347.思わぬ来客
「あの、こんばんはー」
「おや……貴女は確か、予選の日に城下町で……」
ぺーテルも顔見知りのその来客は、この屋敷の中に集まっている全員にとっても顔見知りの人物だった。
「あらっ、ユフリー?」
「おー、ユフリーちゃん!? 予選の日以来か?」
「そうそう、どうもお久し振り……って程でも無いわね」
「そうだな。でも何で貴様はここが分かったんだ?」
「ああ、えーとさっき買い物の帰りに貴方達を見かけてね。あ、これさっきお店で買った揚げ物の盛り合わせなんだけど、良かったら夕飯のおかずにどう?」
そう言いながらユフリーが差し出して来たのは、紙袋に包まれてまだ温かさを保っている物体だった。
「ほう、これはなかなかおいしいお店の揚げ物ですね」
「そうですね。この街の人に聞いて調べて買ったんですよ」
「えっ、そんなわざわざ調べて買ったのに良いのか?」
「うん、ちょっと買い過ぎちゃって。だから良かったら皆さんでどうぞ」
「何だか悪いわね、それだったらお言葉に甘えて。良かったら貴女も一緒に食べない?」
サイカがユフリーを誘ってみると、彼女は少し迷った様子を見せた。
しかし最終的には納得したのか、そのサイカの誘いに乗って一緒に夕飯を摂る事にしたのである。
「うーん……じゃあお願い出来ますか?」
「良し、それじゃ一緒に食べようぜ。でもレウスの奴おっせーな。そんなに皇帝との話が長引いてんのか?」
せっかくユフリーまでやって来たのに、残った一人のメンバーであるレウスがなかなか戻って来ない事に不信感を覚えるサィード。
だが、そんな彼をアレットが説得する。
「ジェラルド皇帝に呼び出される位だから、何か大事な話をしているんじゃないかしら? だからレウスの分だけ少し残しておいて、先にみんなで食べちゃいましょうよ」
「あー、そーすっか」
「それでは私はお風呂を入れて参りますので、ごゆっくりどうぞ」
と言う訳で、レウス抜きで先に食事を始める一行。
ユフリーの買って来た揚げ物は、揚げ物なのにそこまでくどくない上に食べやすいのでどんどんメンバー全員の胃の中に収められて行く。
「旨い! この肉」
「でしょー? やっぱり調べて買った甲斐があったわ。あ……それとちょっと遅くなったけど皆さん武術大会お疲れ様でした」
「あら、観戦に来てたの?」
「そうよ。予選日の朝に観戦に向かうわって言ったじゃない。だからコロシアムでみんなの戦いを今日と明日に渡って見ていたのよ。でもまさかここに居る全員が決勝トーナメントに進出するなんてちょっと予想外だったわ」
観戦していたユフリーのその感想については、実際に決勝トーナメントで顔見知りとばかり当たった五人にとっても予想外だった。
「そーでしょ? 私達もまさかお互いに全員が決勝トーナメントに進出出来たなんて思ってもみなかったし」
「そうだよな。貴様も私も同じ感想だったよな」
「へー、そうなんだ。それと思ったんだけど、今回の決勝トーナメントに進出した八人って女の比率が多かったわよね。ここに居るそこの銀髪の人、それからそっちのピンク色の髪の人と、あの優勝したレウスって男の人を除いては全員女の人だから、同じ女として女の活躍が沢山見られて何だか嬉しかったわ」
しかし上位三人がレウス、セバクター、そしてサィードの男だけだったのでもっと女には頑張って欲しいと考えているユフリーだが、ふと気が付いた事があった。
「あら、そう言えば決勝トーナメントに進出した残りのお二人は?」
「えっ? さぁ? 私達は直接の知り合いじゃないし、あの人達は個人で宿を取っているからって騎士団の人に送り届けて貰ったわよ」
「ふーん……そうなの」
曖昧な返事でとりあえず納得するユフリーに対し、ペーテルが声を掛けて来た。
「お食事中失礼致します。お風呂の準備が整いましたが、もしよろしければお食事後に入って行かれますか?」
「えっ……あー……よろしいんですか?」
「勿論でございます。お食事をお持ちして頂きましたし、皆様の応援までして頂きましたのでよろしければどうぞ」
「いやー、何だか悪いですね。ええっと……こんなに大きなお屋敷のお風呂って事は全員一緒に入れたりするんですか?」
「はい、大丈夫です」
「だったら全員で一緒に入りましょうよ、ねっ、ねっ!!」
ユフリーの誘いに乗って、女達は全員揃って風呂に入る事になった。
食べながらその会話を横で聞いていて「これはまたと無いチャンスだぜ!」と悟ったサィードは、夕食の片づけを終えて部屋で荷物の整理をした後に早速風呂を覗きに行く事にする。
(でっへへへ、こんなチャンスは滅多にありゃしねえからな!!)
頭の中に良くない思考がぐるぐると思い浮かぶサィードは、前回イーディクトのソランジュの実家での反省を踏まえて用心しながら脱衣所へ向かう。
(前回はレウスとギルベルト騎士団長とゴーシュのおっさんに止められた上に、シャロット陛下から魔術通信が入って結局覗けなかったけど……今回はあの邪魔なレウスも居ねえしセバクターとペーテルのおっさんは二人でこの先の事を話し込みに行っちまったし、このチャンスを逃がしてたまっかよ!!)
だが、そのチャンスが別の意味でピンチを呼び込んでしまう事になろうとは、この時点のサィードは知る由も無かった。