28.勇者アークトゥルスvs騎士団長ギルベルト
「……!」
アークトゥルス。
それは捨て子で苗字すら無かった存在だった自分の、そして前世の勇者だった時の自分の名前。
それを何故、このギルベルトが知っているのか?
そもそも、今はどうしてこんな事になっているのか?
頭の中を色々な疑問が駆け巡りながら、それでも獣人の騎士団長相手にレウスは立ち向かう。
ハルバードと槍では斧がついているかいないかの違いだけではあるものの、いざ戦うとなれば横方向に振れる斧付きのハルバードの方が有利である。
そして騎士団長ギルベルトの実力がどの程度かも分からない以上、レウスは自分から攻めようとは思えなかった。
「おらあああああ!!」
「くっ!」
ギルベルトがハルバードを構えて向かって来るのを見て、レウスはクラスメイト五人を相手に立ち回った時と同様にエネルギーボールを生成して彼に向かって投げつける。
だが、ギルベルトは何とそのエネルギーボールをハルバードで打ち返して来た!
「なっ!?」
咄嗟に横っ飛びで、自分が放ったエネルギーボールの直撃を回避するべくレウスは地面を転がる。
ターゲットを失ったエネルギーボールはレウスの後ろにあった壁にぶつかり、ドーンと音を立てて少し部屋を揺らす程の衝撃を発生させた。
「はっはあ、そんなエネルギーボールを俺に向かって放つたぁ、流石は五百年前の勇者の生まれ変わりって事か!」
「何でそれをあんたが知っているんだよ!?」
「それは……そうだな、この戦いが終わったらきっちり教えてやるよ!!」
「くっそ、どうして俺がアークトゥルスの生まれ変わりだと知っているのかは分からないけど、そっちがその気だったら俺も本気を出させて貰うしか無いな!」
レウス、いやアークトゥルスのその宣言にギルベルトの動きが止まる。
「本気……ね。だったら存分に出してくれよ。その方が俺も戦い甲斐があるってもんだぜ!!」
「分かった。俺に本気を出させるって事がどうなるのか、それを今からあんたにたっぷりと見せてやる。だからあんたも全力で掛かって来いよ」
「良いねえ。ドラゴン討伐の勇者様がしみったれた戦いなんかしやがったら、全力で仕留めに行ってやるぜ。その為に俺はお前に武器を持って来る様に頼んだんだよ!!」
「だからか……良し、ならまずはこれを食らえっ!」
そう言いつつ、アークトゥルスは槍に魔力を込めて地面スレスレの位置で三回大きく薙ぎ払う。
するとその薙ぎ払われた槍の先端から、青白い閃光を残しながらギルベルトに向かって衝撃波が飛び出した。
「うおっ……!」
「はああっ!」
ギルベルトがハルバードで衝撃波を打ち消している隙を狙い、アークトゥルスは更に攻めて行く。
魔術は殆ど使えないので、代わりに今の父ゴーシュから習った槍術に、五百年前から自分の身体がまだ覚えているテクニックを組み合わせる。
アークトゥルスがドラゴンを討伐するには仲間の力が必要不可欠だったのだが、一人でも戦える様に武器術や体術のトレーニングは欠かしていなかったので、その全てを総動員する。
ギルベルトに対して槍を突き出し、そして避けられてハルバードで反撃される。
鉄と鉄がかち合う音が狭めの部屋の中に響き渡り、ここでパワーに勝る虎獣人のギルベルトがアークトゥルスを押し返した!
「うっ!?」
「おらああっ!!」
獣人の方が人間よりも身体能力が高いので、ここから怒涛の反撃が始まる。
それを魔術防壁を展開しつつ、若い身体に生まれ変わった反射神経と槍のブロックで凌ぐアークトゥルス。
だが、このままではパワーで押し切られてしまうかも知れないので、彼は騎士団長相手に一か八かの作戦に出る。
ちょっと危険だがやってみる価値はありそうだ……と踏んだ彼は、向かって来るハルバードの先端を自分の槍の先端に上手く合わせる。
それを見たギルベルトはパワーで押し切ろうとするので、ここでスッと力を抜くアークトゥルス。
「うお!?」
全体重を前に向けて掛けていたギルベルトは、支えになっていた槍が無くなった事で前のめりになってしまった。
それを見つつ、アークトゥルスは一気にしゃがんで土の地面に両手を着きつつ、自分の方に近づいて来たギルベルトの股間を足の裏を使って蹴りつけた。
人間も獣人も、この場所が急所なのは変わらないのでギルベルトは悶絶する。
「ぐおおお……おっ、てめえええっ……!!」
「ふん、戦場では何でもありなんだよっ!!」
「ぐほっ!?」
アークトゥルスは立ち上がりつつ、今度はギルベルトの股間を蹴り上げ、更に悶絶させて前屈みの状態にさせてから大きめに飛び上がる。
そして、彼の後頭部目掛けて全体重を乗せた膝を落とした。
前屈みの姿勢でしかも重い頭に向かって繰り出された膝落としにより、ギルベルトは顔面から土の地面に叩き付けられた。
土が衝撃を吸収してくれたとは言えかなりの衝撃であり、呻きながら仰向けになったギルベルトの目前にアークトゥルスは自分の槍の先端を突き付けた。
「諦めろ。あんたの負けだよ騎士団長」
「……は、はぁ……はは、流石は五百年前の勇者だぜ……」




