311.怪しい兵器の噂
登場人物紹介にユフリー・カルディルを追加。
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それでも、その怪しい兵器の断片的な話については密偵を通して魔術師から報告が入っているらしい。
「それでその兵器についてなんだがなぁ、こう……金属製のパーツがあって、その先に筒をつけて穴を先端に開けて、引き金ってのを引くだけで魔力の弾丸って言うのが飛び出して、簡単に弓矢以上の貫通力を発揮するらしい」
「弓矢以上の貫通力を、そんなに簡単な仕組みで!?」
「嘘だろ……信じられませんよ、そんなの!」
「ああ、俺だって未だに信じちゃいないさ。実物を見た事が無いんだし、そんな兵器も噂だけかもって言われてるんだから。だけど、今回の事件の犠牲者五人全員が小さい穴を身体に開けられて、そして命を落としているんだ。となると、この新開発兵器の噂も信じる方向に話が進むと思わねーか?」
しーん、と執務室の空気が静まり返った。
今まで自分達が特訓して身につけた弓のテクニックとパワーが、軽々と超えられてしまう程の威力と仕組みの簡単さを併せ持った兵器の開発が進められている。
もしそんな兵器が実用化されて世の中に出回る様な事になれば、そして騎士団員だけでは無くて一般人でも手に出来る様になれば。近接戦闘と魔術で成り立っていた今までの戦術の教本を書き直さなければならなくなってしまうかも知れない。
それに加えて、カシュラーゼ以外の国でも新たな兵器の噂がもう一つ出回っているらしいのだ。
「それとさあ……こっちはまた別の話になんだけどよぉ、四足歩行の巨大兵器の話を知っているか?」
「巨大兵器ですか?」
「いえ、それも分かりませんね。それは何の話ですか?」
フォンとニーヴァスが頭に疑問符を浮かべて聞き返せば、ジェラルドはデスクの引き出しからこのエンヴィルーク・アンフェレイアの世界地図を取り出してバサバサと広げる。
そして地図の上にある、イーディクト帝国の最北端を指差して一言呟いた。
「こっちで古代の兵器が発見されたらしい」
「古代の兵器? それがその四足歩行の巨大兵器の話ですか?」
「そうだ。ウェイスの町って言って魔術に精通している奴等が集まっている町がここにあるんだけどよぉ、どうやらそこの近くにある旧い方のウェイスの町で、あの勇者アークトゥルスの生まれ変わりが率いている奴等が何かをしていたらしいんだな。で、それについて今はイーディクトのシャロット皇帝に連絡を取って事実確認をして貰ってんの」
「は、はぁ……その古代の兵器って言うのと、今回の事件で使われたかも知れないと言う新開発の兵器と、何か関係があると?」
戸惑いがちにフォンが問い掛ける横で、冷静なニーヴァスが自分の意見を述べ始める。
「つまり、その古代の兵器が今回の事件で使われたかも知れないその新開発の兵器の開発に役立っていたのかも……と言う話があるんじゃないか、と言う事ですよね? 陛下がおっしゃりたいのは」
「そーだよそーだよ。そこまで深読みしてくれるなんてすげーな。まあこれもまだまだ噂の段階だから何とも言えねえけどさあ、俺達の国であのアークトゥルスの生まれ変わりだとか言う奴がこんな形で関わっているんだとしたら、それはそれで大問題だぜ? だから武術大会に参加するかも知れねえし徹底的にあいつ等をマークしろ。これまで以上にだ。頼むぜ」
◇
同じ頃、まさか思わぬ所から思わぬ形で自分達に疑いの目が向けられているとは夢にも思っていないレウス達一行の耳にも、路地裏で起こった変死事件についての話が届いていた。
そして、その中心となっているのがセバクターである。
「それは恐らく、ハンドガンと言う物だろう」
「はんどがん?」
「ああ。レウスが俺に浴びせたエネルギーボールを作れる仕組みを、これ位の小さなの小さな金属パーツの中に組み込むんだ。そしてそれに魔力を注入してエネルギーボールを生み出し、金属パーツの先に取り付けた筒の先端から発射出来る様にする」
そう言いながら右手で握り拳を作ったセバクターは、左手でその金属パーツの形を再現しながら説明を続ける。
「こうやって握れる形のパーツの、この人差し指の部分に引き金って言う湾曲した取っ手を作る。その引き金をこうして引き切れば、その反動で中の魔力を使ってエネルギーボールが生み出されて発射される。それこそ……そうだな、あの出入り口のドアを貫通する位の勢いはあるかもな」
「そんなに!?」
「でもそうだとしたら、その五人が風穴を開けられて貫通させられたって言うのもあながち嘘じゃないかもね……」
セバクターの説明にサイカが驚く横で、魔術に詳しいアレットが考え込む素振りを見せる。
しかし、その横で話を聞いていたソランジュは別の事が気になっていた。
「カシュラーゼがその様な兵器を開発しているのはお主の今の説明で分かった。だが、問題はアレットとエルザが食事をしていたステーキ屋のすぐ近くの路地裏でその事件が起こった事だ。もし私達がカシュラーゼからやって来たと分かったら、それだけで私達に疑いの目が向けられるんじゃないのか?」
「それは言えているな。特にアレット、貴様と私はそのステーキハウスの当事者でもあるのだからなるべく武術大会当日まで外に出ない方が良いかもな」
「すげー他人事みてーに言ってっけど、お前も気をつけろよなエルザ」
「ああ、分かっているさ」