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337.三位決定戦(ティーナvsサィード)

「あつつ……」

「おい、大丈夫か? 回復魔術を掛けるからじっとしていろ」


 審判役の騎士団員が、ふらつくサィードに対してこの後の三位決定戦に支障が出ない様に回復魔術を掛ける。

 戦いが終わった後の選手には回復魔術を掛けて、次の対決がお互いに万全の状態で臨める様にセットアップするのだ。

 決勝戦まで進んだレウスは勿論、彼に敗れて一回戦で早々に敗退したドリスやエルザ、ソランジュにサイカも、そしてこれからサィードが戦うティーナに対しても回復魔術が掛けられている。


「よっし、もう大丈夫だ」

「そうか。なら次は三位決定戦だからこのままこの石舞台の上で待機していろ。お前の相手を呼んで来る」

「あー、頼んだ」


 審判役の騎士団員にそう言われて、残されたサィードはハルバードを数回素振りしながら自分の相手の登場を待つ。

 それと同時に、マウデル騎士学院の卒業生同士であり自分の後輩でもあるセバクターに負けてしまったのを現実として受け止めていた。


(あーあ、やっぱり若いのには敵わねえのかな……)


 騎士学院の学生であるエルザには勝てたものの、卒業生として経験を積んだセバクター相手には負けてしまったので、これを切っ掛けに自分が本当にやらなければいけない「あの話」を受け止める時が来たのだろうか、とサィードは薄々感じていた。

 そんな彼の耳に歓声が轟き、三位決定戦の相手であるティーナが姿を見せた。


「あら、また顔見知りのお方ですか?」

「えっ……もしかしてお前はあの冒険者姉妹の姉の方か?」

「そうです。ティーナですよ」


 またまた顔見知り同士の戦いになってしまった三位決定戦。

 その場所となる石舞台の上で、ティーナとサィードの二人はロングソードとハルバードをそれぞれ手にして向かい合う。

 だが、サィードはティーナの最初のセリフに疑問を抱いた。


「なぁ、さっき「また顔見知りのお方」って言ってたけど……そっちのブロックでも誰か顔見知りの奴が居たのか?」

「ええ。一回戦は貴方と一緒に居た黒髪の女性で剣士の方、二回戦が私を負かしてこの後の決勝戦に出場する予定の金髪の槍使いの方でしたわ」

「それって最初の奴がソランジュで、俺の前の相手がレウスだったって事か……俺も実は一回戦が俺の仲間のエルザって茶髪の女で、さっき負けたのが俺の後輩のセバクターって奴だった。だったら俺達の知り合いのほとんどが決勝トーナメントに出て来たみたいだな?」

「そうなりますわね。……それでは始めましょうか」


 サィードの確認にティーナは微笑を浮かべた顔で頷き、それを見た審判役の騎士団員が合図を出した。


「三位決定戦はティーナ・オリヴィア・ヒルトン対、サィード・ランバルディ!! それでは始めっ!!」


 武術大会の三位決定戦がスタート。

 先に踏み込むのはサィード。「攻撃こそ最大の防御」を地で行く彼の戦い方は、攻めて攻めて攻めまくる「押し」のスタイルである。

 対するティーナは逆に余り前に出ないスタイルで、反撃のチャンスをじっと窺う。

 割と大振りなサィードの攻撃をブロックし、避け、そのモーションから次にどんな攻撃をして来るのかを予想して身体を動かす。


(思っていたよりもスピードも遅いし、攻撃も大振りね……)


 それでもこのスピードを見てみると、彼はまだ本気を出していない。

 わざと大振りな攻撃を繰り出す事で自分の様子を窺って、どう言う戦い方をするのかを見極めているのだろうとティーナは判断した。

 実力で言えば自分よりもサィードの方が圧倒的に上だろうと考えたティーナは、真っ向勝負では勝てないと悟る。

 かと言って余り卑怯な手を使うのも気が進まない。

 どうしたものか……と考えるティーナに、反撃のチャンスがやって来たのはすぐの事だった。


「おらっ!」


 横薙ぎのモーションを利用して左の回し蹴りを繰り出すサィードだが、隙が明らかに大きい。

 その回し蹴りを上半身を屈めて回避し、一気にタックルでマウントポジションを取りに行くティーナ。

 しかし。


「……!?」


 マウントポジションを取られた筈のサィードの口に、それと分かる大きな笑みが浮かんだ。

 ティーナが戸惑いと驚き、そして少しの恐怖に一瞬動きが止まったのを見逃さず、サィードはティーナに強烈な頭突き。


「ぐえっ!?」


 思わず反射的に後ろに飛び退くティーナだが、頭突きの痛みを逃がそうと手で頭を押さえる。

 そんな彼の両肩に自分の手を置き、サィードは自ら後ろに転がりながら足をティーナの腹部に押し付け、勢いをつけてティーナを投げ飛ばした。


「ぬあっ!」


 浮遊感を身体に感じた直後、背中から石舞台の上……では無くその下の地面に叩き付けられる形になったティーナは、余りの衝撃に一瞬呼吸が止まった。


「がは……っ!?」


 息苦しさに身悶えしつつも何とか目を開け、辺りを見渡したティーナの目に映ったものは、自分の首筋に向かってハルバードの切っ先を突き付けているサィードの姿だった。

 少しでも動けばティーナの喉にハルバードの切っ先が突き刺さってしまうので、これ以上の続行は不可能だと判断した騎士団員が判定を下した。


「そこまでだ。勝者はサィード・ランバルディ!!」

「おらっ、お前の負けだ」

「……参りましたわ」


 これが、ただの冒険者と騎士団で正式な鍛錬を受けた冒険者との違い。

 サィードが元々騎士団員であった事はティーナは知らないのだが、それでも「この男は自分と何かが違う」と直感的に思っていた。

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