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310.難航しそうな予感

 その話がエスヴァリークの帝都ユディソスを駆け巡ったのは、次の日の夕方頃だった。

 路地裏で五人の死体が発見されたのだ。

 問題の路地裏に入り込んだ盗っ人と、その盗っ人を追い掛けていた騎士団員達が揃って第一発見者である。

 血にまみれた五人の死体を見つけたその三人は敵も味方も関係無く揃って腰を抜かし、すぐに応援が呼ばれて盗っ人と一緒に処理された。

 五人の人間、それから獣人の男女の死体には共通点として頭や胸や足に小さな穴が開いており、そこからの出血が命を奪ったらしい。


「だが、凶器となる物は現場から発見されていないのか……そうなるとこの捜査は長引きそうだぞ」

「そうですね。夕暮れ時で人通りも多かったですが、その分なかなか目撃者も出て来ないですし」

「まあ、武術大会前なんだ。こんだけ人間や獣人でごった返していて騎士団の監視の目もなかなか行き届かない現状じゃあ、路地裏に入って行く人物よりも往来を通る人間や獣人の方が目につくよな」


 下の方から上がって来た報告をするフォンとニーヴァスの二人に対して、その報告書をバサッと執務室のデスクの上に放り出したジェラルドは溜め息を吐く。

 この好戦的な国民が多いエスヴァリークのみならず、荒くれ者連中とか浮浪者が殺されるってのは世界中で良くある話だ。

 荒くれ者が金銭目的で一般人を襲って返り討ちに遭ったりとか、遊び半分で浮浪者を痛めつけていたら死んでしまったりだとか、そうした死亡事例は後を絶たないのが世界共通である。

 しかもそうした被害者達は身寄りの無い者が多いので、こうした事件が起こってもいちいち対処なんかしていられないと面倒臭くなってろくに捜査もされず、仲間内のトラブルだとして片付けられてしまう怠慢な対応もある。


「けどよぉ、今回の事件は気になるよな。凶器となる物が見つかっていねえならまだしも、争った形跡すら全然見当たらなかったんだろ?」

「はい。現場検証に当たった騎士団員や医師の話では、無抵抗のまま殺されたと言う見方が強いです」


 フォンのセリフに、最早彼の癖とも言って良いポーズ……両手を頭の後ろで組んで、ギシリと椅子を軋ませてもたれ掛かる偉そうに踏ん反り返る姿勢を取ったジェラルド。

 だが実際に彼は一国の皇帝で、このエスヴァリーク帝国では誰よりも偉い存在なので何も言えないフォンとニーヴァス。


「そこが俺、引っ掛かるんだよなあ。状況からして仲間内での争いって訳でも無いみてーだし、かと言って誰に殺されたかも、どうやって殺されたかも分からない状況だろ? で、凶器も良く分からない……穴を頭に開けたのは一撃で終わらせる為なんだろうけど、それにしては凶器が無いのも不自然だぜ。遺留品はどうなってる?」

「ええと……財布とか指輪とかの貴重品らしき物の他に、ナイフとかの凶器になりそうな物も見つかっておりますが、それと致命傷の傷は一致しておりません」


 ニーヴァスの報告にますますジェラルドは頭を抱えた。


「ってなると、五人揃って無理心中したって話でも無さそうだからこりゃー事件解決まで時間が掛かりそうだぜ。とにかく武術大会も残り数日で開幕なんだから、こんな時にこんなに大勢の被害者が出ているなんて事が知れ渡ったらかなりやべえよ。忙しいとは分かるが捜査を進めてくれ。俺も国内、国外問わず怪しい奴が入出国していなかったかのアプローチを掛けてみっから」

「かしこまりました」


 一礼して退室して行くフォンとニーヴァスの二人の背中を見送って、ジェラルドはまた両手を頭の後ろで組んで、ギシリと椅子を軋ませてもたれ掛かる。

 だがその瞬間、彼の顔がハッとしたものになり何かを思い出した。

 それと同時にバッと椅子から立ち上がり、今しがた出て行った二人を呼び止めるべく執務室のドアを壊れんばかりの勢いで開け放つ。


「おーいおいおいおい! フォンとニーヴァス待った待った!!」

「えっ?」

「は、はい?」


 さっきまで偉そうにふんぞり返りながら話していた主君が執務室から飛び出て来たのに気が付いた二人は、すぐに執務室へと引き返した。


「いかがなさいました?」

「いや、あのな……思い出したんだよ、もしかしたら今回のその大量変死事件に関係しているかも知れない怪しい兵器の噂をさ!」

「兵器の噂ですか?」

「そうそう! いや、これは本当にあくまでも噂でしか無いんだが、カシュラーゼの方で新しく兵器が開発されているかも知れないって密偵の奴から連絡があったんだよ。それでその兵器について探らせていたんだが、この世の中にある戦い方を根底から覆しちまう事になるかも知れねえって威力と使いやすさを持っている兵器らしいんだ」


 フォンとニーヴァスの二人は顔を見合わせる。


「それってどんな物なんですか?」

「実物は手に入ったんですか?」

「いいや、実物が保管されているって言う魔術研究所に潜入させようとしたんだが、セキュリティが頑丈過ぎて無理だったそうだ。だから魔術師の一人を結構な金を積んで買収して、何とか断片的な情報を手に入れたってだけなんだ」

「それでも断片的な情報だけ?」

「そーなんだよ。俺ももどかしいんだけど、そもそもその魔術師もその断片的な情報しか知らねーらしいからしゃーねーよ。……もしかしたら、その兵器が今回の事件に使われたかも知れねえって俺は考えたんだ」

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