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362.出発準備の日の修羅場(その2)

「……あら?」

「どうしたんだ、サイカ?」


 それを見たのは本当に偶然だった。

 ユディソスの城下町で観光がてら色々な店を回っていたレウスとセバクター以外の一行の中で、サイカが視界の端で見覚えがある人物を見た様な気がしたのである。

 それがただの見間違いであれば良いのだが、どうも気になって仕方が無いサイカは他のメンバーにも声を掛けて一緒にその人物を見かけた方へと駆け出した。


「どんな人を見かけたんだ? 人間か? 獣人か?」

「人間だと思うんだけど、とにかく鮮烈な印象を残す人物なのは間違い無いわよ。赤い色だったわ……」

「赤い色……って、まさか貴様が見たって言うのは、あの赤毛の二人か!?」

「そうかも知れないわね!!」


 だったらここでその二人を捕まえてしまえば良いだろうと思っていたのだが、現実はそこまで甘いものでは無かったらしい。

 武術大会が終わって人混みが減ったとは言え、やはり大小二十の国家を抱えている大きな帝国の帝都だけあって、メインストリートから少し外れても人通りが多い。

 赤毛の二人かも知れない人影を見つける事は叶わず、結局サイカの見間違いと言う事で終わってしまったのだった。


「本当に見たのか?」

「うーん……やっぱり見間違いだったかも知れないわ。ごめんね」

「全く、それだったら最初から一人で行けば良かったじゃない。ほら、さっさと準備の続きをするわよ」


 エルザに聞かれて自分の勘違いだと言う事で謝罪をし、無駄に走らされた事でイライラしていたドリスが二人を促して、再び一行は準備の為に動き出す。

 その一行の姿を、物陰に隠れて見ていた「その二人」は安堵の息を吐いた。


「ふう……危なかったな」

「そうですね師匠。あの人達がここに居るって言うのはディルク様やユフリーさんから聞いていましたけど、まさかこんな街中で見つかりかけるなんて凄い確率ですね」


 人込みに紛れ込んでしまえたから上手く逃げ切れたものの、もしこの人込みがもう少しバラけていたら間違い無く自分達は見つかっていただろうとヨハンナは胸を撫で下ろした。

 その一方で、彼女の師匠であるヴェラルは腰のロングソードに手を掛けながらまだ息を潜めていた。


「しかし、あのユフリーと彼女の協力者のドゥルシラが捕まってしまったなんてな。明け方にディルク様から連絡を受けた時は俺が寝ぼけて何か別の指示と聞き間違えたのかと思ったが、面倒な事態になったな……」


 ロングソードの柄から手を放し、あの一行が完全に視界から消えたのを見て物陰から出て再び人込みの中を歩きながら、昨日の夜に襲ったあの取り引きの内容について思い返していた。


「しかし、セバクターがまさかこちらに魔晶石を売って動きを探ろうとしていたなんてな。ファラリアからの連絡が無かったら何をしようとしていたのか分からなかった」

「そうですね。アイクアルの魔晶石はそれなりに流通していますけど、その大半があの国内で消費されてしまいますからね。ファラリアさんとゴーシュさんが貿易関係の動向を探っていて、最近アイクアルから大量に魔晶石が輸出されているって聞いて、独自に調査をしていたらまさかのセバクターが取り引き相手でしたもんね」


 そしてその後にあの男は突然、ファラリアに対して魔晶石は要りませんかと持ち掛けて来たのでこれは何かあるなと感づいたのである。

 ならば取り引きで金を渡さず、魔晶石だけ全て奪い取ってしまおうと考えたファラリアはゴーシュに連絡をし、ヴェラルとヨハンナとも面識がある男を取り引き相手に指定してその取り引き場所に潜入させ、タイミングを見計らって突入したのであった。


「で、その魔晶石は既に船の中か?」

「いいえ、ワイバーンで運びましたよ」

「あっ、そっちにしたのか?」

「はい。船ですと港で色々と検査とかがあって、荷物の検査に向けて中身をごまかしたり、中身がバレてしまった場合に荷物の検査官を買収したりするのが何かと面倒ですからね。それに検査官を買収するのにそれなりのお金を使わなければならないのもシャクですし。しかも今回は家具の中に魔晶石を詰めた大型の荷物ですからね。港以外に船を止める場所もなかなか見つからないし、ここからじゃ港も遠いですからワイバーンにしたんですよ」

「ははっ、流石は俺の弟子だ。しっかりと奪い取る術を心得ているな」

「いいえ、元々私は辻斬りでしたから、奪った物を足がつかない様に売りさばくのは慣れているんですよ」

「そうか……それもそうだな」


 二人して笑いあった後に真顔に戻り、ディルクからの連絡通りに待ち合わせ場所へ向かうべく歩き続ける。

 ソルイールからの二人を助けるべく、奪還作戦で協力してくれると言っていたダウランド盗賊団の獣人二人とまずは合流しなければならない。

 本当はこんな街中では無く、このユディソスのそばにある山の中みたいな人目につかない場所を希望していた二人だったが、ダウランド盗賊団からの女リーダーからの「人が沢山居る場所なら、逆に人目が沢山あり過ぎて誰も気に留めないでしょ」と言う一言で、ユディソスの外れにある廃屋での待ち合わせが決まったのだから、ヴェラルとヨハンナもそれで承諾するしか無かった。

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