372.作戦会議
「くそっ……あんなにあのドラゴンが強かったなんて!!」
「不覚を取りましたわ……」
一度は離れ離れになりながらも、何とか合流したレウス達八人とサポート役のアレットを含めた総勢九人は、アイクトースの町の酒場で身体を休めながら悪態をついていた。
ドラゴンの前に成す術も無かった自分達の不甲斐無さと、このままでは自分達に期待してくれているジェラルド達に合わせる顔が無いと言う悔しさが心の中を支配する。
しかしこうやって生きて帰って来られたと言う事は、またあのドラゴンの生物兵器を討伐するチャンスがあるかも知れないと言う事でもあるので、ここは落ち着いて全員集合した今の状況を最大限に利用してドラゴン対策会議を開始する。
「とりあえず、あのドラゴンと戦ってみて思った事をどんどん発言してみよう。何でも良い……全員が力を合わせればあのドラゴンだって必ず倒せる筈なんだ」
パーティーのリーダーであるレウスが、向かい合って座れる大人数用の長いテーブルの一角からメンバーに向かってそう促す。
向かい合って五人ずつで座っているその中から、最初に手を挙げたのはヒルトン姉妹の姉のティーナだった。
「私、自分で言うのも何なんですがスピードのある戦い方が得意なんです。でもあのドラゴンは私のスピードについて来られるだけの俊敏さを持っておりましたわ」
「スピードなぁ~、確かに一般的なドラゴンと比べるとかなり素早いなとは思ったが、やっぱりカシュラーゼの生み出した生物兵器だからなのかな?」
自分もそのドラゴンの爪で引っ掻かれてしまったレウスが、確かにあの素早さは異常なレベルだと回想する。
その一方で、次に手を挙げたソランジュが別の観点からドラゴンの特徴を述べる。
「スピードもそうだが、私が気になったのはあの攻撃力の高さだな。一撃一撃がかなり重い気がした」
幸いにも自分は一度も当たらなかったが、近くでその攻撃が空振った時の「音」を聞いているとその空気を切り裂く音が鋭く、そして重量感のある大きな音を発していたのが印象に残っていたのだと言う。
「元々ドラゴンって言うのは図体が大きいから当たり前だと思うが、それでも攻撃力の高さは気になったぞ」
「それは俺も思ったぜ。だがなぁ、俺はそれよりもあのドラゴンがすげえ防御力でなかなか倒れてくれなさそうでイライラしてたんだよ」
横から話に入って来たサィードが、自分が吹っ飛ばされる少し前に感じていたドラゴンへの苛立ちを思い出していたのだ。
その苛立ちが原因で集中力が乱れてしまい、結果としてドラゴンの攻撃を受ける破目になってしまったのは反省すべき所だが。
「攻撃力も防御力も高い上に魔術の攻撃がまるで効かないし、それでいてスピードも速いドラゴンとなるとまさに無敵の存在じゃないか。くそっ……参ったな」
今までドラゴンの生物兵器とは二回戦っていて、一匹目のマウデル騎士学院の時は魔術で撃破したので全然苦労しなかった。しかし、二匹目のイーディクト帝国の時には四匹もの配下のドラゴンを従えた生物兵器だったのでそれなりに強かったのを覚えているレウス。
そして今回の三匹目でこんなに戦闘力がある生物兵器と対峙するなんて、もしかしたら今回の三匹目を含めた残り七匹のドラゴンは、この先で対峙するたびにどんどん強くなって行く様に魔術で調整されているのでは無いか?
(いやいや……待て待て、それは考え過ぎだろう。俺達がこうやってあのドラゴンを倒して回って、その報告を受けてからでなければ改良だって出来ないだろうからな)
だから全くの偶然だろうと思いつつ、レウスはあのドラゴンに対しての対策を纏め始めた。
「俺の考えた作戦だけど、あのドラゴンには物理攻撃しか効かない上にスピードも速い。となれば俺達は人数差を活かした作戦に切り替えようと思う」
「人数差って……でも、さっきはああやって囲んでみたけど結局蹴散らされちゃったじゃないのよ」
「だから別の方法を考えたんだ。良いから黙って最後まで話を聞け」
異議を申し立てるドリスをその一言で黙らせてから、レウスは自分の作戦を口に出す。
「確かにドリスの言う通り、俺達はあのドラゴンを囲んで失敗した。それは俺達があのドラゴンに対しての情報量が足りなかったからだ。だが、あのドラゴンの戦い方が分かった以上、俺が囮になろうと考えたんだ」
「囮?」
「そうだ。あのドラゴンは攻撃力も防御力も高いが、所詮はドラゴンだから目の前にある獲物を蹴散らそうと言う単調で乱雑な戦い方が目立っていた。だから知能に関してはそこまででは無い筈だ。そこで誰かが囮になり、奴を引き付けている間に残った全員で一気に叩きのめす。幾ら防御力が高いと言っても、神じゃないんだから限度があるだろうしな」
「それはそうだろうけど……やるんだったらなるべく時間を掛けないで一気に仕留めたいわね」
あのドラゴンはかなり強いが、それでも倒さなければならない相手。
奴を引き付けるには、あのウィンドアローと同じで効果は無いにせよ何かしらの魔術を当ててで気を引けば良いのだろうが、その後でどれだけ短時間で倒せるかが勝負だろう。
そう考えていたレウスだったが、その時ふとセバクターが下を向いて何かを読んでいるのに気が付いた。




