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352.人体実験開始

「うぐ……!?」

「奇襲には慣れていないみたいね」


 その音と共にドサッと倒れ込んだペーテルを見下ろしたユフリーは、とどめに彼の顔面を踏み潰して気絶させる。

 殺しの威力はあの路地裏の五人に対しての実験で証明済みなので、次は出血の量を測る為の実験をしなければならない。どれ位の弾丸を打ち込んで、どれ位の出血量で死に至らしめる事が出来るのかと言う人体実験を実行するには絶好のチャンスである。


(でもこの男……ここに侵入したって言うドゥルシラを退けたってだけあって、どれ程の実力なのか少しは期待していたんだけど、まさかこんなにあれがスムーズに効くなんて私もビックリしちゃった)


 事前に手を回していたおかげでこうして実験をスムーズに出来そうなのだが、問題はここから先である。

 ユフリーはこの時、非常に大事な話を一つ……いや二つ忘れてしまっていた。

 その内の一つがこの人体実験を行なうに当たって、隠密に行動しなければならない以上絶対に欠かす事が出来ない装備を装着する事だった。

 それに気が付いたのが、他のメンバーを狙いに行こうと歩き出したこの時である。


(あっ! しまった……サイレンサー忘れてた!)


 三連続で魔力の銃弾を撃ってしまったユフリーは、ハンドガンが入っていた側とは逆のジャケットの内側のポケットから急いでサイレンサーを取り出して、キュルキュルと筒の先端に回して取り付ける。

 しかし今の音は屋敷に響いてしまっていたらしく、バタバタと誰かが駆けて来る音が聞こえて来た。


「どうした……って、え?」

「ちょっと黙っててよ」


 今度は先程の様な乾いた音では無く、パシュッ、パシュッと奇妙な音が二回連続で静かに響く。

 それと同時に、何事かと様子を見に来たソランジュの身体がゆっくりと後ろに倒れた。


「ぐほっ……!?」


 だが、ここでユフリーの計算外の事が起こる。

 ソランジュが倒れた先には、花瓶の乗っている木製のスタンドテーブルがあったのだ。

 玄関に向かうまでの短い通路にオブジェとして置いてあるそのスタンドテーブルごと花瓶を粉砕したソランジュの身体によって、ドガシャバリーン!! と派手な音が屋敷中に響き渡った。


(げっ……!?)

「何だ、今の音は!?」


 バタバタと屋敷中が騒がしくなる。

 玄関に向かって駆けて来る複数の足音に、ユフリーは咄嗟に壁に張り付いてハンドガンを構える。

 本当はここでさっさと逃げてしまえば良いと思っているのだが、きちんとした実験結果を持ち帰る為には絶好のチャンスでもあるのでまだ粘りたいのだ。


(街中では既にあの五人を殺した事で厳戒態勢が敷かれているから、迂闊に行動出来ないし……ううーん、予定外ね!!)


 チッと舌打ちをして、玄関からリビングに続く扉のそばに張り付いたユフリーは玄関に向かって駆けて来るエルザとサイカを見据える。

 飛び出すタイミングは一瞬。そして狙うタイミングも一瞬。

 二人の死角に隠れ、タイミングを見計らったユフリーはまず先に飛び込んで来たエルザに対して肘打ちをかます。


「おいっ、何がどうなって……うご!?」

「え、エルザ!?」


 いきなり死角から出て来た肘で倒れたエルザに動揺するサイカの足を、的確に狙ってユフリーは銃撃する。


「うぐっ、あ……ゆ、ユフリー……!?」

「き、貴様ぐおっ!?」


 すぐに起き上がって反撃しようとしたエルザにも、ユフリーはその彼女の腹を目掛けてパシュッ、パシュッと二発の銃弾を撃ち込む。

 おまけにサイカが抵抗出来ない様に、脇腹を狙って発砲しておく徹底ぶりを見せる。


「な……何でこんな事をするのよ……!!」

「大丈夫よ、今はまだここで殺しはしないわ。でもどうせ貴女達はここで死ぬけどね。じわじわと……ゆっくりとね……」

「やあああっ!!」


 足を撃たれて潰されたサイカと、腹部を撃たれて悶絶するエルザが戦闘続行不可能になっているのに気を取られていたユフリーの背後から、雄叫びを上げて杖を振りかざして来るアレット。

 だがユフリーも複数人を相手にするに当たって、事前にしっかりと魔術防壁を展開しておいたので全くの無傷で済んだ。


「甘いわよ、アレット」

「くっ……」


 銃口を向けられたアレットは、咄嗟にユフリーと同じく魔術防壁を展開する。

 しかし、その直後に発射された銃弾は展開された筈の魔術防壁をすり抜けて、アレットの腹部と右膝を貫いた。


「ぐあっ……!?」

「ざーんねーん。そっちの出方は予想済みなのよ」

「な、何で……!? どうして……!?」


 魔術が使えなくなった事に気が付くアレットは、今までの事を思い返してみる。

 だがコロシアムからこの屋敷に戻って来るまでずっと魔術を使っていないので、魔術が使えなくなったタイミングがまるで特定出来そうに無かった。


「魔術が使えない……何をしたのよ……ねえ!?」

「ふふ、教える訳無いじゃない」


 不敵な笑みを浮かべて自分を見下ろすユフリーに対し、アレットはこの女が絶対に何かをしたのだと確信した。

 そして思い付いた一つの可能性がこれだった。


「ま、まさか貴女……あの揚げ物の詰め合わせに何か仕込んだの!?」

「あら、察しが良いじゃない。流石勇者アークトゥルスの生まれ変わりと一緒に旅をして来ただけの事はある様ね」

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