305.モヤモヤする気持ち
モヤモヤする気持ちがまるで晴れないながらも、翌朝からそのレウスを含めたパーティーメンバー達はユディソスの至る所に散らばって依頼をこなして行く。
それと同時にセバクターはレウスの両親とエドガー達に対して、家具の中に入れてカムフラージュした状態の魔晶石を大量に魔術通信で売りに掛かる。
「俺だ、久し振りだな」
『あー、セバクターさん? どうも久し振りね。どう? レウスは上手くやっているのかしら?』
「ええ、今の所こちらは問題無いですよ」
通話に応答したのはレウスの母親ファラリアである。
しかし世間話をする為に通話をしているのでは無いので、さっさと本題に入るべく話を切り出す。
「それはそうと、魔晶石は要りませんか?」
『えっ、魔晶石?』
「ええ。アイクアルから上物が手に入ったんです。それも大量にね。とてもじゃないけど捌き切れないんで……ほら、何かと必要になるんじゃないですか?」
最後の一言に含みを持たせた言い方をしてみると、携帯用の通信石の向こう側のファラリアの声のトーンが変わった。
『そうねえ……確かに必要よね。こっちの方は畜産とか漁業とかは大丈夫だけど、魔晶石を発掘する為の鉱山が全然無いからどうしても他国からの輸入頼りなのよね』
「そうですか、それでは幾らでやりますか?」
『うーん、私だけじゃ決められないからゴーシュにも相談してみるわ。それからエドガーさんにもね。……実際の話、知ってるんでしょ? 私達があの人から話を受けたって。そして私達を通じて貴方を潜入させて、息子達の情報を流して貰っているって』
「ええ、それは勿論ですが……あの人の詳細については俺も教えて貰ってないんです」
ウォレス率いる犯罪組織にレウス達を誘拐させている間、セバクターの元に一本の連絡があった。
それは大元の依頼主を通したゴーシュとファラリアからの連絡であり、エドガーも巻き込んで何やら大きな事をしようとしていると言うのは聞いた。
そしてそれについては自分の協力が必要だと言う話で、息子のレウス達とこの先で合流する事があればその時は逐一ゴーシュとファラリア、そしてエドガーに情報を流して欲しいとの話を受けていたのだ。
だが、自分が二重スパイとして動いている事については知られていないらしい。
(やはり……予想は当たっていたのか?)
ファラリアがペラペラと喋ってくれた事もあって、レウスと話していた予想がピタリと当てはまった……かに思えたのだが、まだ確証は持てない。
ファラリアの言っている「あの人」の正体をしっかりと掴めない限りは、本当にファラリアを始めとするマウデル騎士学院の関係者三人が魔竜エヴィル・ワンの復活を企んでいるのかまでは分からないからだ。
なので、それと無くセバクターは「あの人」の正体について探りを入れてみる。
「だからそろそろ教えて貰っても良いと思います。あの人って一体誰なんですか?」
「ごめんなさいね、それについては私もさっぱり分からないのよ」
質問をしてすぐに返って来た答えがそれだった。
そのファラリアの回答に若干苛立ちを覚えながらも、冷静に話を進めるレウス。
「俺みたいに直接あのレウスを見張っている様な末端の人間ならまだしも、ファラリアさん達はあの人から直接連絡を受けたのでは無いのですか?」
『そうね、受けたわ。だけど本当に私もゴーシュも知らないの。向こうは名前を名乗ったりもしなかったし。知っているかも知れないのはエドガーさんだと思うんだけど、そこについては機密事項って事で教えて貰えないのよ』
「機密事項?」
『ええ。魔晶石を使って大きな事をするって話は知っているし、実際にその計画に私達も加担したわ。だけど、それで報酬を貰って終わりかと思ったらまだまだ計画は続いているみたいだし、さっぱり何が何だか……』
どうにも煮え切らない態度である。いや、話を上手くはぐらかされていると言った方が良いだろうか。
ここは一旦話を終わらせて、魔晶石をどうするかの話に戻る。
「そうですか、分かりました。それで魔晶石の話なんですけどどうしますか? こちらから船で部下に運ばせて、直接リーフォセリアで売買します?」
『だからゴーシュに聞かないと分からないって。とりあえずあの人と相談してから決めるわ。で……貴方は今何処に居るの?』
「エスヴァリークの帝都ユディソスです。上手くレウス達と合流出来たんですが、そのレウス達は武術大会に参加するらしくて……それで俺も一緒に」
『あっ、そうなの。分かったわ。武術大会ってもうすぐなの?』
「ええ。もう一週間足らずで開催しますよ」
『そんなに短いのね。でも、それだったらちょっと急がないといけないわ。この国からそっちの武術大会に参加する人達が、武術大会後に買い替える色々と武器とか防具とかの需要もありそうだし。それじゃ二日後に連絡を頂戴。出来れば夜にお願いするわ』
「分かりました、それではまた」
長い会話が終了したものの、結局ファラリア達があの爆破事件に関わっているのかどうかまでは掴み切れなかった。
向こうも用心深くこちらに接しているのか、それとも本当は関わっていないのか。
いずれにせよ、真実を知るのはまだまだ先になりそうでモヤモヤする気持ちが残ったのである。