339.決勝戦(レウスvsセバクター)
「それでは始めようか。手合わせと言えば手合わせだが、お互いに本気でやるんだぞ? でなければドラゴン討伐に向けての実力は分からないからな」
「ほう? なら俺もセバクターも遠慮は要らないと言う事だな」
「ああ、セバクターも手加減はしない様に」
審判役の金髪の騎士団員の発言に対して、両者の間に緊迫した空気が流れる。
「決勝戦はレウス・アーヴィン対、セバクター・ソディー・ジレイディール!! それでは始めっ!!」
騎士団員の合図と共に、まずはセバクターがロングソードを振り被ってレウスに向かう。
レウスはそんなセバクターに対して、素早く槍を振り回してセバクターの斬撃を避ける。
そのまま間合いを詰めて行くものの、セバクターは二回もレウスと手合わせをしているだけあって攻撃の間合いやスピードは読めていたらしく、隙を突かれて槍を手から弾き飛ばされてしまった。
クルクルと回転しながら槍が下の砂地に突き刺さり、レウスはこれで丸腰である。
(くそっ、だったら!)
あのウォレス率いる誘拐犯達から奪い取った二本のロングソードを持っていればレウスはそれで対処出来たのだが、今回は持っていないので素手になった際の対処法を取る。
それは、着込んでいる制服の黒いコートを脱いでセバクターに投げつけるものだった。
投げつけられたコートによって一瞬セバクターの動きを止めて、その隙に一気に彼の懐へと飛び込む。こうなれば幾らリーチの差があったとしても、ロングソードなら取り回しが利き難くなるので必ずしも武器が有利とは言えなくなる。
「くっ! ほっ!」
セバクターが懸命にロングソードを振り回すが、それを懐に飛び込んでからの超接近戦で両手で受け止め、勢い余ったセバクターがレウスに背を向ける形になった所で後ろからギュッと首を羽交い絞めにする。
「ぐ、ぐぐ……!!」
「おらあああ!」
絶対に離すまいと力を込めるレウスだが、セバクターは渾身の力を込めてその拘束を振り解いて再びロングソードを振るう。
しかし、またレウスの両手にギリギリでブロックされる。
そして左腕でセバクターのロングソードを持つ右手首を掴み、右の二の腕でセバクターの首を押さえ付けて前へと押し込んで行くレウス。
「ぬうおおおおお!!」
ザザザザッと二人の両足が石の地面の上を滑って行くが、セバクターもガッツリ踏ん張ってその勢いを止めようとする。
だが勢いがつきすぎたレウスにそのまま押し倒され、セバクターはマウントポジションを取られた。
「らぁ、おら、うらあ!!」
ロングソードを持っているセバクターの右手を左手で押さえ付けつつ、マウントポジションから右手で何度もセバクターを殴りつける。
レウスの方は殴った衝撃で手が痛くなるが、それでも今まで人を殴って来た事は何回もあるのでこれ位の痛みは全然我慢出来る。
なのでレウスは痛みを我慢して殴り続けるが、それに対してセバクターもやられっ放しでは無く、レウスの右手を空いている左手で受け止めて力任せに逆にマウントポジションを取ろうとする。
「ぬぐううう!!」
セバクターが起き上がりかけるので、レウスも何とか自分とセバクター二人が上手いポジションで立ち上がる方向に試合の展開を持って行く。
今度はそのままセバクターの首を両腕で抱え込み、肘を支点に首を押さえ込まれているセバクターの腹に思いっ切り右膝を叩き込む。
「ぐっ……?」
しかし余りセバクターは痛みを感じていない様である。
だがそんな事はお構い無しに何度も何度も両膝を叩き付けて行けば、余り痛みを感じて無くても段々その痛みが蓄積され、セバクターの顔が苦痛に歪んで行く。
「あが、おがぁ!?」
レウスはそこから更に十発膝を叩き込み、首を押さえたまま飛び上がって両膝を揃えた状態で思いっ切りセバクターの腹をど突く。
そこから今度は一旦セバクターの身体を突き飛ばし、腹への衝撃から立ち直り切れていない彼の胸目掛けて全力のドロップキック。
「がはぁ!」
倒れこんだセバクターは胸を抑えて悶絶するも、そこに立ち上がったレウスは追い討ちの連続ローキックを五発セバクターの脇腹に。
「ぐぅ……」
胸と脇腹を片手ずつそれぞれで押さえて、仰向けに倒れたセバクターはなかなか起き上がれなくなる。
それをチャンスと見たレウスは思いっ切り足のバネを使ってジャンプし、そこから今度は両膝を抱えて上から膝をセバクターの腹に落とす。
「ぐふっ……」
「そこまでだ。優勝は……レウス・アーヴィン!!」
その衝撃で試合続行不可能と判断されて。騎士団員から試合終了の声が掛かる。
それを聞いてもまだ倒れているセバクターを見下ろし、レウスはそんなセバクターを介抱した。
「大丈夫か?」
「ああ、俺はまだまだ大丈夫だが、勝負はお前の勝ちだ」
その瞬間、しーんと静まり返る程に今まで二人の戦いに見入っていたコロシアムの観客達が一斉に歓声を上げる。
次第に大きな振動となって自分に注がれるその歓声と喝采に対し、レウスは大きく息を吐いてセバクターを金髪の騎士団員に預けて槍を回収して貰う。
「それでは、勝利のポーズをとってくれ」
「えっ、俺が?」
「そうだ。これでこの大会は終了だからな」
良く分からないながらも、騎士団員の言葉に従って槍を手にして天に掲げた瞬間、スピーカーからジェラルドの声が高らかに響いた。
『エスヴァリーク武術大会の第二千六十二回大会! 数々の激闘があったこの大会も、ここにただ一人の勝者が決定!! その激闘を制して頂点に上ったのは、リーフォセリアからやって来た弱冠十七歳の若人、レウス・アーヴィンだあああああああああああ――――っ!!』