333.一回戦終了
お互いに相手に武器を飛ばされてしまったが、まだバトルに決着はついていない。
どちらかが戦闘続行不可能になるか、石舞台の下に落ちるか、制限時間によるタイムアップでしか勝敗が決まらないのだから。
なので、当然この二人も決着がつくまで戦わなければならないのだ。
「やあああっ!!」
「……」
叫び声を上げながら自分に向かって走って来るサイカを無言で見据えつつ、セバクターはまず防御に徹して様子を見る。
元々慎重に行動するタイプの彼は、余程の事が無い限り自分から相手に対して向かって行く事は無い。
それはこの戦いの中でも同じであり、セバクターはまず自分の懐に飛び込んで来ようとするサイカからバックステップで距離を取りつつ、反撃のチャンスを窺う。
「ちょっとお、くっ、このっ……逃げてばっかりじゃなくて少しはこっちに向かって来なさいよっ!!」
何処かで必ず反撃して来る筈だ。だからこそ相手のペースに乗せられずに、ここは一旦距離を置くべきだ。
頭の片隅ではそう分かっているサイカだが、セバクターがまるっきり自分の方に向かって来ない上に、この戦いには一応制限時間もあるのでずっとお互いに出方を窺っている訳にもいかないのである。
なので相手が向かって来ないなら、自分から相手に向かって行くしか無いと考えたサイカがひたすら攻撃をしに行く。
「悪くは無い」
そんなサイカの動きを見ていて、ポツリとセバクターがそう呟いた。
だが、彼には彼女の動きを観察しつつ攻撃を回避したりブロックしたりするだけの余裕が、そんなに広くないこの石舞台の上であると言う証明でもある。
対するサイカは遠回しに「まあまあだ」と言われた気がして更にヒートアップ。
後少しなのにパンチが届かない。キックが当たらない。その後少しの差がモヤモヤを生み、攻撃のリズムを狂わせると同時に息を上げさせる原因となる。
相手の攻撃を防御するよりも、相手に対して攻撃をする方がエネルギーの消費も大きくなってしまうので、目に見えて動きが遅くなって来た所でもう一度セバクターが呟いた。
「が――俺には勝てない」
サイカが右のハイキックを繰り出して来たのをその反射神経で捉えたセバクターは、キックを屈んで避けつつ身体を支える左足目掛けて、その姿勢を利用して足払いを繰り出した。
「うわおっ!?」
カウンターアタックを食らってしまったサイカは空中で回転しつつ、背中から石舞台に叩き付けられてしまった。
目から火花が出そうな痛みを覚えたが、だからと言ってここで負ける訳にはいかない。
今までの攻撃ラッシュの疲れもあってゼエゼエと苦しそうな息を吐くサイカに対し、セバクターは無表情のまま彼女を見下ろす。
「諦めるなら今の内だぞ」
「くっ……誰が諦めるのよ!」
これが実戦をイメージしたルールでの戦いなら、最後まで諦めずに戦う。
そのつもりでこの石舞台の上に乗っているサイカに、諦めると言う選択肢は無かった。
しかし、気力を振り絞って再び自分に向かって来るサイカの攻撃は、先程よりも型が崩れた大振りのものである。
得意としているアクロバティックな動きにもキレが無く、隙が大きいのでこれ以上この戦いを続けても意味が無いと判断したセバクターは、彼女が飛び後ろ回し蹴りを繰り出して空振りした所を狙った。
「ふん」
「ぐえっ」
回し蹴りで着地したサイカのその一瞬の隙を突いた、セバクターの右ミドルキックが彼女の腹に炸裂。
元々の体重差があった事、それから石舞台の端の方で回し蹴りを繰り出したのが運の尽きとなり、サイカは為す術も無いまま石舞台の下に落下して勝負は決まった。
「勝者、セバクター・ソディー・ジレイディール!!」
審判役の騎士団員の声が上がったのを聞き、セバクターは無言で踵を返して石舞台から去って行った。
残されたサイカはゼエゼエと苦しそうな息をしながら、少ない手数であっさりと終わらされてしまった自分の未熟さに、無意識の内に涙を零していた。
◇
決勝トーナメント一回戦の戦いが四対戦全て終了し、敗者達が控え室に増えた。
そこで判明したのは、その全員がレウスと面識がある人間のみだと言う事だった。
「私とエルザと、それからソランジュとそっちの妹さんの方……って事は、残りの四人も自動的に判明するって話になるわよね?」
「そうだな。貴様はセバクターと戦ったのだろう? 私がサィードと戦って、妹の貴様がレウスと戦ってソランジュが貴様の姉と戦った」
「となれば、お主達はそれぞれパーティーメンバーと戦ったのか。と言うか私達は全員顔見知り同士での戦いになっていたのか!!」
「……そこまででも無いけどね。でも姉様が一緒に予選を突破出来ていて良かったわよ」
一人だけ会話が微妙に噛み合っていないのがいるが、そこは仕方無いと割り切って話を続けるサイカ。
「それで、私達は負けちゃったら帰っても良い筈だったのに何でここに集められているのかしら?」
「さぁ……私を呼びに来た騎士団員が「陛下のご命令だから残れ」って言っていたのと関係あるからじゃないのか? だからこうして私やお主達が集められているんだろう?」
「そうかも知れないな。後はアレットとペーテルってあの男が最初に集められていた大きな控え室から、別の付き添いの人の専用になっている控え室に移されている筈だから、アレットもペーテルも私達全員が負けるまで帰れないと思うがな。その関係もあるかも知れないが……貴様には付き添いの誰かは居ないのか?」
「私には居ないわよ。姉様と二人きりでここまで来たんだし、そもそも荷物も騎士団の人に預かって貰っているのにまだ返されていないのよ。だから荷物が返されたら帰れるでしょ?」
「それもそうか……」
ドリスのセリフに納得したエルザだが、まだ戦いはこれから二回戦……準決勝が待っている。
この四人それぞれに勝った相手が次で戦うので、誰が勝ち上がってもおかしくは無いだろう。
荷物もまだ返されない以上この控え室から出る事も出来ない四人は、二回戦が終わるのをここで待つしか無かった。