325.予選通過者発表(その3)
「そうですね。それもまた聞くタイミングがあれば本人に聞いてみましょうか」
サィードの名前が売れていない理由は分かったが、矛盾した行動を取っている理由は分からない。
しかし、それは自分達がここで考えても分かる話でも無いのでさっさと残りの予選通過者の報告を済ませてしまおうとフォンが話を進める。
「……さて、それでは次ですね。ドリス・エルシー・ヒルトン、ティーナ・オリヴィア・ヒルトンの姉妹も二人揃って予選を突破しています。ヴァロリアー地方の盗賊団を壊滅させた事で一躍有名になった、若手の冒険者姉妹です」
「ヴァロリアーの奴等は俺も話に聞いてたけどよぉ、かなり厄介な奴等だってな。それを機転を利かせて壊滅させたってーんだから大したもんだよなー」
素直に感心しているジェラルドだが、ニーヴァスが渋い顔で話に入って来た。
「ですが陛下、あのヴァロリアー地方の盗賊団はもっと大きな盗賊団の尻尾切りとして使われたのではないかと言う話が上がって来ております」
「そうなのか?」
「はい。ヴァロリアー地方の盗賊団は何処か別の大きな盗賊団の傘下組織だったらしく、その盗賊団の頭目も上の組織の事については詳しい事は知らないとの報告がありました。一説によれば西の国の何処かを根城にしているらしいですが、それも何処なのか不明らしくて」
「そうか……だったらそれについては武術大会が終わった後にまた捜査を進めてくれ。姉妹の戦い方とか正確についての違いはどうなっている?」
「妹のドリスは口と態度が悪い事で有名です。姉のティーナはおしとやかな淑女です。戦い方は妹のドリスがハルバードを使い、常に攻め続けて相手に攻撃の隙を与えません。姉のティーナはロングソード使いで、相手の攻撃の隙を上手く突いて反撃する冷静なタイプ。性格も戦い方も正反対の二人ですが、彼女達のコンビネーションについては有名です」
そして最後に残った、いよいよこの三人が全員注目している「あの男」について話が始まる。
「最後の一人が……レウス・アーヴィン。彼が噂の、五百年前の勇者アークトゥルスの生まれ変わりとされている男です。表向きには隠しているらしいですが、各国の皇帝や国王には既にバレているそうです」
「だろうな。俺もリーフォセリアから直接聞いたから知ってるしな。で……そいつは魔術使用禁止ってルールの中でちゃんと戦ってたのか?」
「はい、私が直々に見ております」
レウスの予選の審判員を務めたニーヴァスが、今まで報告をしていたフォンからその報告を引き継いだ。
「彼がどの様な戦い方をするのかは私も興味がありましたが、特にこれと言って目立った所は無かったですね」
「目立たない?」
「はい。良く言えば教本通り、悪く言えば面白みの無い戦い方と言いますか……特徴が無いんです。そつなくこなしている様な……説明に困りますね」
ニーヴァスが言いたいのは、基本に忠実に攻めていて全てのテクニックにこれと言った強さが無い戦い方だったらしい。
相手に対して上手く攻撃を合わせ、そして反撃に移るスピードも特に速い訳では無い。
防御が特段上手いと言う事も無いのだが、しっかりブロックする所はして避ける所の判断力と反射神経はなかなかのものだったとニーヴァスは回想する。
そして、彼はまだ自分達の前で本当の実力を見せていないだろうなとも感じていた。
「他に何か、あのレウスと言う男の実力の目安になる話があればこちらも実力を把握出来るのですが……」
そう言ってうーんと首を捻るニーヴァスの目の前で、ふとある事を思い出したジェラルド。
「あっ……そうだ! 俺はリーフォセリアのドゥドゥカス陛下からあの男がアークトゥルスの生まれ変わりだって聞いた他にも、王国騎士団のギルベルト騎士団長から、カシュラーゼの生み出したって噂の生物兵器が現われた時にそのアークトゥルスの生まれ変わりが撃退したって話を聞いたんだ」
「ドラゴン……ですか?」
「そうそう。カシュラーゼから解き放たれたって言う十匹のドラゴンの生物兵器の内の一体だ。それをあいつは一人で撃退したらしい。それからイーディクト帝国でも生物兵器の一匹とその配下の四属性のドラゴンを仲間達と共に討伐したらしい」
イーディクトのシャロット陛下から聞いたから間違いねえ事実だぜ、と力説する自分達の主君に対してフォンとニーヴァスは目を白黒させるしか無かった。
「お、お待ち下さい。それが本当ならレウスと言う男はカシュラーゼの生物兵器を駆逐出来る程の実力を持っていると言う事になりませんか?」
「まぁそうなるよな。しかもどっちだったか忘れたけど、どっちかの生物兵器を倒した時にすげー魔術も一緒に使ってたらしいからあいつは絶対自分の本当の実力を隠している筈だ。前にも言った通りあいつは絶対にこの武術大会が終わっても逃がすんじゃねえぞ」
「まさか……彼の身体を解剖して実験をされたりするのですか?」
ニーヴァスの疑問にジェラルドは苦笑いを浮かべる。
「ちげーよ。んな事する訳ねーだろーが。別にあいつの身体をバラバラにする趣味なんか無えよ。ただあいつは絶対にドラゴンを討伐してくれるって信じている。少なくともあいつはもう予選を突破した時点で、今回のドラゴン討伐の権利は獲得したんだからな。権利は決勝トーナメントの上位八人全員が獲得するんだからよ」