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314.エスヴァリーク武術大会、開幕

 膨大な人の波。

 このエスヴァリーク帝国の帝都ユディソスにあるシンボルの一つであり、武闘派の国民が多い事を象徴する建物でもあるコロシアムの総席数はおよそ五万人。

 毎回、武術大会では大体二万人から二万五千人が訪れるので半分程しか入っていない計算になるが、今回の武術大会では魔術が使用禁止と言う事もあってエントリーしている人数は少ない。

 だがその代わりに、魔術に頼らない真っ向勝負の戦いが見られるので武闘派の国民にとっては何時も以上に興奮出来る大会でもある。

 その変則的な大会を見に来た観客の数は何時もより多く、何とチケットが売れに売れて三万人が集まったらしいのだ。


「参加者の人数に反比例して、観客の方が人数が多いなんてどうかしている」

「無理もありませんよ、セバクター坊っちゃん。人間も獣人もかつては幾多もの闘争を勝ち抜いて生きて来た生物です。真っ向勝負が見られるとなれば尚更興奮するでしょう」

「妙に深い事を言うんだな……」


 ペーテルの言葉に真顔で驚くセバクターだが、コロシアムの中に入ればその驚きもすぐに消える。

 係員によって確認された参加者の数は全部でおよそ百五十人。

 例年は三百名程の参加者が集まるらしいので、約半分のエントリーに留まっている。

 しかし、今回の武術大会の優勝者を含めた上位入賞者は例のドラゴンを討伐しに行かなければならないので、それに怖じ気付いた者も居るらしくエントリー自体も心情的に分かります、とペーテルは頷いていた。

 そしてここに居る参加者達は、ドラゴンの討伐に向かう自信があるからこそ集まって来た者ばかりであるとも言えるのだ。


「例年よりもレベルの高い戦いが予想されます。十分に気を引き締めて下さい、皆さん」

「分かりました」


 レウスを始めとする参加メンバー六人がペーテルの忠告に気を引き締めつつ、まずは受付の為にコロシアムの入り口の近くに設置されている騎士団員達の待っているカウンターに向かった。


「参加希望のセバクターだが」

「ああ、話は聞いておりますよ。全部で六名の方ですね。それではこの紐がついたカードを首からぶら下げて、向こうにある控え室で待機をお願い致します。それから付き添いの方は色違いでこちらのカードを首からぶら下げて下さい」


 手慣れた様にそう告げる受付の騎士団員が、奥まった場所にある鉄製の重そうなドアをくいっと人差し指で示す。

 参加者の証である番号が書かれている赤いカードをぶら下げた六人と、番号が書かれていない青いカードをぶら下げたアレットとペーテルの合計八人がそのドアの先に進むと、広々とした長方形の室内に多くの参加者が集まっていた。

 控え室はここ一つだけで無く、全部で十か所あるのでここに集まっているのは約二十人。他の控え室でも同じ様な光景になっているらしいので、いかにこの武術大会が人気なのかが分かる。


「えーと、とりあえず荷物を纏めましょう」

「ああ。ほら……そっちのスペースが空いているからその一か所に纏めて置こうよ」


 アレットはあくまで付き添いなので、今回は魔術の使用が出来ない。

 アドバイスをしたり水を差し入れたりする事は出来ても、公平を期する為に仲間の参加者に回復魔術を掛ける事は許されない。

 そんなアレットの荷物整理を促す声に反応したサイカが、室内の一角を指差して自分から率先して荷物を置いた。

 しかし、そんな八名の元に不機嫌そうな声が掛かる。


「ねえちょっと、そこは私が先に荷物を置いてたんだけど」

「えっ?」


 一行が一斉に振り返った視線の先。

 そこにはこれまた久し振りである、オレンジ色のロングヘアーが特徴的な女の姿があった。


「あ、ええと……貴方は確か……」

「ドリスよ、ドリス。それよりもそこ、荷物どけてよ。選手の荷物を置く場所は番号でしっかり分けられているでしょーが」

「えっ?」

「ここよ、ここ!! ここに書いてあるでしょ!!」


 雑な手つきでサイカの荷物をどけたドリスが、床に書かれている番号を何度も指差しながら大声で指示をする。

 うっかりそれを見落としていたサイカは気まずそうな表情になりながらも、自分の失態なので慌てて謝罪をした。


「あ……ご、ごめんなさい、ええっと私達の場所は……」

「あっちよ、あの隅っこ! 全く……ちゃんと場所も確認出来ない様な人が参加するなんて、物凄い不安だわ!」


 悪態をつき続けるドリスに対し、ポツリとサィードが呟いた。


「何か、キャラが違うんじゃないのか?」

「キャラって何よ! 私のキャラは元々こうなのよ!」

「そうか? あのギルドで会った時とは全然違う様な気がすっけど?」

「うるさいわね! 人の事は良いから早く自分の準備しなさいよ!!」

「その辺にしておきなさい、ドリス」


 穏やかな声がドリスを落ち着かせる。

 声のする方向をサィードとドリスを始めとする一行が見てみると、彼女の姉であるショートカットの金髪が特徴のティーナが歩み寄って来ていた。


「貴女も貴女よ。参加者同士の争いは禁じられているんだから、これ以上騒ぐと強制的に失格になるわよ」

「う……」

「ごめんなさい、ドリスは見ての通り口も態度も悪くて……」

「いえ、大丈夫です。こっちも良く確認してなかったのがいけなかったんですから」

「そうですか。それではごきげんよう」


 様々な人間や獣人の思惑を載せて、いよいよエスヴァリーク武術大会が開幕する。

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