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309.策略とタイミング

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 物言わない肉の塊になってしまった、スキンヘッドの男だった物体を見下ろしてユフリーは一言呟く。

 その声には何の罪悪感も無かった。


「確かにこんなの、あのレストランじゃ使えないわよね」


 大勢の人間や獣人が居る目の前で、これを使わなくて良かった……と自分の判断が間違っていなかった事を実感しながらその灰色のジャケットの懐に金属製の物体を隠し終えたその時、カツコツと路地の奥からブーツで地面を踏み鳴らす音が聞こえて来た。

 その音に反応したユフリーがフードをバサッと取り払って前方を見て、呆れた様な口調で足音に向かって問い掛ける。


「……ねえ、もしかしてずっと見てたの?」

「ああ。なかなか良い腕じゃないか。感心したぜ」

「ふーん……貴方の方がよっぽど腕前が上だから、そう言われてもお世辞にしか聞こえないんだけどね」


 その足音の主が、夕日に照らされて眩しそうな顔をしながら近付いて来た。

 だが、その眩しさで歪む表情の中には余裕が見て取れる。


「そうかそうか、確かに俺の方が腕は上だからそりゃー事実だよ。でもちゃんとそれは使えている様で一安心だ」

「そうね。この武器のテストは上々ね。これだけの人数を相手にして、たったこれだけの労力で簡単に無力化出来ちゃうんだから、カシュラーゼの魔術テクノロジーは本当に素晴らしいわよ」


 先程懐に収めた金属製の物体をジャケットの上からサラリと撫でて、ユフリーも満足そうな笑みを浮かべる。

 しかし、彼女はすぐに真顔になった。


「でも何でこっちまで来たのよ? 魔術通信で連絡してから合流するって約束だったじゃない?」

「んん……確かにそうだったけどさ。その新しい兵器が実戦でどれ程の威力なのか、俺は客観的に見た事が無かったから気になっちまってよ」

「客観的にって……事前に樽を一撃で貫通したり、金属製のテーブルに貫通寸前まで穴を開けたりしてその凄さは証明されていると思うけど?」

「それでも見てみたかったんだよぉ~、だからそれ位にしてくれよぉ~」


 両手を握って片足を上げて、くねくねと震えながら口を尖らせて身体をよじる男のその姿に対して、ユフリーは明らかに嫌そうな顔をして話題を変える。


「何ぶりっ子してんのよ。良いからさっさと本題に入るわよ。テストはあの通り上々で終了。それから例のレウスとか言う、アークトゥルスの生まれ変わりだって男が率いているメンバーとの接触にも成功よ」

「で、そのメンバーってのはどんな奴だった? 回って来たデータの中の誰だ?」


 身体をよじっていた男が仁王立ちになり真顔に戻ってそう聞けば、ユフリーは淀み無くしっかりと答える。


「マウデル騎士学院二年生のアレット・レナールと、三年生で学院の首席でもあるエルザ・ミネルバ・テューダーだったわ」

「魔術師の女とバトルアックス使いの女だな。どうやって会った?」

「どうやってって……レストランに入って行ったのを見たからそれを追って私も入ったら店員に「ただいま満席です」って言われたから「さっきの二人の女と友達なんだけどここに来たって言うのを知らせないでびっくりさせたい」って言ったら他人の振りをして上手く相席出来たのよ」

「へー、やるじゃん。その店員にも感謝しねーとな!」


 まさかあんなにスムーズに相席が出来るなんて、ユフリー自身も思っていなかったのでびっくりだった。

 その後は先程のレストランでの会話の通り、彼女達が武術大会に参加すると言う事、カシュラーゼで生み出されたドラゴンの生物兵器を倒す為に動いている事等の情報を聞き出した。

 本当は少しでも向こうが自分を怪しむ素振りを見せたらその場で射殺する予定だったが、今にして思えばあのレストランでこの新開発兵器を発砲したら大騒ぎになって大勢の客や店員に目撃されてしまっていただろう、と改めて安堵する。

 そんな彼女に対して、青髪の男は腕組みをして考え込む。


「でもさ、レストランで発砲しなかったのは良かったけど……これから先の話でどうする? あいつ等が武術大会に参加しちまったら仕留めるチャンスが無くなっちまうぜ?」

「そうよねえ。街中でこれを発砲する訳にもいかないし、仕留めるなら素早くやっちゃいたいけどなかなかチャンスが無いから困るわ」


 やや強めの風が吹いて、先程ユフリーが射殺した五人の死体から漂って来る血の臭いが二人の鼻を掠める。

 その血の臭いに反応した男が、そうだ! と右手の拳で左手の手のひらを上から下に向けて打った。


「そうだよ、その手があった!!」

「何?」

「無理に射殺しなくても良いんだよ! あいつ等を窮地に立たせる策略なんてちょっと考えれば幾らでもあるんだぜ!」

「そうなの?」

「そうそう。しかも俺達の存在を知られる事も全くと言って良い程に無い安全なものだ。人って言うのは噂に惑わされやすい生き物だから、そこを突けば良いのさ」

「うーん、そう簡単に行くかしらねえ? もしそれで駄目だったらどうするのよ?」

「その時は実力行使でぶちのめす!」

「結局そうなるのね……」


 最終的には力尽くですか……とユフリーは呆れながらもその策略を練るべく、自分が引き起こした殺人現場から余裕を持った足取りで路地の奥へと男と共に姿を消した。

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