340.集められた八人
決勝戦が終わり、優勝者がレウスに決まった今回の武術大会。
本来であればこの後にエキシビションマッチがある筈なのだが、今回は場内に響いたジェラルドの一言でそれが無くなってしまった。
『この後はエキシビションマッチの予定だったのだが、今回はドラゴン討伐に関しての準備等の時間も考慮して急遽取り止めと言う形になった。楽しみにしていた観客の皆には申し訳無いが、ご了承願いたい』
今回に限らず、過去にはエキシビションマッチが中止された事も何回もある。例えばエキシビションマッチの相手が急病で参加出来なくなったとか、逆に決勝戦で優勝したチャレンジャーの負傷度合いが大きかった為に中止になる等、その理由は様々であった。
そして今回はドラゴン討伐に向かう為の準備時間の確保と、決勝戦でレウスが負傷した時のリスクを考えた上での中止と説明された観客達がゾロゾロとコロシアムから帰って行く。
既に夕方になっているこの場所にも、また次の利用者が現われるまでしばしの休息が与えられる。
しかし、集められた八人の決勝トーナメント出場者達にとってはここから先が本番であると言って良い。
「さて……まずは今回の武術大会の優勝おめでとうと言っておこうか。レウス・アーヴィン」
「お褒め頂き光栄でございます」
形ばかりの、右手を左胸に当てて頭を垂れる最敬礼をジェラルドに向かってするレウス。しかし、この皇帝にそう言われても実は余り嬉しくない。
この皇帝ジェラルドは、前に聞いていた通りアークトゥルスだった時代に自分のパーティーメンバーの一人だったガラハッドの……それも直系の子孫なのだから。
それを確かめる為にここに居ると言っても過言では無いのだが、先にジェラルドからそのレウスを含めた八人に対してドラゴン討伐に関しての話が始まった。
「さて、武術大会が終わったばかりで悪りぃけどよ。明後日から早速北に出現したって言うドラゴンの生物兵器らしき奴を討伐しに行って貰うぜ。お前等八人にはその権利が与えられたんだからな」
「えっ、私達全員なんですか?」
てっきりこの中から上位の何人かが選び出されるものだとばかり思っていたティーナが、想定外ですと言わんばかりの声を上げる。
それに対して頷いたジェラルドは、今回の人員には特に期待しているらしい。
「そうだ。ちょっと人手が足りねえから今回は決勝トーナメントに進出したお前等全員が対象だ。特に今回の優勝者のレウスは、どうやら今までにもリーフォセリアやイーディクトでドラゴンの生物兵器の討伐経験があるらしいからな」
「そ……そうなの?」
ビックリした様子のドリスだが、余計な事は言うまいと真顔のままで無言を貫くレウス。
しかし、ジェラルドがレウスの代わりにペラペラと色々説明を始めてしまった。
「おーそうだぜ。お前等の活躍は各方面にリサーチしてきちんと情報収集してっからよ。例えばそっちのヒルトン姉妹は盗賊団を討伐して名を上げたって話だし、そっちの茶髪に赤いコートのエルザってのはマウデル騎士学院の学生の中で主席の成績だし、銀髪のサィードってのとピンクの髪のセバクターは同じマウデル騎士学院の卒業生なのに、今は何故か世界各国で傭兵として活躍してるって話だしよぉ。で……レウスもリーフォセリアのドゥドゥカス陛下とイーディクトのシャロット陛下から、それぞれドラゴンを討伐したって話を聞いてんだ。嘘とは言わせねえぞ?」
「いや、別に嘘とは言ってないですよ」
何処か呆れた様にそう返答するレウスに対して、ジェラルドは「まあ良いや」と話を続ける。
「で……だ。今は武術大会が終わったばっかりで疲れも溜まっているだろうから、一日だけインターバルをお前等に与える。その一日の間に出発準備や武具の調達を済ませておけ。北に向かう道のりは長くなるからな」
「わ……分かりました」
「良し、なら今日はもう解散。お前等全員は知り合いの様だから集合するのは簡単だろうよ。だがこのユディソスから出る事は許さねえ。騎士団に見張らせておくからな。ユディソスの中だったら食い物屋だろうが道具屋だろうが公衆浴場だろうが何処に行っても構わねえ。だけどわざと怪我して行けなくなったってのは許さねえからな。街中にも騎士団員を配備しておくからな。それとペーテルってのとアレットってのも付き添いを認める。良いな」
戸惑いがちに返事をしたレウスにそう言ったジェラルドは、明後日の朝早くにこのユディソスの城門前に集まる様に命じてから退室を命じた。
しかし、このフィランダー城にある皇帝の執務室を出て行くトーナメントの決勝進出者達にジェラルドが声を掛けた。
「おい、レウスだけはちょっと用がある。ここに残れ」
「俺ですか?」
「そうだ。セバクターの屋敷に出入りしているのも知っているから後でそこに送り届けるからな」
そこまで調べているなんてストーカーと変わりないじゃないか、とレウスはこの皇帝ジェラルドに対して嫌悪感を抱く。
まるであの横暴で暴力的なソルイールの皇帝みたいだ、と思いながら自分とジェラルド、そして武術大会の審判もしていた護衛の金髪の騎士団員も交えて三人だけの話が始まった。
「さて、それじゃじっくり話をしようぜレウス。……いや、五百年前の勇者アークトゥルス」