336.消耗品扱い
トーナメント準決勝も終了し、残すは三位決定戦と決勝戦、そしてエキシビションマッチのみとなった今回の武術大会。
しかし、その武術大会の裏で自分の元主人であったセバクターの屋敷に不法侵入していた青髪の男を追い払ったペーテルが、皇帝のジェラルドと共にコロシアムまでやって来たのだ。
「エキシビションマッチに陛下が参加なさるのですか?」
「ああ。俺もたまには身体を動かさなければと思っていたからな。それに今回の武術大会には特に腕利きの猛者達が参加していて、予選通過者の八人にも興味があるからな。その優勝者とぜひ戦ってみたいと思っているんだよ」
一旦フィランダー城の中で待機する様に言われていたペーテルだが、自分が付き添いとして参加していたコロシアムに陛下と一緒に向かうのは違うんじゃないのか? と頭の中で疑問を浮かべる。
しかしその疑問については、護衛の騎士団員達と共にコロシアムにやって来たジェラルドが、予選通過者の組み合わせを示したトーナメント表を見せてくれた事で解決した。
「……これは!?」
「この中のほら……一番右から二番目の参加者のセバクターって言うのは俺の元にやって来たお前の元主人の話だろーが。それに他の奴等についても色々と調べはついていて、何かしらの繋がりがあるみてえだからな。だからお前にもコロシアムでこの中から優勝した奴と俺の戦いを観戦して貰うぜ」
「それはよろしいのですが……私が心配しているのはそこではありません。今回の武術大会の上位入賞者にはドラゴンの討伐権利を与えるって話でした。それは何位までなんですか?」
一体何位までがドラゴン討伐の権利を貰えるのか。
それが気になって仕方無かったペーテルに対し、ジェラルドはあっさりと答える。
「ん? このトーナメントの八人全員だぜ」
「なっ……」
「何だよ、不満か?」
「不満と言うよりは不安なんです。この八人の方達全員と言う事は、今回の帝国騎士団への入団資格を与えられる筈の上位四人の方々も全員ですよね。もしこの後のドラゴン討伐でその方達全員が死亡してしまったらどうするんですか!?」
「そうしたら残った四人に繰り上げで入団資格を与えてやるさ」
「その四人も死亡してしまったら……?」
「その場合はまた次の武術大会で有望な奴が出てくるのを待つだけさ。ドラゴン討伐には人員が必要だから、どんどん戦場に人員を送り込まねえとよ」
人員と言った。
帝国騎士団に入団資格を与えられた人間や獣人達の事を、この黒髪の若き皇帝は単なる人員としか見ていないのだと、この時ペーテルは悟ってしまった。
それについて苦言を呈そうと口を開きかけたペーテルだったが、タイミング悪くここでコロシアムに着いてしまったのでそれは叶わなかったのである。
「それじゃ、そいつともう一人の付き添いの奴だって言う青い髪の毛の女に特別観戦の許可を与えるから俺達の観戦場所に案内してやってくれよ」
ジェラルドがエキシビションマッチの準備に取り掛かっている間に、ペーテルはアレットと一緒に特別に大会の模様を観戦させて貰える事になった。
しかし、この武術大会は腕を競わせてその上位入賞者達をドラゴン討伐の為に消耗品扱いで送り込む、命の大切さを何とも思っていないものである事が分かってしまった。
それをどうにかして止めなければ……と考えるペーテルだが、もっと良く考えてみればそもそもそれが分かっていて武術大会に参加したのは自分達では無いか、と思い直した。
(となれば苦言を呈した所で「最初にドラゴン討伐の為の選抜大会でもあるってルール説明をしてある筈なのに、だったらお前達が参加しなきゃ良かったんじゃねえのか?」と返される未来しか見えないな……)
実際、控え室で合流したアレットに自分の今までの経緯を説明した後にジェラルドの態度と自分の考えている事を説明したペーテルだったが、彼女も同じ答えに達した様である。
「まあ、それは確かにそうなりますよね。私もジェラルド陛下の立場だったらそう思いますもん」
「やはりか……」
「それに、それを覚悟してレウス達はこの武術大会に参加している筈だから私達が止める権利なんて無いと思いますよ」
なので、ここは黙って戦いを見守るしか無い。
まさか決勝トーナメントに進出した全員が自分と顔見知りだったのは驚いたが、それは参加しているその八人全員も同じ様に思っているのだろう。
だが、そう考えるアレットの心の中にはまた別の考え事があった。
(そう言えば、私達と同じ様にこの武術大会を観戦しているこの大勢の観客達の中にあのユフリーって女の人も居る筈なのよね)
一緒にステーキを食べた仲でもある彼女だが、彼女はレウス達が全員決勝トーナメントに進出したのを見て知った時にどんな反応をしたのだろう?
自分達がそんなに強いのを知って驚いているのか、それともまた別の感想を抱いているのか。
もし武術大会終了後に彼女にまた出会う事があったら、全員が決勝トーナメントに進出出来たお祝いに何か美味しいものでもまた一緒に食べに行きたい、と考えているアレットの目の前でいよいよ三位決定戦が始まろうとしていた。
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