360.奪還作戦
「ディルク様は、最近このカシュラーゼから見た南の国々で勢力を伸ばして来ている盗賊団をご存じですか?」
「さあ、知らないねえ。盗賊団なんて僕には興味無いから」
「そうですか。それでは私がご説明致します。その盗賊団と言うのは大きく分けると三つの勢力がありまして、一つがダウランドと言う若い女が率いている新興勢力のダウランド盗賊団。二つ目はシンベリと言う若い女が率いているシンベリ盗賊団。最後の一つがブローディと言う男が率いている、ベテラン揃いのブローディ盗賊団です」
「そのまんまだね。で、その盗賊団に奪還作戦の実行をお願いするって言うの?」
若干呆れ顔になるディルクに向かって、ドミンゴは「左様でございます」と言ってから話を続ける。
「今回はダウランド盗賊団の方に連絡を取りまして、奪還作戦の実行を依頼します。ダウランド盗賊団は最近少しずつ名の知れ渡って来た盗賊でして、獣人の団員が多いのが特徴です」
「へえー、そうなんだ。それじゃあ獣人に奪還を任せるって事?」
「はい。エスヴァリークの騎士団にも獣人は居ますけど、人間と比べると圧倒的に数が少ないです。比率で言えば人間が八で獣人が二ですかね」
「そんなに少ないの?」
「はい。獣人は大体アイクアルに集まっていますから。ほら……獣人だけの集落のルルトゼルもアイクアルの領土内にありますし。ですから獣人とエスヴァリーク帝国騎士団との関わりは余りありませんから、人間よりも身体能力が高い獣人を動員して一気に奪還しましょう」
盗賊団と言えども、金さえ払えば傭兵の様な事もしてくれるので利用する価値が十分にあると考えるドミンゴ。ただし、奪還するに当たって実行するのは連中が出発した後になる。
それまでにどんな獣人を派遣して貰うのか、どれだけの人数で奪還作戦に当たるのか、そして誰が指揮を執るのか等の細かい打ち合わせをしなければ仕事として成立しないのである。
そのやり取りを横で聞いていたライマンドは、そうそう上手く行くのかなーと首を傾げる。
「でも獣人って言ってもさー、どんな奴等なのか分からねー訳だろ? もしかしたら金次第でエスヴァリーク側に付かれちまう可能性だって否定出来ねーぜ?」
「ふん、その場合は幾らでもやりようがあるんだ。もしエスヴァリークにその獣人達が買収された場合、魔術技術の提供を提供しないぞと国に脅しを掛けてあげるとかな。盗賊団も傭兵も金が手に入るんだったらどっちにでも味方に付くだろうから、エスヴァリーク以上の金を出してやれば文句は言うまい?」
「まあ上手く行けば良いけどよ。俺にはどうしても気になる事があるんだよ」
「何がだい? ドミンゴの提案に不安があるの?」
何をそんなに気にしているのだろうかと、ドミンゴのみならずディルクもライマンドの考えが読み取れない。
困惑する二人に向かって、ライマンドは自分の懸念している事を話し始めた。
「不安って言うか……何だか嫌な予感がするんですよ。こう……得体の知れない不安感って言うか」
「考え過ぎだ」
「そうだよ、ライマンドらしくないじゃないか。ドミンゴの方は冷静な性格で彼がウジウジ悩むなら分かるけど、君の方は普段からあんまり何も考えて無さそうだし君が悩んでいたら騎士団の士気にも関わると思うけどなあ」
「……あれっ、もしかして俺の事を小馬鹿にしてます?」
「そうなるよね」
口元に笑みを浮かべて頷くディルクに対して、苦笑いを浮かべるライマンドと彼を冷めた目で見つめるドミンゴの構図が出来上がった。
「ハッキリ言いましたね。まあ良いや、確かに考え過ぎかも知れませんからその計画でどうぞ進めて下さい。俺は引き続きエスヴァリークに居る赤毛の二人からの連絡を待ちますよ。ソルイールの二人が捕まっている場所の情報とかが分かるかも知れませんからね」
「頼むよ。それからドミンゴはさっき自分で提案した通り、その……ええと、何と言う名前の盗賊団だっけ?」
「ダウランド盗賊団ですね」
「そうそう、それそれ。そのダウランド盗賊団に連絡を取って奪還作戦の準備。後はライマンドと一緒に赤毛の二人からの連絡を待つんだ。もし赤毛の二人の協力も必要なら、その分の経費は用意するからって言って協力させるんだよ」
「かしこまりました。ディルク様はここで研究の続きですか?」
「そうだね。それから後でレアナ女王の様子を見に行って来るよ。彼女は塔で幽閉されっ放しだからね。でもそれにしては余り堪えた様子が無いのも不思議なんだが……芯が強いのか諦めているのか分からないし。それじゃ頼んだよ」
「はっ!」
「かしこまりました」
二人が返事をして研究室から出て行くのを見届けたディルクは、再び研究に戻る。
レアナの様子はたまに見に行っているのだが、彼女がやつれたとか元気を無くしたとかその様な話を聞いた事が無いので、何時の日かあのアークトゥルスの生まれ変わりがここに助けに来てくれるとでも思っているのだろうか?
(そんな事はあり得ないけどね。僕の作った魔力のガードは鉄壁なんだから!)
自分の技術に不安を感じたら隙が生まれる。
その自信があるからこそ、ガードも鉄壁だと胸を張って言えるディルクの指示の元、ソルイールの二人の奪還作戦がレウス達の知らない所で幕を開けた。