から口を出すサイカ。
それは他のメンバーも同じ考えだが、せっかく渡されたその必殺技とやらが書かれたメモをこのまま捨ててしまうのも勿体無いので、ドラゴン討伐に再び出発する前にセバクターが頼みを口に出した。
「お前達に頼みがあるんだが」
「な、何だよ?」
「ちょっと俺の特訓に付き合って貰えないか?」
「はっ?」
「えっ……もしかしてお主の言っているその必殺技を習得するつもりなんじゃないだろうな?」
「そのつもりだ」
ポカンとするエルザとドリスの様子を見てそう聞いたソランジュに、セバクターは真顔で返答する。その目は勿論心の底から本気である。
「しかし、この方の言う通り必殺技は長い時間を掛けて習得するものですわ。そのメモ書きをちょっと読んで、すぐに習得出来るものでは無いと思いますわよ?」
「それは俺も分かっている。だが、あのドラゴンの実力はお前達も分かっただろう。魔術が効かない上にスピードも攻撃力も防御力も恐ろしいレベルだ。だからこっちもそれなりの技で対抗するしか無い」
その真剣な目つきに、レウス達は顔を見合わせて渋々と言った感じではあるが承諾するしか無かった。
「分かった。しかしあのままあそこであいつを放っておけば更なる被害が出るだろう。ジェラルド陛下からも俺達に対して早急にあのドラゴンを討伐して欲しいって言われているからな。だから特訓は……そうだな、多く見積もっても一日一杯が限度だな」
「そうしよう。どのみち、今日はやられ過ぎたしあのドラゴンに対抗する術が無いし、闇雲に突っ込んで行って今度こそ全滅したら終わりだからな」
現地の帝国騎士団員や魔術師の話によれば、あのドラゴンの生物兵器はあそこをテリトリーにしているらしく、あそこでああやって丸まって寝ているのが当たり前らしい。
しかし今回の騒動であそこから離れてしまう可能性もあるので、その心配を全て考慮した結果が一日と言う時間の提供に繋がった。
そうと決まれば時間も無いので、今から早速その必殺技の特訓をする事になったレウス達は酒場から出てアイクトースの町からも出て、町に被害が出ない様に配慮出来る街道沿いのスペースを見つけた。
「良し、この辺りなら町からも離れているし平原からも離れているし、街道からも離れているから存分に特訓が出来そうだぜ」
「ええ。魔物の気配も無いから大丈夫ね」
サィードとアレットの確認の言葉を聞き、改めてその必殺技が書き記されている紙をセバクターから見せて貰うレウス。
「ええっと……技の名前はファイナルカイザースラッシャー……やけに長い名前だな」
「でも、魔術にも長い名前はあるから余り気にしなくても良いんじゃないかしら?」
「そうだな。で、このファイナルカイザースラッシャーの使い方は魔力を武器の中に溜め込んで、その魔力によって爆発を起こすものなのか」
剣術の必殺技だとペーテルは言っていたが、これだと他の武器にも当てはまると言う事になる。
例えばレウスの使っている槍もそうだし、サィードのやドリスの使っているハルバードでも使えるだろうし、もっと言えば弓を使う時に矢の中に魔力を溜め込んで飛ばしてやれば同じ効果が得られるかも知れない。
そう考えていたのだが、これはどうやら斬撃専用の技らしいので弓使いには習得出来ない様だ。
「魔力を自分の中の三分の一程度、武器の中に注ぎ込む。そして武器の中に溜め込んだ魔力を、敵に向かって武器ごと思いっ切り叩き付けて爆散させる事によって、斬撃と爆発のコンボで相手を一気に絶命させる大技である。ただし、その分この必殺技を繰り出す時の隙も大きくなるし、ある程度のスピードも必要になるし、何より強大な魔力を溜め込んで爆散させるので武器が一撃で壊れる可能性が高い……って書いてある」
「すると……あのドラゴンに対して繰り出せるのは一回限りって事になりそうですわね」
ヒルトン姉妹が技の説明と、それを繰り出すタイミングを考える。
そしてそれを横で聞いていたエルザが、実際に技を繰り出して特訓するのは危ないかもしれないと考えた。
「なら、魔力は余り多く溜め込まないで特訓するのが良いと思う。少し魔力を溜め込むだけでも効果があると思うからな」
「そうね。それじゃ実際にやってみましょう」
サイカもそれに同調し、良いターゲットとなりそうな大きな岩を目掛けてセバクターの特訓が始まった。