316.検査、検査、検査
それが例え、かつての仲間だったとしても戦場では敵として戦わなければならない時が来るかも知れない。
その時に躊躇して手を抜いてしまえば、死ぬのは己だと言う事だ。
遠回しにそう言っているニーヴァスの説明はまだ続く。
「また、荷物の管理につきましては騎士団が責任を持ってお預かり致します。負けた方についてはそのまま騎士団からお返ししてお帰り頂くか、あるいはその後に大会の続きを観戦されるかはご自由です」
しかし、勝った場合にはその参加者が負けるまで荷物は騎士団から返却されずに預かったままになるとの事である。
不要な持ち物……特に外部との連絡が取れる通信用の携帯魔晶石や、自分の能力をアップさせて試合を有利に持ち込もうとさせる栄養剤な等、不正に繋がりかねない物を持っている可能性があるかららしい。
過去には実際に不正を働いた参加者が居て、それが違法な薬物を使った不正だったので大問題になり、当然その参加者は失格処分。
その時に係員として参加していた騎士団員も謹慎や減給等の処分を受けたので、以後は絶対に不正が無い様に参加者の荷物は負けるまで返されないシステムになっている。
「また、魔術の使用は事前通達の規定により一切不可となります。事前に魔術を発動させない様に薬を投与させて頂きます。……それからこの後、参加者の皆様の身体検査と持ち物検査を実施致します」
「え……それって今の話にやっぱり関係しているからなのか?」
「そうです。もしその検査にて不正が発覚した参加者の方は強制的に失格となり、その場で退場となります」
エルザの確認にニーヴァスが頷く。
事前に持ち物を全て預けるシステムになっていないのは、荷物の中に武器や防具を入れて来る参加者も居るのでそこまでは徹底出来ないらしい。
その分、参加者達が徹底的に身体検査と荷物検査を受ける事で不正を炙り出そうと言うシステムである。
「それでは皆様、移動の準備をお願い致します」
ニーヴァスの声に従ってレウスを始めとする参加者達、それから付き添いのアレットやペーテルも含めて全員が検査に向かう。
その検査内容は「ここまでする必要があるのか?」と思う程に徹底していた。
まず身体検査についてだが、女と男で分けられるのが最大限の配慮である。その後はカシュラーゼが開発したと言う魔力の量を検査する機能と、身体を透視出来るシステムが組み合わさった装置でしらみつぶしに全身を調べられる。
しかもそれで終わりでは無く、男の場合は男の検査官、女の場合は女の検査官が口の中から尻の中にまで指を突っ込んで、少しでも不正が無いかどうかをチェックするのだ。
「あだだだだだあああっ!? ちょっと待て、そこは尻の出口だぞ!!」
「はーい、静かに。騒ぐと失格ですよ」
サィードも尻の中に指を入れられる経験は初めてらしいのだが、検査担当の医師の無情な声が彼に絶望感を与えつつ、手袋をした指が尻の中に入ってくる気持ち悪さに身をよじる。
アレットも女の検査官に同じ様にされ、言い様の無い喪失感を覚えながら持ち物検査へと向かう。
(うう……気持ち悪いわ……)
ズキンズキン、と鈍い痛みを発する尻の中の気持ち悪さに不快感を覚えながら向かった先の持ち物検査も、アレットを始めとする六人全員が「そんなにやらなくて良いだろう」と思わされてしまう程のものであった。
荷物の中身を全部ひっくり返される程の勢いで広いテーブルの上に出された上で、これは何だ、何処で手に入れた、持っている目的は何なんだと厳しく追及される。
少しでも言葉に詰まってしまえば検査官達からピシャリと言い直しが要求される。
それに加えて持ち物を入れていた袋も透視が出来る装置に入れられて、妙な補修等の怪しい点があればそこも追及される。
武器も防具も全部透視され、服も全て縫い合わせの部分まで細かく調べられる。
やっとの事で先に検査が終わって控え室に戻されたソランジュとサイカの二人は、既に戦う前から精神的に疲弊していた。
「ただの持ち物検査と身体検査の筈なのに、何故私達がここまで疲れなければならないのだ……」
「そう言われてもこれがここの決まりなんだから仕方無いでしょ……検査官の人に説明を求めたらちゃんと理由を話してくれたわよ。ずっと前の大会で、身体検査を潜り抜けてまで不正な薬物を使えた事があったんだって。その人は尻の中に薬物を隠して、身体検査が終わった後で服用したらしいわ」
「良くやるなぁ……」
その過去に起こった不正のせいでとんでもなく厳しくなっているのは、身体検査だけで無く持ち物検査も同じらしい。
「それから持ち物検査でも、事前にどんな選手が参加するのかって言うのを知り合いの騎士団員から聞き取ってメモした紙を袋の中に入れていたらしいのよ。それも普通に入れていたんじゃなくて、袋の縫い合わせの部分を一旦解いて、その中に隠すって言う巧妙な手口だったらしいわ」
「その労力を戦いに向けていれば良かったんじゃないのか……?」
「そうよねー。その人は結局優勝したらしいけど、最終的にその不正がバレて優勝取り消しになっただけじゃなくて、武術大会への参加がそれ以降禁止になったらしいからかなりチェックが厳しいわよね……」