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338.スピーカー

 この二人がまたもや戦う事になった。

 一回目は忘れもしない、マウデル騎士学院での覗き事件の時に。

 二回目はソルイール帝国で、あの横暴な皇帝バスティアンの目の前で。

 三回目は直接戦ってはいないものの、イーディクト帝国の北にあるウェイスの町で部下達と戦って逃げられたので実質二.五回目。

 そして今回、直接対決として数えるならこれが三回目になるレウスとセバクターの二人の戦いは、エスヴァリーク帝国の武術大会のトーナメント、それも決勝戦と言う決着をつけるに相応しい舞台が用意された。


「ここまで上がって来るとは……どうやら腕は鈍っていない様だな。安心したぞ」

「それはお互い様だろう、セバクター」


 無口なセバクターから、レウスに対して賞賛の言葉が出る。

 しかし、彼は真顔のままで明後日の方向を見上げつつレウスに問う。


「ところでお前は気が付いたか?」

「何が?」

「あそこに居るのはアレットとペーテルだ。それから皇帝のジェラルドも居るぞ」

「何っ!?」


 セバクターの見上げる方向には、窓で仕切られているコロシアムの特別観戦室がある。そしてそこにはセバクターの言う通り、この石舞台を見下ろしている三人の人間の姿があった。


「確かに……だが、妙だな。何故あそこに皇帝と一緒にあの二人が居るんだ?」

「知らん。しかし付き添いの人間の観戦も出来ない筈だったのにあそこで観戦が出来ているって事は、何か意図があってあそこに居るって事だろう。だから俺達もあそこに行く必要があると思う」


 その会話を聞いていた、審判役の騎士団員が二人に声を掛けて来た。


「そう考えなくても、お前達はこの対戦が終わった後に一緒に俺達と来て貰うぜ」

「えっ?」

「ジェラルド皇帝直々のお呼びが掛かっているのでな。しかし、まずはこの決勝戦の戦いを二人共全力でして貰わなければ、こうして集まってくれた観客がつまらないだろう。だからさっさと始めるぞ。まずはジェラルド陛下からのお言葉があるからまずはじっくり聞く様に」


 そう言いつつ騎士団員が右手を大きく上げて横に振ると、それに反応したジェラルドの声が何処からか聞こえて来た。


『今回の武術大会にお集まりの諸君、いよいよ決勝戦までやって来たぞ。準備は良いか!』


 そのジェラルドの声に反応した観客の割れんばかりの大歓声が、まるで地鳴りの様に音の衝撃波となって石舞台の上に居る三人の耳に伝わって来る。

 だが、このジェラルドの声は一体何処から聞こえて来ているのか疑問に思うレウスは、騎士団員にその出所を聞いてみた。


「これか? これは北のカシュラーゼから技術提供をされた「スピーカー」と言う設備なんだ」

「スピーカー?」

「そうだ。魔力によって声を遠くまで飛ばす事が出来る設備でな。こうして大きなコロシアムの全体にも万遍無く声を届かせる事が出来る。マイクと言う物で声を拾えるスピーカーが観客席のあちこちに取り付けられているから、しっかりとその声が聞こえるって寸法だ」


 スピーカーの説明を終えた騎士団員に合わせるかの様な絶妙のタイミングで、観客達の大歓声を聞き終えたジェラルドが再びマイクに向かって叫ぶ。


『そうかそうか、全員楽しみにしていたみてえだな。それじゃ今回の決勝戦まで勝ち上がって来た二名のチャレンジャーを紹介するぜ。まず一人目は遠くはるばるリーフォセリアからここエスヴァリークまで出場しに来てくれた、レウス・アーヴィンだあああああああああああっ!!』


 再び地鳴りの様に響き渡る観客の大歓声。

 しかし、レウスは心の中で悪態をつきつつ舌打ちをしていた。


(俺がリーフォセリアから来たって言うなよ……何処であのヴェラルやディルクの仲間が見てるか分からないんだからな!)


 しかし、既にそのヴェラルやディルクの仲間達にレウスの容姿や名前、出身地等の情報が回っているので心の中の悪態も全く意味を成さないのであった。


『そしてもう一人は地元エスヴァリーク出身、このエスヴァリークの為に世界中で腕を磨いて来た傭兵のセバクター・ソディー・ジレイディール!!』


 ジェラルドの紹介に同じく大歓声が響き渡るが、セバクターはセバクターでレウスとはまた違った別の悪態を、特別観戦席に居るジェラルドに向かって眉をひそめながら心の中で呟いた。


(別に、この国の為に腕を磨いて来た訳じゃないのだがな……勝手な事を言われては困る)


 二人に悪態をつかれているとは微塵も思っていないジェラルドは、皇帝として自分が今までずっと決勝戦の挨拶をして来た恒例行事を終えて、いよいよこれから始まる決勝戦に心を躍らせる。


『この二人は既に我がエスヴァリーク帝国騎士団への入団資格も、それからドラゴン討伐も権利を得ている!! しかし、それと武術大会の勝敗はまた別モンだ。この決勝戦まで勝ち上がって来たお互いの実力を遺憾無く発揮して決着をつけて貰いたい。同時優勝はあり得ないから、どちらかが倒れるまで勝負は続く。それでは始めてくれ!!』


 ドラゴン討伐や騎士団の入団資格と、決勝戦の勝敗は別。

 それを一番分かっているのはジェラルドでは無く、他でも無いこの石舞台の上で対峙している二人のチャレンジャー達であった。

 今、武術大会の最後の戦いの火蓋が切って落とされる――。

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