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31.魔術の授業

 ギルベルトに貰った石を使って気付かれない内に学院へと戻ったレウスは、翌日から悶々としながら日々を過ごす。

 既に自分が、五百年前の勇者アークトゥルスであった事がギルベルトと国王にバレてしまっているのは、今までその事実をずっと隠して生きて来た彼にとって大きなショックであったからだ。

 救いなのは、まだ国王とギルベルトにしかバレていないという事……。


(あれ……でもちょっと待てよ、俺の痕跡がその墓とやらから流れ出して地元の町まで辿って来られたなら、あの虎の言っている事は無理がある気がするぞ?)


 そこでレウスは気がついた。

 勇者と言われたアークトゥルスの古い魔力を辿って来たのであれば、絶対にギルベルト以外にも知っている者が居るだろうと。

 となれば、ギルベルトは騎士団員達に対して緘口令を敷いているに違いないと踏んだのである。

 ともかく、これ以上アークトゥルスの生まれ変わりである事を知られたら色々と面倒な話が舞い込んで来そうなので、レウスは卒業まで大人しく暮らす事に決めた。


「……っと、ちょっとレウス!」

「ん?」

「ん、じゃないわよ。ボーッとしてないでほら、次の授業は魔術の実践授業なんだから早く移動しなきゃ!」

「あ……ああ、すまん」


 聞き覚えのある声で現実に引き戻されたレウスの視界に飛び込んで来たのは、一緒のクラスで授業を受けているアレットの姿だった。

 昨日から今日に掛けて色々と考え込んでしまっていたらしく、このままではまともに授業を受けていないと別の意味で注目されてしまう。

 良きにしろその逆にしろ、目立つ行動は出来るだけ避けたいレウスは気を入れ直して教室を移動する。



 ◇



「今回は、私が生み出した魔物に対して魔術で立ち向かって貰う!」


 魔術担当教官の声が、実験を行なう為の屋外スペースに響き渡る。

 生徒達の手には魔術の教本、それから魔術をより繰り出しやすくする為の訓練用の杖が握られている。

 当然レウスも例外では無いのだが、アークトゥルスとして前衛で戦って来た時も現世においても魔術は余り得意では無い。

 それでも騎士団員になる為にはそれぞれの属性の魔術を必要最低限は使えなければならないので、入校の時に魔術の基礎テストが用意されている程なのだ。


 そして、魔術教官が宣言した通り今日は魔術を使用して、実際に魔物と戦ってみる授業である。

 勿論訓練なので致命傷は負わない様に配慮されているが、それでも魔物を相手にするとなれば怪我のリスクは付き物である。

 レウスはレウスで、魔術に関しては知識も技術も乏しいので教本をペラペラとめくってみるが、元々興味が薄い分野なので余り身が入らない。


 だが、ギルベルトが知っていた通り、レウスの体内には常人とは比べ物にならない程の魔力が蓄積されている。

 常人の十倍以上の魔力を持っている自分は、それが周囲にバレない様にするべく物心ついた時から別の魔術を身体に掛けてカモフラージュをしながら生活して来た。

 相手の魔力を一時的に無効にする、防御魔術の一種である。

 しかし、ゴーシュやエドガーは欺けたとしても騎士団長レベルの猛者となればどうやらそれは通用しない様で、そのレベルの人物には近づかない様に心掛けるレウスだったが、近づいていけない存在はまだ他にも沢山居る様である。


「それでは今回君達に相手をして貰うのはこれだ。いでよ、ケルベロス!!」


 魔術教官の声と共に、地面に描かれた複雑な文様の魔法陣がボウッと青白い光に包まれる。

 その魔法陣の中から地面をすり抜ける形で現れたのは、赤黒い大きな身体に三つ首の異形の魔物……宣言通りのケルベロスであった。

 魔術教官曰く、五人一組になってこのケルベロスと戦うのが今回の授業内容らしく、魔術の腕以外に仲間と力を合わせて戦うチームワーク力も重要になるらしい。


 アレットを筆頭に魔術が得意な面々で固まってはならないらしく、前衛と後衛のバランスが取れたチーム編成が組まれる。

 とは言えども、今回使えるのは魔術のみなので必然的に前衛は防御魔術が必須なのだが。


 そして幸か不幸か、レウスはアレットと一緒にケルベロスを相手にする事になった。


「一緒に頑張ろうね。魔術は私に任せて!」

「ああ……うん」


 アレットの魔術の実力がどれ程のものなのかは分からないが、やけに自信たっぷりな様子からするとそれだけの実力を持っているのだろう、とレウスは彼女に期待させて貰う事にした。


「ではケルベロス、行け!!」


 魔術教官の声と共にケルベロスが地を蹴って動き出した。

 それを見て、アレット達はそれぞれが魔術を展開し始める。

 魔術はどうしても詠唱が必要になるので、詠唱の隙を狙われるのが魔術師にとっては一番辛い所だからだ。

 補助系の魔術が得意な者は魔術防壁を展開して仲間を守り、攻撃魔術が得意な者は火属性の魔物であるケルベロスに有効な水属性の魔術を詠唱する。

 相手の体内の魔力の属性を知り、そして自分が使える魔術の属性を知っておく事で、効果的に魔術でダメージを与えられるのだ。

 レウスも魔術防壁を展開して守りの体勢に入るが、自分達の方に向かって来るケルベロスの様子が急に変わった事に気が付いた。

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