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342.ガラハッドの日記

 フォンが持って来たガラハッドの日記。

 それは五百年前に書かれた物だと言う割には、年相応の劣化は見られない。むしろそこそこ綺麗な状態で保たれている方である。

 茶色の表紙に、日焼けしたページの紙が印象的なその日記帳の中には一体何がどの様に書かれているのか。

 自分を殺した男であるガラハッドが残したその内容を知れば、あの時のメンバーがどの様な心境で自分の事を見ていたのかが少しでも分かるかも知れない。


「じゃあ、最初のページを読むぜ」

「ああ」


 否が応でも緊張感が高まる。

 ガラハッドの子孫であるジェラルドの手によってめくられたそのページにまず書かれていたのは、このエスヴァリーク帝国を興してすぐの事だった。


『とうとう俺も国を興した。一国一城の主とは良く言ったものだが、自分がいざこの立場になってみるとプレッシャーに押し潰されそうで半端無い緊張感だ。でも、自分がこうして強い国を創る為の野望をまずは達成出来たんだからそんなプレッシャーなんか跳ね除けてやるぜ』

「まあ、割と普通だな」

「そうだな。強い国の定義は人によって様々だけど、ガラハッドはこの時から軍事大国にしたいって考えていたのかも知れねえ。じゃあ次のページな」


 パラりとジェラルドの手でめくられた次のページから数ページに渡ってからは、数日おきに国の運営の難しさ、軍事力の拡大による充実さ、民が集まって来る事への期待感等が綴られていた。

 そして日記が進むに連れて、段々と日記を書く余裕も無くなって来たのか書かれた日の間隔が広くなって来た。


『最近はなかなか忙しくて、こうして日記をつける日もありゃしない。だけどこうやって日記を書いていると、今まで自分の気付かなかった事が見えて来る。後で見直した時に曖昧な勘違いとか、反省点とか良く出来た事とか。これからも日記はつけ続けて行きたい』

「やっぱ忙しかったのかな、この時って」

「そうだろうな。俺も実際にこうして皇帝の立場に居るけど、このフォンを始めとした部下達の協力があってもきつい時はきついもんだぜ」

「そうだよなあ。他国との外交にも気を配らなきゃいけないだろうし、国内情勢にも目を向けなきゃならないしなぁ」


 国民に目を向けつつ、他国の情勢にも気を配る。

 まさかあのガラハッドがこうやって国を興したいなんて思ってもみなかったのだが、思い返してみれば旅の途中でちょいちょいそんな事を言っていたな……とレウスはガラハッドの姿を脳裏に浮かべた。


「あいつはさ、野心の強い奴だったよ。いずれは自分がこの世界の神になってやるとかってバカげた事を言い出した時は、真面目にぶっ飛ばそうかと思ったもん」

「えっ? か、神?」

「ああ。自分がエヴィル・ワン討伐メンバーに選ばれたってのは俺の実力があったからこそだ! って言いまくっていたからな。俺から見たらあいつは調子に乗っていたよな」

「そ、そうか……」


 かつてのパーティーメンバーであるレウスが言うと説得力があるな、と思いながらジェラルドが次のページをめくったのだが、そこに書かれていたのは恐るべき内容であった。


『今日、エレインの奴が訪ねて来た。それもたった一人で。何をしに来たのかと思ったら、これ以上の軍備の拡大は破滅を招くから止めろだと。ふざけんじゃねえ。俺が国を大きくするのにどれだけ努力してんのかも知らねえで、良くそんな事が言えたもんだ。ムカついたからエレインの奴をぶん殴った。そういやこいつはアークトゥルスの事を色々気に掛けていた奴だから、思い出すとムカムカして来た。こうなったら、明日頂いちまおうかな』

「おいおい、これって……」

「ちょ、ちょっと待て。まさかガラハッドはエレインを!?」


 段々話がおかしな方向に進んでいる。

 次のページをめくるのにも抵抗が出て来たが、それでもめくらない事には話が進まないので意を決してジェラルドがページをめくる。


『エレインは最高だった。これでしばらくあの女は黙ってるだろう。泣きべそかいて帰りやがったからな。さて、次は何処の小さな国をぶっ潰しに行こうかな。生意気にも俺に楯突く国が増えて来たから、痛い目に遭わせねえと』

「すげー暴走してんな、あいつ。おいそこの……フォンだったか? フォンはこの事は知っていたか?」

「えっ……あ、はい。我がエスヴァリークは多数の小国に侵攻しては制圧を繰り返し、そして国土を拡大して来ましたので有名です」


 戸惑いがちにそう答えるフォンに続き、ジェラルドも頷いた。


「そうだな。大小合わせて二十の国を自国の領土扱いにしているのもその名残さ。その国々の民達の中には俺達エスヴァリークに恨みを持っている奴等も多い。それから獣人達からも恨まれていてもおかしくは無えだろう」

「何でだ?」

「アイクアル王国の北西、もっと細かく言えばルリスウェン公国との国境から少し離れた東に獣人だけで構成されているルルトゼルって村があるんだよ。そこはエスヴァリークの侵攻から逃れた獣人で構成されていて、人間を忌み嫌っているから近付かない方が良い」

「そうなのか?」

「ああ。それもこれも、全てはガラハッドの軍事拡大案から始まったって話らしいけど、ここまでだとは思ってもみなかったぜ……」

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