349.城下町での再会(その2)
「ううーん、繋がらない……」
「えーっ、またなの?」
「夕方に掛けた時も繋がりませんでしたわよね? もしかしたらもう皆さん寝ているのでは?」
「そーかなぁ……」
夜の通話スポットに、呼び出し音だけが空しく響き渡る。
飯を食ってから屋敷に戻るので遅くなります、と通話スポットから屋敷に居る筈のメンバーに連絡をしたのに繋がらなかったので、仕方無く飯を食った後にまたこうして連絡したレウス。
だが、繋がる気配は無かった。
その横ではあの武術大会の時に一緒に決勝トーナメントへ進出した、ドリスとティーナのヒルトン姉妹の姿があった。
何故この三人が一緒に居るのかと言うと、レウスがジェラルドとのエキシビションマッチを終えてフォンに送り届けて貰う途中まで時間はさかのぼる。
「あらっ、貴方は……」
「何だ、貴方もここに居たの?」
「あれ? お前達はヒルトン姉妹だよな?」
フォンと一緒にセバクターの屋敷までの道のりを歩いていたレウスが、ユディソスのメインストリートで前方から歩いて来るヒルトン姉妹と遭遇したのだ。
この二人が決勝トーナメントに出ていたのは実際に二人と戦ったからこそレウスは良く覚えているし、審判役の騎士団員でその二つの戦いを判定していたフォンにも勿論記憶に新しい。
しかし、二人はレウスがあの沢山の仲間達と一緒に居た時の姿しか見ていないので、騎士団員のフォンと二人きりで歩いている姿に違和感を覚えたらしい。
「そうよ。でも貴方一人だけ? 他のみんなは一緒じゃないの?」
「ああ、えーと俺だけ優勝の祝いの言葉とか色々陛下から頂いていたんだ。お前達も俺だけ残れって言われてたから知ってるだろ。……ねえ、そうですよね?」
本当はエキシビションマッチを行なっていたとか、自分がアークトゥルスとしてジェラルドと喋っていたとかの事実を口に出せないレウスが、何とか咄嗟に思いついたその理由で説明してからフォンに話をバトンタッチ。
振られた側のフォンは流石は特殊部隊の隊員だからなのか、特に動じる風でも無く淡々と答えた後に、自分もこのヒルトン姉妹に対して疑問に思っている事を口に出した。
「そうだ。それよりもお前達の方こそ何故こうやって出歩いているんだ? 確かお前達が言っていたその「みんな」と一緒にニーヴァスに送り届けられたんじゃなかったのか?」
「いいえ、私とドリスはこのユディソスにある宿屋に泊まっておりますのでそこまで送って貰ったんですよ。でも夕食がまだでしたのでこれから食べに行こうかと」
だが、そのティーナの夕食と言う単語を聞いて妹のドリスがある事を思い出した。
「あっ、そうだ姉様! 騎士団員の人も居るんだし、この際だからあの事も話しておいた方が良いんじゃない?」
「え……何でしたっけそれって?」
「もう、忘れちゃったの? ほら、あの路地裏から出て来た怪しい人影の事よ!」
「あ、ああ~、そう言えばそうでしたわね」
「人影?」
自分に対して一体何を話そうと言うのか?
フォンはズボンのポケットから聞き取り用の紙とインク付きのペンを取り出しながら聞き返す。
そんな彼に向かって、姉のティーナは怪しい人影の事を話し始めた。
「路地裏から出て来る不審な人物の目撃情報です。ほら、路地裏で五人の方が変死体で見つかったってお話があったじゃないですか」
「ああ、その話か。それに関連した目撃情報なのか?」
「それはどうか分かりませんが、私達……その事件があったって言う路地の近くを通り掛かりまして。その時に路地裏から出て来るフードを被った人影を見たんです」
「じゃあちょっと一緒に来てよ。その路地の場所に案内するから」
言葉だけでは説明し切れないので、ドリスが先導して問題の人影を見たと言う路地へと案内する。
その案内して貰った場所はまさに、五人の変死体が見つかった現場の路地の出入り口であった。
「ここなんですけどね」
「ここは……五人の死体が見つかった路地じゃないか。ここから出て来たフード姿の人影だと?」
「はい、そうです。武術大会初日の二日前、私達は夕食を摂ろうと思いまして魚料理のお店に向かっていたんです。その途中でここを通り掛かったら、スッとこの路地から出て来る人が居たんです」
「開幕初日の二日前……現場検証と照らし合わせると、あの殺人事件があったと思わしき日と一致するな。その人影はどんな人相とか、そう言うのは覚えていないか?」
「うーん、フードを被っていた横顔がチラッとしか見えなかったから私は分からなかったなあ。姉様は?」
「同じく……申し訳ありませんが、人相についてはフードで良く見えませんでした」
それならば、とフォンは別の視点から聞き込みを続ける。
「だったら他に覚えている事は無いか? 例えばそのフードの色とか、どっちに向かって歩いて行ったとか、背丈はどれ位だったとか、歩き方とか性別とか……」
人相が分からないなら、他の視点から少しでも犯人に繋がる手掛かりを探すしか無い。
そう考えるフォンに対して、ヒルトン姉妹はその時の記憶を辿って覚えている限りの情報を提供し始めた。




