301.荷物の中身
アンノウンのレストランの中では、あのウェイスの町と同じ様に色々な物が散乱している。
これを整理するのがレウスの仕事だ。
「じゃあまず、それとこれをあっちの端まで運んで」
「分かった」
指示された通りに荷物をどんどん移動させたり、店の奥にある倉庫へと運び込んだりして体力の要る作業が続くが、まだまだ武術大会までは時間があるのでそれまでには疲労が回復するだろう、と考えながらレウスは作業を続ける。
それよりも気になるのは、この移動させている荷物がどんな用途で使われるのかと言う話だ。
しかし、ただの人足で雇われたと言う設定の自分がそんな事をいきなり聞いたら不審がられるのは目に見えているので、荷物の状態や中身の様子等で判断するしか無いだろう。
(運んでいるのはあのウェイスの町の時と同じく、木材とか金属の色々な用具や材料があるみたいだが……これは良く見てみると家具だな)
あのウェイスの町でセバクターの手下と戦った時、ギルベルトと共に大暴れをして壊した家具の破片が散乱していたとしたら辻褄は合う。
中で作業をしているのがバレない様にする為なのか、明かりもつけずに黙々と作業をこなしている他の人物達に目を向けながら自分も作業を続けるレウス。
レウス達は金属製の大きな机や、革張りの豪華そうなソファー、それに木製の大きな樽と言った大型の物が大多数を占めるので、レストランの改装作業でもやっているのかと思うのだが……。
(何か、たまに家具の中からガチャガチャと音がするんだよな……)
家具を運んでいるにしては奇妙な音なのだが、最近の家具はこんな音がするのだろうか?
いや、それにしては不自然だ。
ガシャガシャ、ガラガラと何か細かい物が内部で揺れ動いている様なそんな音がしているのは明らかに家具を運ぶ上で違和感を覚えるので、ここは一緒に作業をしている他のメンバーにバレない様に何とかして中を探るしか無いだろう。
なのでその探りやすい物を運べる様に、レウスは言葉巧みに作業を自分の方へ誘導する。
「良し、次はあの木箱を運べば良いのか?」
「いや、あれは触らなくて良い。それよりもあっちの食器のセットを向こうに運んでくれ」
しかし、そう簡単に怪しい物品を運ばせては貰えない様なのでここは我慢をしてチャンスを待つレウス。
下手に動けばそれだけ自分の正体が怪しまれる事になるからだ。
なのでひとまず素直に指示に従ってその食器セットを運び始めたレウスだったが、思わぬ所からチャンスが巡って来た。
それは派手な音を立てて、出入り口のドアが開け放たれた事から始まった。
「おい……お前等、明かりをつけろ」
「え……あ、セバクター様!?」
「ど、どうしたんですか? 屋敷の方に戻ったんじゃ……」
「良いからさっさとつけろ!」
派手な音を立てて荒々しく建物の中に入って来たのは、先程レウスがエネルギーボールで一息に戦闘不能にした筈のセバクターであった。
(うわ、もう回復したのか!?)
先程のエネルギーボールの中には麻痺を誘発させる効果を仕込んでいたので、身体中が痺れてなかなか起き上がれない筈なのだ。
なのに自分の予想よりも大分早くこうして復活して来たと言う事は、彼がそれだけ修羅場を潜り抜けてそうした麻痺状態にも耐性を持っているのだろう、とレウスは推測する。
だが、その推測と同じタイミングでレウスは自分のそばに置かれていた大きな樽を開ける事に成功した。
それと同時に建物の中にパパパッと魔力を使った照明が点き、中の状態が照らし出される。
その明るさに眩しさを覚えて一瞬顔を覆うものの、すぐに回復して中をグルリと見渡すセバクターの視界に飛び込んで来たのは、建物の奥の方でゴソゴソと樽の中を漁っているレウスの後ろ姿だった。
「貴様……何をしているっ!」
「おーっと、動くなっ!!」
自分に向かって飛び掛かって来ようとしたセバクターに対し、先程ロングソードを突き付けられた時の命令と同じセリフを口に出しながらレウスは牽制する。
そのオレンジの手袋をはめている右手には、黒光りする拳大のいびつな形の物体が握られていた。
「これ、大事な物なんだろう?」
「……それを早く樽の中に戻せ」
「嫌だね。この物体の正体は俺にも分かるぞ。でもどうしてこんな場所にこんな物が大量にあるのかが俺には分からないんだよな。それにこの樽の中に入っているだけじゃなくて、あっちこっちの家具の中とか木箱の中とかからも、これがガシャガシャ動き回る音がしてるんだよ。家具の中にこの魔晶石を入れて国外に持ち出そうとしていたらしいけど、これって密輸と同じだよなあ?」
「……違う」
何時でも飛び掛かる事が出来る様に身構えていたセバクターの口から、絞り出す様な声がレウスに投げ掛けられる。
だが、レウスはその声を首を横に振って否定した。
「何が違うんだよ? あーっと、そっちの奴もそこも動くんじゃないぞ!! ちょっとでも動いたらこの樽の中の魔晶石をエネルギーボールで全部燃やし尽くしてやるからな。それが嫌だったらさっさとこれだけの魔晶石を集めている理由を話して貰おうか。その理由次第によっては、俺も見逃してやらないでも無いがな……」
圧倒的に有利な立場に居るのは自分なのだ、と言葉の端々でそう表現しながらセバクター達を脅すレウスに対し、脅されている側のセバクターは観念して喋り始めた。