365.北の地ベリシャンへ
レウスを先頭にしてフィランダー城の中に入った一行は、ジェラルド達が待つ城の中庭へと向かった。
そこには既にジェラルド、フォン、ニーヴァス、そして数人の騎士団員と魔術師達が待っていたので、いよいよドラゴンが被害をもたらしていると言う地へと進軍する緊張感が高まって来る。
「良し、全員揃ったな。それではこれより、ドラゴンの被害が一番激しい北のベリシャンへお前達を送り込む。準備をするならまだ間に合うぞ?」
「いいえ、俺達はもう大丈夫です陛下」
「そうか。それなら早速向こうの騎士団の詰め所に行って貰うぞ。始めに言っておくが向こうの被害はかなり深刻だ。ドラゴンの被害が広範囲に及び、既に廃墟同然となっている町や村も多数だ。至急ドラゴンを討伐して来てくれ」
急ぐんだったら最初からドラゴン討伐の為の武術大会なんか開いてるんじゃねーよ、と心の中で思うレウスだが、これから自分達が北の地に向かってさっさとドラゴンを討伐してしまえば済む話である。
なので一刻も早くその地へ向かうべく、一行はフィランダー城の中庭に即席で設置された魔法陣の前に集められたのだ。
レウス達八人とアレットを含めた合計九人が一度に乗っても、まだまだスペースが余る程に広いこの魔法陣でそのベリシャンと呼ばれる北の地へと向かうのだが、どんな地なのかを事前に聞いておいた方が良いだろうと考えたレウスはジェラルド達に質問をする。
「かしこまりました。ですが陛下、その前に教えて下さい。俺達が向かうベリシャン地方とはどんな地方なのですか?」
「どんな……って?」
「例えば山が沢山あるとか、海沿いの地方だとかそう言うのです」
「ああ、それだったらカシュラーゼとの国境から余り離れていない地域だ。だが安心してくれ。カシュラーゼの方は自国の守備に手一杯の状況だし、そもそも海を挟んだ軍事大国である俺達の方に手を出そうとはして来なかった。だからお前達は気兼ね無くドラゴン退治に挑んでくれ」
「地形としてはどんな場所なんです?」
「地形で言えば、そっちは砂漠と森に挟まれた海沿いの平原だ。ドラゴンはその平原の中に悠々と陣取っていて、普段は地面に丸まって寝ているんだが……その睡眠を邪魔する為に近付く者を徹底的に排除するって話だ。だから戦いやすいと言えば戦いやすいだろうが……問題は海沿いだから海風かな……それ位か」
海沿いの場所は海の上で吹き荒れる風が陸地にまで飛び込んで来る為、髪の毛がぐしゃぐしゃに乱れた経験ならある。
だけどそれ位なら戦いには特に影響しないだろうと判断し、レウス達はいよいよ北の地へと転送を開始されるのだが、もう一つだけ聞いておきたい事があった。
「そうだ、あのハンドガンの奴等はどうなったんです?」
「そいつ等は俺達に任せておけ。そっちはドラゴンをぶっ潰してくれりゃあそれで良いからよ」
「……分かりました。ではお任せしますよ。それと戻って来る時ってどうすれば良いんです?」
「それは向こうの騎士団に話を通してあるから、戻って来る時には向こうが魔法陣を用意してくれる筈だ」
「それなら安心ですね。それでは行って参ります」
「ああ、しっかりやってくれや」
それだけ最後に確認し、レウス達が中庭からまばゆい光に包まれて消え去った。
中庭の魔法陣もこの一回きりの使用なので、後は自分達の仕事を果たすべくジェラルドはフォンとニーヴァスに命じる。
「良し、後はあいつ等にドラゴンを任せて……俺達は俺達であの捕まえた奴等の事情聴取を進めるぞ」
「はっ」
「それから昨日セバクターの奴が言いに来た、大量の魔晶石を奪い取ったって赤毛の奴等も行方を調べるんだ。アークトゥルスの生まれ変わりの話によれば、あいつ等はマウデル騎士学院の爆破事件からずっと因縁があって、それを追い掛けて来た結果このエスヴァリークにまで辿り着いたって訳だからな」
「もしこの地にもその赤毛の連中が入り込んでいたとするなら、何かを企んでいる可能性もあるって事ですか?」
「その可能性は高いな」
セバクターは元々そのカシュラーゼと繋がりが強い赤毛の二人と一緒に行動していたと言う話もレウスから事情聴取をする上で聞いているし、このエスヴァリークで爆破事件でも起こされたらたまったものではない。
しかも今回、その奪い去られたと言うのが樽や家具に入って運び出されようとしていた魔晶石だったので、爆弾を作るなら絶好の条件が揃っているからだ。
「まあ、魔晶石を使って結晶石の爆弾を作るにしろ作らないにしろそんなに大量の魔晶石が奪い去られたって言うのであれば、必ず何処かで目撃情報がある筈だ。それを徹底的の帝国中にリサーチを掛けて洗ってくれ」
「分かりました」
この軍事国家でそんな大事件が起こるとは考えたくないし、考えたくないからこそ巨額の費用を軍事に回しているんだし、武術大会だって年に四回も開催しているのだ。
だからもしこのエスヴァリークでそんな大事件が起ころうものなら、その犯人を八つ裂きにして処刑してやろうかと考えているジェラルド。
その彼がこの後、とんでもない危機に襲われるとは思ってもみなかったのだ……。




