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371.ドラゴンの実力

 尻尾の一撃が直撃したサィードが、横殴りの衝撃を受けて吹っ飛ばされた挙句平原の上をゴロゴロと転がった。


「サィード、サィード!!」

「う……ぐぁ……」


 全身を激痛が駆け巡りながらも、ハルバードだけは決して手放すまいと握ったままのサィードに駆け寄ったアレットは急いで回復魔術を彼に掛け始める。

 しかし、ドラゴンからの更なる衝撃がレウス達をまだまだ襲う。


「うおっと……ぬお!?」

「レウスっ!?」


 次にドラゴンの餌食になってしまったのは何とレウス。

 フェイントを織り交ぜたドラゴンの引っ掻き攻撃を防御する為、つい反射的に魔術防壁を展開する。

 だが、この時レウスはその魔術防壁を繰り出してから思い出したのだ。相手は普通のドラゴンでは無い事に……。


「ぐはああっ!?」

「レウス……がはっ!?」


 咄嗟に緊急回避のバックステップで距離を取ろうとしたがそれも間に合わず、レウスは爪の直撃を食らってしまった。

 更に、それに気を取られたサイカも続けて振るわれたドラゴンの前足の爪の直撃を受けてしまい、二人がそれぞれ反対方向に吹っ飛ばされた。


「げは……がはっ……」

「うっ……うっ……」


 二人とも強烈な痛みで身体が言う事を聞いてくれないながらも、レウスは自分の強大な魔力から回復魔術を全身に掛けて何とか復活。

 魔術に込める魔力が多ければ多い程、その魔術の威力や効果も増すのが魔術の特徴の一つなので立ち直りが早かったレウスはサイカの元に向かった。

 そのサイカは爪でモロに斬り裂かれてしまったらしく、身体が抉られて大量出血を起こしている。


「おいっ、サイカ!!」

「うぐぅ……ああ、あ……」

「くそっ、しっかりしろよ!!」


 サイカを抱き抱えてドラゴンの攻撃範囲から引き離し、最大限の魔力を込めた回復魔術を掛けてやると徐々に呼吸も落ち着いて来て、爪で引き裂かれた全身から流れ出る血も止まる。

 この時ばかりは自分の魔力の多さに感謝したレウスだが、ここでずっと彼女に対して攻撃魔術を掛け続けている訳には行かなかった。

 ドラゴンと戦っている残りのメンバーの方を振り返れば、自分を取り囲む人間が少なくなって更に調子に乗ったドラゴンがますます激しさを増した攻撃を繰り出していた。

 その様子を見てレウスは心の中で一つの決断をすると、懐から久々にあの笛を取り出して吹き鳴らした。


「っ!?」

「えっ……?」


 ピイーッと平原中に響き渡る警笛の音に、戦っていた人間達だけで無くドラゴンまで動きを止めた。

 まさかドラゴンまで動きを止めてくれるとは予想外だったが、良い意味での予想外の展開で生まれたチャンスを逃さない為にもレウスは全力で叫んだ。


「撤退だ!! 今の俺達では勝ち目が無い! 改めて出直すぞ!!」

「なっ、何を言って……うわあっ!?」

「ドリスっ!」


 何故ここで撤退を選ぶんだと抗議の声を上げようとしたドリスを見逃さず、ドラゴンが方向転換しつつ前足で彼女を踏み潰そうとした。

 しかしそれは間一髪で避けられてしまったので、更に追撃をしようと再び尻尾を振り回す体勢に入ったドラゴンを見て最初にその攻撃範囲から抜け出したのはソランジュだった。


「確かに、このまま粘って全員やられたら終わりだぞ。私は退く!!」

「く……くそっ、止むを得ないか……!!」


 続けてエルザも撤退し、その様子を見たセバクターとヒルトン姉妹も全員撤退。

 ドラゴンはドラゴンで、せっかくの自分のお昼寝タイムを邪魔されてしまった怒りで翼をバサバサと動かして全員を追い掛けて来る。


「うわあああっ!!」

「おい、全員固まって逃げていたらやられてしまうぞ! 散開して逃げるんだ!!」

「わ……分かりましたわ!! なら集合場所は最初に出発したあの町の出入り口ですよ!!」


 エルザの指示で全員が別方向へと逃げ出す。

 怪我をして動けないサィードに回復魔術を掛けつつ、彼を背負って走り出したレウス。そしてそのレウスに回復魔術を掛けられて回復はしたものの、まだ引っ掻かれた痛みと疲れが完全に抜けきっていないサイカの手を引いて撤退するアレット。

 集合場所をあらかじめ決めて逃げ出したまでは良かったものの、まさかドラゴンがあれ程の実力だとは思ってもみなかったレウス達はそれぞれが悔しさを噛みしめていた。


「へー、逃げ出しちゃったかぁ……でも賢い判断かもね」


 その散り散りになって撤退して行くレウス達一行を草むらの陰で息を潜めて見物しながら、メイベルはこんなものでしょうね……と呟いた。

 期待していた割にはかなりの苦戦を強いられていたレウス達に失望すると同時に、改めてあのディルクが生み出したドラゴンの生物兵器の強さに驚愕していた。

 ドラゴンは獲物が分散して逃げて行ったのを見て、どれを追い掛ければ良いのか分からずあたふたしている事から、知能は余り高くないのかも知れないとも分析する。


(あれをもう少し知能の面で強化して、手懐けられればかなりの戦力になりそうね)


 この北の地での偵察と、帝都ユディソスにおける仕事の依頼が終わって報告に向かう時に頼んでみようかしらと考えながら、ドラゴンに見つかってターゲットにされない内に彼女もまたレウス達と同じ様にこの場からの撤退を始めるのだった。

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