322.予選終了後
登場人物紹介にドゥルシラ・グレンフェルを追加。
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このエスヴァリーク帝国武術大会を観戦出来る立場の一人であるジェラルドが、執務室で臣下の一人のフォンにそう命令をしている頃。
既に予選を終わらせてのんびりと明日の決勝トーナメントを待つだけになっていたレウスが、他に予選を突破したメンバー達と別れて控え室に通されていた。
だが、レウスの表情には喜びの表情は無い。
(ここはまだ通過点でしか無い。決勝トーナメントで一番上に上がらなければこの武術大会に参加した意味が無いし、目的も達成出来ないからな)
問題は自分以外のメンバーの予選がどうなったかである。
石の仕切りで見られなくなっていたので、誰が決勝トーナメントに進出したのかが分からなくなってしまっているのがもどかしい。
エルザ、サィード、ソランジュ、サイカ、セバクターの五人がそうそう簡単に負けるとは思ってはいないのだが、このエスヴァリーク帝国の武術大会にはレベルの高い参加者がゴロゴロ集まって来るので確実に勝てる保証も無い。
魔術が使用禁止と言う縛りルールがあるにせよ無いにせよ、レウスにとっては非常に退屈な戦いでものの数秒で決まってしまったバトルもあった。
予選では全部で四対戦を切り抜けたのだが、いずれもまだまだウォーミングアップ程度にしか身体を動かせていない。
(それにしてもこの部屋、控え室だから必要最低限の物しか置かれていないんだよな)
与えられた部屋は簡素なベッド、食事用のテーブル、明かり取り用のそこそこ大きくて縦長の窓しか無い。
床に槍を二本横向きに置いたらもう一杯一杯だし、天井も自分の槍の一本半の高さしか無いので一人分の部屋としても手狭な感じしかしない。
しかし別にここで自分を鍛える訳でも無いし、そうした目的で用意された部屋でも無い。明日からの本戦に出場する前に身体を温めるストレッチ程度なら十分な広さなので、レウスは大人しくここで過ごす事にした。
(食事は後で用意されるって話だったけど、それまでじっくり身体を休ませておくしか出来なさそうだな)
気晴らしに窓を開けて外を見てみようとしたものの、この控え室は闘技場の目立たない場所に作られているらしく、外には生い茂っている木と空しか見えない。
正確に言えば木の葉っぱの間から住宅街が見えるのだが、それ位しか見る物が無いのでおそらく明かり取りと換気をする為の用途しか無い様だ。
なので暇潰しも出来そうに無いレウスは、これから決勝トーナメントを勝ち上がって行くに当たってどうすれば良いかを考えてみる。
(決勝に上がるに当たって、例え残りの五人の内の誰かと当たったとしても……そしてそいつが俺に勝ったとしても、そいつが次の対戦で負けちまえばドラゴンに挑戦する参加資格が無くなってしまうんじゃないのか?)
確か準決勝に進出した上位の者までがドラゴンの討伐に向かえると聞いているのだが、正確に何位までが上位入賞者なのか分からないのがもどかしい上に、それを教えて貰っていないのが先程の大会規定説明の上での不満だった。
なので食事が運ばれて来たらそれを聞いてみようと考えたのだが、現実はそう甘くない様である。
何故なら部屋に食事が運ばれて来たのはそれからおよそ一時間後の話だったのだが、持って来てくれたのは騎士団員の下っ端の人間だったからである。
「えっ、討伐に行ける上位入賞者の人数は知らされていない?」
「はい、申し訳ございません。帝国騎士団への入団資格が与えられるのは準決勝に残った上位四名までと決まっているのですが、ドラゴン討伐に関しては私も把握しておりませんので……」
「そうですか……」
なら、やはり自分が上位に勝ち上がって行くしか無いだろうと判断するレウス。
上位入賞と言うからには三位、良くて四位だろうが実際は二位までかも知れないし、優勝者のみに権利が与えられるのかも知れない。
となれば、優勝してしまえば確実にドラゴン討伐の権利が与えられるだろう。
(目指すは優勝だ。トーナメントは予選を突破した八人によって争われるから、全部で三回勝てば良い……例え全ての相手が俺の仲間だったとしても、その全てを倒して俺は頂点を目指すだけだ!)
相手が例え何回も勝利しているエルザでも、一回こちらが勝利しているサィードでも、負けてしまったソランジュでも、戦った事が無いサイカでも、学院の時から因縁のあるセバクターでも勝たなければならない。
そう考えながらレウスは食事を摂っていたのだが、彼が全く予想していなかった展開が次の瞬間に起こった。
『食事はおいしいかい?』
「っ!?」
いきなり聞こえて来た声に、飲んでいたスープが期間に入ってむせてしまうレウス。
スープの息苦しさと声に対する驚きが入り混じって訳の分からない感覚に陥る彼に対し、謎の声は更に話を続ける。
『どうやら予選はちゃんと突破出来たみたいだねえ? いや、感心感心』
「こっ、この声はディルク!? 何処に居る……出て来いげほげほっ!!」
スープにせき込むのはまだ止まらないながらも、立て掛けていた槍を手に取って構えるレウス。
しかし、声の主……ディルクは鼻で笑って答えた。
『僕はカシュラーゼのクルシーズ城に居るんだよ。それに君とは戦っている暇なんか無い位に忙しいの。まあ、色々頑張ってよね勇者さん』