319.思わぬ誤算
一般的な貴族の屋敷のサイズから見たら、割と小さめの部類に入るこの屋敷。
セバクターの情報を集められるだけ集めて貰った所によれば、かなり下の方の貴族だった上に家が没落してしまったらしく、今回はアークトゥルスの生まれ変わりだと言われているあの男達が拠点として使っていただけに過ぎない場所なのだと言う。
なので余り弱みを握る為の証拠集めは期待出来ないかなーと考えつつ、家主のセバクターを始めとする一行が留守なのを狙って家探しを開始。
「貴族の家にしちゃあ何だかシケてんなーって思ったけど、没落したってんならそりゃあそうか。色々な物を売りに出して、何とかこの家を売るのだけは免れたって感じかなー」
ブツブツと呟きつつ、部屋と言う部屋を探し回ってセバクターの秘密を握るべく何か無いかと考える男。
やっている事が泥棒と一緒なのだが、これはあくまでも仕事なのだからと自分を強引に納得させつつ探してみるものの、特に弱みになりそうな物は見つかりそうに無い。
「くっそ、全然何も無えじゃねえかよ!! ったく、金目の物でもあればそれを金に換えて使ってやるのに、そんな物も全然ありゃしねーし……」
だったらここに長居は無用なので、あいつ等に罪をなすりつける為の工作をさっさと終わらせて退散しなければならない。
まずその工作に必要な物体を手持ちの小さな麻袋から取り出して、大広間のテーブルの上に目立つ様にそれを置いておく。
次にその物体をより目立たせる為の工作として、あらかじめカシュラーゼから用意して貰った色々な書類も一緒に置いておく事によって、よりこの屋敷の持ち主に罪をなすりつける事が可能になる。
(けどここだけじゃ信憑性に欠けるから、それなりの部屋にも違う書類を置いておかないとな)
書類を多く置けば置くだけ、この屋敷の主であるセバクターに罪をなすりつけてカシュラーゼから目をそらす事が可能になる。
しかもセバクターはここで、あのアークトゥルスの生まれ変わりだと言っている男と一緒に寝泊まりをしていると言う事もあってそいつにも罪をなすりつけられる相乗効果が生まれる。
(武力行使で真っ向勝負するだけが戦いじゃねえ。頭は使う為にあるんだ。これであいつ等は極刑に処される事が間違い無しだぜ!!)
鼻歌まで歌い出して気分は上々の男だが、そんな男の耳に唐突に声が掛かったのはその時だった。
「坊っちゃんのお屋敷に何か御用ですかな?」
「っんのぉ!?」
自分以外誰も居ない筈なのに、何者かに唐突に声を掛けられた男は心臓が飛び出るかと思う程に驚く。
それと同時に腰のホルスターからハンドガンを引き抜いて声の方向に向けてみれば、そこには茶色のズボンに白いワイシャツ姿で茶髪を伸ばしている中年の男の姿があった。
「な、何だお前は!?」
「質問をしているのは私の方です。質問に質問で返答するのはマナー違反ですよ」
「うっ、うるせえっ!!」
この茶髪の男が何者なのかは分からないが、自分がこうして細工をしている所を見られてしまったからには生かしておけない。
そう考えた男は迷う事無くハンドガンの引き金を引いて男に発砲するものの、男はスッと自分の目の前に手をかざして魔術防壁を展開し、銃弾を全てブロックしてしまった。
「ちっきしょぉ、姑息な手を使いやがってぇ!!」
「裏口からカギを壊して侵入する方が余程姑息だと思いますが?」
「いちいちムカつくんだよ!!」
ああ言えばこう言うタイプの茶髪の男にますます怒りがヒートアップする男だが、そんな彼に対しても茶髪の男は冷静である。
その茶髪の男……この屋敷でセバクターに仕えていたペーテル・エリクスドッターは、何か嫌な予感がしたからこの屋敷に戻って来た……のでは無い。
本当に偶然この屋敷に戻って来た所で、この青髪の男が何やら怪しい動きをしている場面に出くわしたのである。
◇
「あー、みんなどうなっちゃってるんですかねー?」
「確かに気になりますが、ここは皆様の実力を信じて待つしかありませんよアレット様」
「そうですけど……やっぱり不安ですよね」
コロシアムのバトルフィールドに向かった六人と別れ、付き添いのメンバー達が案内されたのは別の大部屋である。
公平を期する為に付き添いのメンバーでも観戦は不可能となっているので、遠くに聞こえる観客の歓声だけが頼りなのだが、誰が負けたかや誰が勝ったかと言う結果だけは付き添いのメンバーにも伝えられる。
全員が負けたとなった時には荷物が返却され、その時点で帰っても良いし決勝戦まで無料で観戦をしても良いシステムなので、ある程度選手達の実力の分析は出来る。
だが、それでもアレットは不満気であった。
「あーあ、こんなルールだって分かってたら付き添いとしてじゃなくて一般の観客として観戦すれば良かったわ」
「次回からはそうすれば良いのです」
「まあ、次回があればの話ですけどね!」
「そうですね。私は何時でもおつきあい致しますよ……って、あれ?」
アレットが希望するなら何時でも付き添うと約束したペーテルが、ズボンのポケットの中の異変に気が付いた。