368.ドラゴンの痕跡
登場人物紹介にメイベル・ダウランドを追加。
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そのメイベルの存在に気が付く事も無いまま、レウス達はアイクトースの町から東に向かって十五分歩いて目的のセロデス平原に辿り着いた。
「セロデス平原ってのは、どうやらここからずっと北に向かって続いているみたいだな」
「ええっと……この道の立て看板によるとここからまた東に向かって進めば砂漠があって……西へ向かえば森があるみたいだ」
しかしその砂漠にも森にも今は用事が無いので、リーダーのレウスを先頭にして一行は平原をどんどん北に向かって進む。
だが、平原に入ってすぐにレウスが表情を強張らせる。
「……凄いな、この魔力は」
「やっぱり感じる?」
「ああ、ちょっと待ってくれ。探査魔術を展開するから」
魔術師のアレットはパーティーメンバーの中で魔力の流れに敏感な一面があるのだが、ドラゴンの生物兵器が発している強大な魔力をレウスと同じくこの場所からでも感じ取れたらしい。
そのアレットの横で平原の向こう側に向かって探査魔術を展開したレウスだったが、今度は別の違和感を覚える。
「……あれっ?」
「どうしたの?」
「存在が……無い?」
「は?」
「おいおい、何を言っているんだ貴様は?」
パーティーメンバーが口々に、レウスの発した一言に疑問の言葉を発する。
しかしレウスは前を向いたまま、何処か抑揚の無い口調でその違和感の正体を自分の後ろに続いて歩いて来たパーティーメンバー達に向けて発した。
「魔力は感じる。だが……その魔力はどうやらドラゴン自体の体内から発されている魔力では無いみたいなんだ」
「いや、言っている意味が分からないんだが……何だそれは?」
セバクターの疑問に、レウスは自分が探査魔術を展開して分かった事をそのまま伝える。
「だからその……ドラゴンの存在自体が無いんだよ。何て言うのかなあ……探査魔術を展開しても、そのドラゴンの存在自体が見つからないんだ。この平原の中には居ないのかも知れない」
「ちょっと待ってよ、それっておかしいでしょ?」
「そうですわ。魔力自体は感じ取っているんですよね?」
「確かに感じている。凄い魔力をこの先から感じるんだ。だけどドラゴンの存在自体が無いのは変なんだ。俺も何がどうなっているのかさっぱり意味が分からない」
ヒルトン姉妹からの問いに対し、レウスは首を横に振ってお手上げ状態だと肩を竦める。
それでもこの先にドラゴンが居る筈なので、進んで実態を確認しなければならないのだが、その進んで行った先で一行は驚愕の光景を目撃する事になった。
まず、平原を進んでいたその一行が気になったのは独特な「臭い」である。
「……なぁ、やけに腐敗臭がしないか?」
「本当だ。これって多分生き物が死んだ時に発する臭いよね? 血の臭いとか腐った肉の臭いとかさ」
ソランジュとサイカが、冒険者として魔物と戦った後に嗅いだ事のある臭いを思い出して顔をしかめる。しかし、その臭いの正体は今もまだ視界に入っていないのが気になる。
その臭いを察知している二人の横で、今度はサィードが足元にあるものを見つけた。
「お……おいっ、これってドラゴンの足跡じゃねーのか?」
「うん……そうだな」
声を上げたサィードにいち早く反応したドリスがサィードの指差す先を見てみると、そこにはドラゴンが踏み荒らしたと思わしき足跡が幾つもあった。
しかもそれだけでは留まらず、地面に鋭い爪が食い込んだ跡や木の幹を爪で引っ掻いた様に抉られた跡が残っているので、ここでドラゴンが暴れ回ったのは事実の様である。
「この痕跡の残り方からすると、まだそんなに暴れ回って時間が経っていないみたいだな」
「ああ。それからドラゴンの痕跡に隠れて分かりづらいけど、他の動物の痕跡もあるから見境無く生き物を襲っているらしい。俺等も気を付けなければ」
レウスの分析にセバクターも同意し、一行は更に平原の奥へと進む。
すると奥に進むにつれて生き物の毛が散乱している場所が増えて来たり、血の臭いが段々と濃くなって来ているので、間違い無くこれはドラゴンの元に近付いている証拠だろう。
全員が武器を抜いて緊張感漂う中での進軍となっている中、その一行から少し遅れる形で気配をなるべく殺しながらメイベルが追跡していた。
「ここにもドラゴンの痕跡……この先にドラゴンが居るのは間違い無いわね。ここから先は私でも怖いから、隠れてあの人間達の戦いぶりを見させて貰いましょうかね」
自分の部下であるクロヴィスやエドワルドが居ればその恐怖心も多少は薄れるのだが、今回はワイバーンを使わずたった一人でここまでやって来ただけあって、自分一人でそのドラゴンと対峙しても勝てる可能性は恐ろしく低いと彼女は分析していた。
仕事を請け負うに当たってドラゴンの情報を色々とカシュラーゼから仕入れている限りでは、このエスヴァリーク地方に飛んで行ったのは魔術が通用しない異色のドラゴンらしい。
筆頭魔術師のディルクが言うには、何でもドラゴンの遺伝子を組み替えて試行錯誤をして様々なパターンの生物兵器を生み出しているらしいのだが、その辺りの事情に疎いメイベルには何が何やらチンプンカンプンだった。




