343.ガラハッドとエレイン
そのガラハッドの暴走も問題なのだが、それよりも重要な自分に対しての話がまるで書かれていない事に不信感を覚えるレウス。
「なぁ、やっぱりあの水晶の中で言っていた通りにガラハッドは虚偽の報告をしていたのか?」
「いや……俺もそこまでは聞いていない。と言うかそもそも言っていないかも知れない。適当に話を盛る事だって出来るだろうからな」
「そりゃそうだろうな。都合の悪い事は隠しておきたいってのは、人間も獣人も変わらない本能みたいなもんだ。んで、日揮はまだ続いているんだろう?」
「ああ、もう少ししか無いがな」
そこまで厚くない日記帳の残りのページをパラパラとめくって行けば、他国への侵略が成功したとか嫁と子供が出来たとか、皇帝の日記らしい事が色々書いてあるだけである。
だが、最後から数ページ前の日記にまたもとんでもない内容が書いてあった。
『エレインの奴が軍備拡大反対だと言ってまた来た。五年前にあれ程の目に遭わせてやったと言うのに懲りない奴だ。こうなったらあのムカつくアークトゥルスをエヴィル・ワンと同士討ちになったって俺が言いふらしたのと同じ様に、事故に見せ掛けて殺してやろうか。いや、それが良い。このままだとエレインの奴が自分の名前の影響力を使ってこの国に攻め入らないとも言い切れないからな。変な噂が立つ前に始末しておこう』
「何だこいつ、サイテーじゃねーか」
「……ああ、我が先祖ながら情けないと言うか……」
真顔のまま呟くレウスに対し、ジェラルドは頭を抱えた。しかし、本当に頭を抱えたいのはレウスの方であった。
自分はこんな男と一緒にエヴィル・ワンを討伐したのか。
仮にも自分のパーティーメンバーの一人だったのに、そんな男の性質を見抜けなかったなんて五百年以上続く失態も良い所である。
そして、気になるのは自分の事ばかりでは無くこの日記の中に出て来たエレインの行方もそうだった。
「なぁ、そう言えばエレインって何処に行ったんだ? この日記からするとガラハッドに殺されたらしいんだが……まさか殺したのか?」
日記にこう書かれていると言う事は、少なくともこの先の日記の何処かにエレインの事が書いてあってもおかしくないし、そもそもこのジェラルドはガラハッドの直系の子孫なんだから何かを聞いている筈だと考えるレウス。
だが、ジェラルドからは非常に落胆してしまう返事しか無かった。
「すまねえ、俺は何も聞いてねえんだ」
「何でだよ?」
「俺は過去にこだわる気なんか無くてさ。だからその日記もろくに読んでもいなかったしそもそもエレインについての事なんて何も聞いてねえ。これは本当だ」
「いや、過去にこだわらないのは勝手だが……自国の歴史位少しは勉強しておいてくれよ。……って言っても、今まで田舎に閉じこもってのんきに暮らしていた俺が言えたセリフでも無いか」
こうなったらこの日記とやらにそのガラハッドとエレインの事が書いていないか、パラパラと残りのページをめくってみる。
しかしこう言う時に限ってそうそう都合良くは行かないらしく、残りの数ページは当たり障りの無い日常の出来事しか書いていなかったのだ。
「何だ、これで終わりかよ。他に日記は残っていないのか?」
「いえ……この一冊しか残っていないんです。ガラハッド様はこの最後に書かれているページの日付から一ヶ月後位に、流行り病でお亡くなりになられたとの言い伝えが残っております」
「そうそう、それは俺も聞いた事があるから間違い無いぜ」
「くそっ、結局俺を刺した理由もエレインの結末も分からないままかよ」
申し訳無さそうに現実を話すフォンと、そこだけは自信あり気に言うジェラルドのセリフを聞き、レウスは腕を組みつつ悪態をつく。
心の中にモヤモヤした気持ちが残ったままなのだが、とにかく今日は明後日からのドラゴン討伐に向けて準備を整えるべく帰ろうとするレウス。
なのに、そんな彼をまだジェラルドが呼び止めた。
「ともかく今日はもう俺は帰る。明後日からドラゴンの生物兵器の討伐に行かなければならないんだからな」
「いや、ちょっと待ってくれ」
「何だ、まだ何かあるのか?」
「ああ。俺とお前のエキシビションマッチがまだだろう」
「……あ?」
武術大会で疲れた身体を休める為にインターバルを取った筈なのに。
そもそも今までの話を聞いていて心が沈んでいるし、ガラハッドの軍備拡大と侵略が原因でエレインまで死んでしまったかも知れないのに、どうしてそんな話になるのかレウスには理解が出来なかった。
「どうしてそうなるんだ。俺の事を言えない位に……いや、俺が逆に責めても良い位にガラハッドが色々やらかしたっぽいんだぞ」
「それは分かる、それは分かる! それは分かるけど……ちょっと気になる話を聞いたんだよ、俺。だからそれに対抗出来るだけの力が、お前にあるかどうかって言うのを確かめてえんだよ」
「はあ? 何だよその気になる話と対抗出来る力って?」
ハッキリ最初から言えよとレウスがジェラルドに詰め寄ると、ジェラルドはスッと椅子から立ち上がってその話に切り替え始めた。