327.ヘマの代償
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しかし山の中では魔力が木々によって遮られてしまい、通信の精度も悪くなってしまうのでなるべくユディソスに近い所で魔術通信を待たなければならない。
「山の中に着いたらこっちから連絡を入れてくれって話だったから、ええと……これか。この文様が描かれた魔晶石を使ってそのお仲間とやらに連絡を入れて……と」
事前にディルクから渡されている魔晶石を荷物の中から取り出し、魔力を注ぎ込んで通信の準備をする。
その横では荷物の中からゴソゴソと双眼鏡を取り出したヨハンナが、既に夜の闇に包まれ始めているユディソスの街並みを最大ズームで確認していた。
(うーん、やっぱり武術大会の真っ最中だから今日と明日はお祭り騒ぎも良い所ね。そこかしこで店が盛り上がっているみたいだし、夜はお酒を飲む人も増えるだろうからその分で警備の騎士団員が駆り出される確率も高いだろうし……城門が閉まってしまえば後は内部だけに注目していれば良いと思っているのかも知れないけど、それは甘いわよねー)
やりようによっては城門を無理やり通らなくても、幾らでも街の中に侵入出来るルートは見つかる筈である。例えそれが軍事大国として有名なエスヴァリークだったとしても。
そう考えているヨハンナの横では、ようやくその「お仲間」に魔術通信が繋がったヴェラルが会話を始めた。
「……俺だ、ヴェラルだ。あの黒髪の魔術師の言っていた通り、俺達は今ルシード山の山頂付近まで来ている。そっちは今何処に居る? それからあんたは誰だ?」
『ようやく来たのね、遅かったじゃない。こっちは今コロシアムで武術大会の予選の観戦を終えて、ユディソスの外れにある隠れ家に身を寄せているわ。私の名前はユフリーよ。以後よろしく』
淡々とした口調でそう応答した声の主のユフリーは、どうやら女の様だ。
だが次の瞬間、ユフリーの口からとんでもない発言が出て来た。
『話を始める前に、ちょっとまずい事になってしまったの。だからここからは作戦を急いで欲しいのよ』
「どう言う事だ?」
『私と一時的にコンビを組んでいる、ドゥルシラって男が居るんだけど……その男がヘマをしちゃったのよ。アークトゥルスの生まれ変わりだって言っている男達に対して罪をなすり付けようと思っていたんだけど、予想外の邪魔が入っちゃったらしくて顔も姿も見られて現在逃走中なの』
「待て待て、意味が良く分からん。俺達はあんたから共有して貰いたい情報があるって話をあの魔術師から受けて、それでここまで来たんだぞ。まさかその失敗したって言う話をわざわざ共有させる為に、こうして連絡させたんじゃないだろうな?」
ヴェラルの怒り混じりの問い掛けに、ユフリーは淡々とした口調で答えた。
『そうよ。だからさっき言った通り計画を早く進めて欲しいの』
「凄いな、罪悪感がまるで無いな。と言うかそもそも共有するべき話って言うのは新開発のハンドガンって言う兵器の事じゃなかったのか?」
『ああ、うん……だからその話も関係しているのよ。ハンドガンの性能に関しては身寄りのなさそうな人間と獣人を五人殺して、それで性能を確かめた。効果も抜群だし場所も取らないし、これは軍事産業の世界に革命を起こしそうな武器になるわね』
満足そうな声でそう言うユフリーだが、そのハンドガンの開発にあのアークトゥルスの生まれ変わりだと言う男達が関わっていた……と言う事にすれば全てその罪を彼等になすり付けられて、エスヴァリークの目をカシュラーゼから逸らす事が出来る。
そう考えてユフリーは行動していたのだが、相棒のドゥルシラがヘマをしてしまったのでせっかくの計画も全て駄目になってしまうかも知れないと言うのだ。
『そのアークトゥルスの生まれ変わりの男がハンドガンの開発に関わっていたって言う証拠になる書類を、せっかくディルクって人が用意してくれたのよ。まあ、全てはカシュラーゼが作り上げた偽の情報なんだけどね。アークトゥルスの生まれ変わりがその古代の知識と膨大な魔力を駆使してハンドガンを作り上げたって事にするの。そしてそれはカシュラーゼに高値で売り付けられていた。つまりカシュラーゼは被害者だってね。だから何も知らない内にアークトゥルスの生まれ変わり達は新兵器による殺人の罪を着せられ、必死に否定しても偽の証拠があるから証言は認められずに処刑される……どう、完璧な作戦でしょ?』
「で、それがヘマしたから駄目になるって話か?」
『そうなのよ~!! もう、全部一から出直しって感じなの!!』
長い説明を聞いていてやっと出たヴェラルの呆れの言葉に、ユフリーは悔しそうに大声で応答した。
『だからさっさとそっちはドラゴンの欠片の情報を集めて。ディルクって人の話によれば、エスヴァリークの南の方にアークトゥルスの墓があるのよね。そこに行けば何か掴めるかも知れないから、よろしく頼んだわよ!!』
「え、ちょっ……おい……おっ……」
ブチッと通話が切られてしまい、そこで一方的に会話が終了してしまった。
「師匠、どうしたんですか?」
「……全く、人使いの荒いのが居るもんだ」
やれやれと首を横に振って、その日はこのルシード山の中で野宿をして明日の朝からまた南に向かう事を決めつつ、弟子のヨハンナにユフリーとの会話の内容を説明し始めるヴェラルだった。