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315.規定説明

 参加者全員の集合が確認された所で、控え室にやって来た係員の騎士団員が参加者達に既定の書かれている紙を配ってから説明を開始する。


「皆さん、この度はエスヴァリーク武術大会の第二千六十二回大会にご参加頂きましてありがとうございます。私は今回、係員の一人を務めるニーヴァスと申します」

(あれ、あの人って……)


 控え室に入って来た騎士団員の姿に、真っ先に既視感を覚えたのがソランジュだった。

 自分の記憶違いで無ければ、白い髪の毛の前髪が片方の目を覆い隠している程に伸びているこの騎士団員に自分達が入国審査を受けた。

 今回は武術大会の係員として駆り出されたのか……と心の中でこのエスヴァリーク帝国の騎士団の人員不足を嘆きながら、彼の説明に耳を傾け始めた。


「さて、我が国の武術大会に参加されるのが初めての方もいらっしゃいますので既に何回も参加されている方については聞き流して頂いても構いません……と言いたい所ですが、今回は事前に開催事項が街中に通達されていた通り、そうも行きません」


 今回は変則的な大会になるので、初めて参加する参加者にとっても何回も参加している経験者でもしっかりと説明を聞いて貰わなければならないニーヴァスは、先にそう前置きをしてから説明を始める。


「今回の武術大会におきましては、エスヴァリークの北の地域で目撃情報が相次いでいるドラゴンの討伐に向かう為の人員を選抜する為の選抜大会も兼ねております。勿論、上位入賞者には我がエスヴァリーク帝国騎士団への入団資格も発行されますが、辞退をする事も可能です。ですがドラゴンの討伐に関しては辞退が不可能となっておりますので、まずはそれをご了承の上で出場をしたものとみなしております」


 だがニーヴァスがそう言った瞬間、参加者達の間にざわめきが走った。

 そして、ドラゴンの討伐を辞退するのは不可能と聞いた一人の参加者が「僕やっぱり止めます」と言ってそのままドアの外へと出て行ってしまった。

 出て行く時に床に投げ捨てられてしまった、参加者の証である赤いカードが虚しくその存在感を主張する。


(おいおい、出て行っちまうのかよ……なっさけねえなあ!!)


 口には出さないものの、サィードは心の中で怖じ気付いて出て行ってしまったその男の参加者を罵倒する。

 しかもその参加者に続いて一人、また一人と出て行く者が現われる。

 気が付けば最初に三十人近く居た筈の参加者は、全部で十五人にまで減ってしまっていた。

 レウス達は全員この場所に残り、先程揉め事を起こした冒険者のヒルトン姉妹も残っているのでここに居る参加者達はその覚悟があると言う事だ。

 それでも出て行った参加者達のカードを拾い集めて、自分の首にぶら下げて一時保管したニーヴァスの表情は冷静で、何事も無かったかの様に説明を再開する。


「それでは大会の流れについてですが、本日……一日目はまず予選となります。他の控え室で皆様と同じく説明を受けている他の参加者の方々とこれからコロシアムの中で戦って頂きまして、その中で勝ち残った皆様が二日目に進めます。明日の本選に残れるのは全部で八名となります」

(八人……と言う事は私達六人全員が残れる可能性はあるって事よね)


 参加者達の後ろの方で説明を聞いていたサイカがそう考えるが、およそ百五十人の参加者を組み合わせて戦わせるに当たって一組ずつ進めていては時間が足りないので、広いコロシアムの中を仕切り用の石を積み上げて八つのスペースに区切る。

 そのスペースの中で戦わせて勝った者から順番に勝ち抜けになり、最終的に八名まで絞り込んでトーナメント戦が行なわれるのだ。


「その八名に絞り込む為の戦いについてですが、こちらも公平を期する為にこの部屋に居る参加者の方同士が当たる事は無い様にしております。事前に八百長の打ち合わせをしてどちらかが上手く負けようと言う事、それからお互いに戦い過ぎて両者共に続行が不可能と言う事が過去にございましたので、この部屋の中で見知った者同士を初日に戦わせる事はございません」


 だが、勿論この部屋の中に居る全員が勝ち上がれる訳でも無い。

 それにこうして区画を分けて戦わせる理由はもう一つあった。


「また、控え室から他の選手の戦いは見られない様になっております。それから付き添いの方の観戦も出来ません。更に戦いが終了した方につきましては、この控え室に戻って来るのでは無く八名がそれぞれ個室タイプの別室へと移されてそこで本戦を迎える事になります。なので、勝ち上がった方についての情報交換も不可能となっております」

「それはどうしてなんだ?」


 手を挙げて質問をするサィードに対し、ニーヴァスは落ち着いて答える。


「これも公平を期する為です。事前に勝ち上がった方の戦いを見て、戦術を練る事が出来ない様するのが目的です」

「つまり誰と当たるのかも分からないし、相手がどんな戦い方をするのかも分からない一発勝負って事か?」

「はい。実際の戦場ではどの様な敵が襲って来るか分かりません。なので例え本戦の相手が身内だったとしても一切の情報が無いままでトーナメントで戦って頂きます」


 つまり、相手が見知った者同士の戦いになる事もあり得る。

 徹底的に実戦を想定し、そして予想外の相手に対処出来る様な鋼の精神力も必要になるのだ……。

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