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369.敵を知ると言う事、己を知ると言う事

 それでも、自分はワイバーンに乗って空中でドラゴンを迎撃した経験もあるし、魔術が余り使えないので物理攻撃で主に対抗していただけあって、ワイバーンがあればそれなりに戦えるのでは……と思ってしまうメイベル、

 だが今回は自分が戦う為にここに来た訳では無い。あくまで自分はこの北の町にやって来たアークトゥルスの生まれ変わりだと言っているあの男が率いている一行が、どんな手段でドラゴンに対抗するのかを偵察しているだけなのだ。

 それに、自分だってドラゴンと戦うならワイバーンや部下の団員達が必要なので、この先から徐々に感じ取れる様になって来た膨大な魔力の場に居るであろうドラゴンと戦うつもりは無かった。

 そう思いながらこっそり尾行を続けられているとは知らないレウス達の前に、お目当のドラゴンが姿を現わしたのはそれからすぐの事だった。


「うわ……何だあの地獄絵図は?」


 そのドラゴンの姿と、ドラゴンの周囲の状況を見たレウスの口から最初に出て来たセリフがそれだった。五百年前に様々な冒険で経験を積んだ彼は、口に出すのも恐ろしい程の光景を見た経験だって何回もあった。

 しかし今、その口に出すのも恐ろしい光景をまた見てしまった。

 何故ならレウス達の視線の先には、地面に丸まって物凄いいびきを立てているドラゴン……と、そのドラゴンに食い荒らされたのであろう様々な動物の死骸が骨や肉の破片のまま放置されていたのである。

 しかも血の臭いと混じって物凄い悪臭を出しているので、思わず鼻を覆ってしまうレウス達。


「うげっ……何だこりゃあ……」

「うええ、臭い~!! 気持ち悪い~!!」

「鼻がおかしくなりそうだな……」

「だ、だってほら見てみろ。後片付けもろくにしないみたいだし口の周りもその栄養分になってしまった動物たちの残りカスがこびりついているんだぞ!!」


 顔をしかめながらもソランジュが指を差した先には、ドラゴンが寝息を立てている口がある。

 確かに彼女の言う通り、ドラゴンの口の周りには色々なものが混ざり合って訳が分からない位に変色している食べ物のカスがついたままなのだ。

 それが悪臭の原因の一つで、しかも平原に吹いている風に乗ってこっちに寝息となって飛んで来るのだからどうしようもない。

 これには、遠巻きにレウス達を偵察していた盗賊団の女リーダーのメイベルも気持ち悪くなってしまうのは当たり前だった。


(うぐっ……あれは流石に私もキツイな……!!)


 鼻と口を、茶色の手袋をはめている右手で覆いながら顔をしかめて偵察を続ける彼女の視線の先で、レウスはもう一度探査魔術を発動してみる。

 目に見えて存在が確認出来るこの距離なら、流石に探査魔術に反応するだろうと思っていたのだが、事実はおとぎ話よりも奇妙なものだった。


「おかしい……やはりおかしいぞ、あのドラゴンは存在が確認出来ない!!」

「さっきもそれ言ってたけど、こうやって目の前に居るんだからおかしいでしょそれって!」

「俺だっておかしいと思っているさ。だがな、現実にこうやって探査魔術にも反応しないのは何かがあるんだ! お前等だって凄い魔力を感じたって言ってただろう?」

「そりゃまあ、確かにそう言ったけど……でも探査魔術に引っ掛からないのは変よ!」



 しかし、そのレウスとアレットの言い争いをそばで聞いていたヒルトン姉妹の姉ティーナが、もしかしたら……と一つの仮定を述べ始めた。


「もしかすると、先程私達が感じ取った凄い魔力って言うのはあのドラゴンの魔力では無くて、既に食べられてしまった多数の生物達の亡骸が発しているものでは無いでしょうか?」


 ティーナの仮定を横で聞いたサイカとソランジュが、それに対してハッとした顔をする。


「え……?」

「た、確かにお主の言う通りなら辻褄が合うな。レウス、その探査魔術は魔力に反応するのだろう? だったらどんな風に探査出来ていたんだ?」

「えっと……生きている魔力と死体から空気中に放出される魔力には若干の違いがあって、探査魔術では生きている魔力しか探査出来ないんだが、その生きている魔力が一切確認出来なかったんだ。だから俺はドラゴンの存在が無いと判断した」


 しかし、探査魔術を使っていない残りのパーティーメンバー達には魔力が平原の奥から感じ取れた。

 どうやらそのティーナの仮定は当たっていたらしい。


「それはそれで分かった。それに俺の使う探査魔術でドラゴンが反応しないのは、魔術の類が一切反応しないって言うのも本当らしいな」

「とすると本当に武器での攻撃しか駄目らしいな。俺達は回復魔術を使ったり飲む回復薬で回復したりしながら戦うしか無さそうだぜ」


 そんな分析を続ける一行の目の前で、ドラゴンは相変わらず丸まって目を閉じながら寝息を立てている。

 こんな戦う様な関係じゃなかったら微笑ましいのになーと思いつつも、目の前で寝ている黒くて大きなドラゴンは間違い無くこの辺り一帯に被害をもたらしているドラゴンなのである。


「良し……それじゃあ早速討伐するとしようか」


 そう言いつつ踏み出そうとしたレウスだったが、その右肩を突然何かが掠めて行った。

 そしてその掠めて行った物が、ドラゴンの顔面に命中した……。

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