324.予選通過者発表(その2)
それは自己正当化の様な気もしますけど……とフォンは心の中で思いつつ、気を取り直して四人目の紹介に入る、
「次ですが……セバクター・ソディー・ジレイディール。彼はこの予選突破者達の中でも最有力候補と言われている男であり、我がエスヴァリークの出身です」
「ほう、地元の人間か?」
「そうです。彼は西の方にあるザイフォンの出身ですね。そこで地方貴族として誕生し、その後ここユディソスに移住。しかし貴族同士の争いに負けて家が没落し、彼は一人で生きる術を見つけるべく冒険者として活動を始めます。そしてマウデル騎士学院へと入学しました」
「えっ、そんな流れでマウデル騎士学院に入学したってのか? 騎士学院みてえな所じゃなくても、戦い方を教えてくれる場所ならこのユディソスにだって、それからエスヴァリーク国内にだって色々あるだろーによ」
心底不思議そうに呟くジェラルドだが、ニーヴァスがセバクターの気持ちになって考えてみた。
「恐らくですが……彼はこのエスヴァリークに留まる事に対して心理的な負担を感じていたのでは無いでしょうか?」
「あー……なるほどな。貴族同士の争いに敗れて居心地が悪くなって……って奴だろう?」
「そうでしょうね。彼の家族も行方不明で処理されましたし、天涯孤独の身となってしまった彼はこのエスヴァリークにも居場所を無くし、それで自分の腕を頼りにして生計を立てようと考えていたのではないでしょうか?」
「うん、それなら納得出来る。でも一旦冒険者になって騎士学院に入学したのか? 普通は逆じゃねえか?」
「そこまでの経緯は分かりませんが、騎士学院に入学したのは確かです。そして彼は卒業後にリーフォセリアの騎士団には入らずに冒険者として再び活動を始め、今では「炎血の閃光」と言う通り名がついているそうです」
「炎血の閃光だと!?」
ガタンッと再び椅子を鳴らして荒っぽく立ち上がったジェラルドに対し、ニーヴァスがちょっと引き気味になりながらも続ける。
「は、はい……陛下もやはりご存じでしたか?」
「そりゃあ知ってるさ!! その炎血の閃光って通り名は世界中に轟いているし、俺の耳にも何度も入って来ているんだぜ。フォンも知ってんだよな?」
「はい。炎血の閃光についてはその活躍ぶりとネームバリューの大きさで世界中に彼を慕う者が居るとか。しかし彼は自分の過去について触れられたくない上に、他者との関わりを好まない人間らしくて容姿についての情報も、それからフルネームについての情報も入って来ておりませんでした」
彼の性格的に一匹狼が似合っているのだろうなと考えたフォンは、騎士学院卒業後にリーフォセリア王国騎士団に入らなかった理由が理解出来る。
しかし、どうしてその男があのアークトゥルスの生まれ変わりだと言われている男と一緒に行動しているのかまでは分からないので、大会終了後にたっぷりと尋問させて貰う予定である。
「それでは次ですね。サィード・ランバルディ……銀髪を後ろで束ねている、体格の良い男の戦士です。彼もまたリーフォセリア王国のマウデル騎士学院の卒業生でありますが、先程申し上げたセバクターと違うのは騎士団に入団して三年程勤めた後に退団。その後は世界中を旅して冒険者として活動しているそうです」
「リーフォセリア王国の騎士団ってそんなに定着率が悪いのか? いや、うちもあんまり人の事は言えねえか。で、そいつには何か通り名とかはついているのか?」
「ええと……はい、あります。彼は「青銅の悪魔」と呼ばれています」
「おいおい、そりゃまた物騒な通り名だなあ?」
どうしてそんな物騒な通り名がつけられてるんだと思ってしまうジェラルドに対し、フォンは通り名の由来を説明し始めた。
「彼の持っているハルバードが青銅色である事と、依頼を達成する事にこだわりがあるらしく、特に魔物討伐系の依頼を好んで受けては魔物を残らず討伐して戻って来る事で「戦場の悪魔」と呼ばれ……色と悪魔の部分を組み合わせて青銅の悪魔と呼ばれる様になったそうです」
「へーっ、そうなのか。でも俺の耳に入っていないって事は、炎血の閃光程の活躍はしていないってのか?」
「いえ、活躍はそれなりにしているのですが……彼は他にも力仕事を中心に雑用の依頼も引き受けているらしく、戦場にそこまで姿を見せないらしいですね、魔物討伐の際には一度出撃して大量に討伐し、依頼を達成したら別の雑用を沢山引き受け、そして日を置いてからまた魔物討伐に向かうと言った行動をしているらしいです」
しかも奇妙な事に、彼はギルドの職員に対してなるべく自分の活躍を広めないでくれとまで言っているらしいのだ。
フォンの報告でそれを聞いたジェラルドは、妙だな……と首を傾げた。
「それって矛盾してねえか? だってよぉ、そんなに目立ちたくないんだったらこの武術大会に出る事自体がおかしいと思うぜ」
そう、武術大会は多くの観客が集まるし騎士団の団員達も将来有望な騎士団員の卵を発掘しようと観戦に訪れるのが当たり前のイベント。
今回は変則的な大会であるとは言え、上位四人まではエスヴァリーク帝国騎士団への入団資格が与えられるのは今までの大会と変わらない。
そして今、予選を突破したこの八人の中に彼が入っている事もあってますます矛盾の度合いが大きいのだから。