341.先祖ガラハッド
「……知ってんのか?」
「ああ。さっき言っただろう? リーフォセリアやイーディクトから話を聞いたって。そん時にお前がアークトゥルスの生まれ変わりだってのも聞いてんだよ」
してやったりと言う顔をするジェラルドに対し、レウスは訝しげな眼付きで尋ねる。
「まさかとは思うが、さっきみたいにペラペラ周りの奴に言ったりしていないだろうな?」
「その辺りは俺だってちゃーんとわきまえてっから安心しろよ。俺と、お前と、それからこのフォンと今出て行った八人を送り届けに行ったニーヴァスって奴しか知らねえからな」
「そうか。それで? 俺を一人だけここに残してまで話したい事って何なんだよ?」
武術大会で疲れているのにくだらない話だったらぶっ飛ばしてやるからな、と皇帝に対してとんでもない考えを心の中で呟くレウスだが、それなりの話をジェラルドもする為に呼び止めたらしい。
「話したい事? それは単純に俺と……正確には俺の先祖とお前の因縁についてだよ」
「……!」
「何だよその顔は? さてはお前、この話どっかで聞いたろ?」
「ああ……聞いたよ。お前があいつの……ガラハッドの子孫だって事だよ。それも直系のだって話も聞いた。俺はあいつに何か恨まれる様な事をしたのか?」
ガラハッドに殺された結果、俺はこの時代に転生したんだからなとレウスが付け加えると、そのガラハッド・メルヴォナスの子孫であるジェラルドは微笑を浮かべていた顔をゆっくりと真顔にする。
「そうらしいぜ。イーディクトのシャロットからも同じ話を聞いた。このエスヴァリークを建国した俺の先祖のガラハッドが、お前とドラゴンが相打ちになったって事にしたってな」
ジェラルドにそう言われ、旧ウェイスの町で見つけた水晶の中の光景を改めてレウスは思い出していた。
『良し、これで手柄は俺達のもんだな?』
『でもこれで本当に良かったの?』
『何言ってるんだよ今更。こいつにバレない様に今までずーっと俺達が話し合って来たんだろ? こいつが英雄だのなんだのって呼ばれて天狗になって、色々横柄な態度を取る様になっていたからムカついてたのは俺達全員変わらなかっただろうに、ここに来て後悔するなんて許さねえからな?』
『うん……それもそうね』
『それで、こいつの死体は埋めちまうか? それとも燃やしちまうか?』
『いや、こいつの死体を持って帰ってこのドラゴンと相打ちになったって事にしてやれば良いんだよ。そうしたら世間では英雄が自分の命と引き換えに相打ちになって、仲間とこの世界を救ったって事で俺達が殺したなんてバレないだろ? あーっと、それからトリストラムもこんなシーンを記録してるんじゃねえよ。後でそれ捨てておけよ』
『え……あ、うん……』
しかし、それを踏まえても何かそれ以上の理由が無ければ殺されるまでには至っていないと思ってしまうレウス。
「水晶の中で言っていた通り、俺は確かに横柄になっていたかも知れない……。だが、殺されるまでの事をしたつもりは無い」
「かもな。だが現にガラハッドにお前は殺された。それは事実だからな。となればお前にその気が無かったとしても、ガラハッドを始めとしたお前の仲間達はお前に色々とストレスを溜め込んでいたんだろうよ。でなかったら俺だって、お前の言う通り殺される理由が分からねえからな」
「確かにそれはそうだ。だから俺は、お前がガラハッドの子孫だって知った時からずっとこうやって話せる機会が来るのを待っていた。まさかお前の方からそれを振ってくれるなんて思ってもみなかったがな……」
そのレウスとジェラルドの会話を黙って聞いていたフォンが、もう我慢出来ないとばかりにレウスに対して口を開く。
「話の途中で申し訳無いが、陛下に対して無礼が過ぎないか?」
「何だと?」
「陛下のご先祖様であるガラハッド様の仲間だって言うのは分かったが、今のお前と陛下では身分が違う。それをわきまえたらどうなんだ?」
だが、フォンのセリフに対して答えたのはレウスではなくジェラルドであった。
「黙ってろ、フォン」
「ですが、陛下……」
「良いんだ、これは俺とこいつの問題だからな。そもそもガラハッドとこいつは対等な関係……いや、ガラハッド達を率いていた事を考えればこいつの方が立場は上か。それに今はそこにこだわっている場合じゃねーからよ。少し黙ってて話を聞いてくれや」
「……はっ、失礼しました」
フォンが頭を下げて黙ったのを見たジェラルドは、再び話を続けようとする。
しかし、そこでふとある事を思い出した。
「あ、そうだ。確かジェラルドが書き記した日記が、この城の地下にある重要文献の場所にあっただろ?」
「……はい」
「だったらそれを持って来て、日記を読んでみようぜ。その日記は興味無えからパラパラとめくっただけで俺は内容も良く覚えていねえんだが、この話には役に立つかも知れねえからな」
だから一緒に目を通してみれば、もしかしたらガラハッドの気持ちが分かるかも知れない。
その一方で、レウスはガラハッドの日記の存在に首を傾げる。
「でもあいつ、そんな日記なんかつけていたかな?」
「ああ、この国を興した時からつけ始めたみてえだぞ」
「そうなのか、だったら俺が知らなくて当然だな」
そしてフォンが持って来た日記に三人が目を通し始めたのだが、そこには驚くべき事が沢山書かれていた。