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300.探り

 今度ばかりは、煙幕攻撃で逃げられてしまう訳にはいかない。

 レウスは背中越しにそうセバクターに問うものの、元々無口な彼は一層その無口さに磨きを掛けて何も語ろうとはしない。

 ただ、殺気の中から読み取れる「帰れ」と言うメッセージだけが伝わって来るのが分かる。

 しかもこのままでは埒が明かないとばかりに、セバクターはレウスの首筋に突き付けたままのロングソードの刃を更に首に向かって食い込ませる。

 少しずつ強くなる痛みに対してレウスはハァーッと息を吐くと、話題を変えてこんな事を言い出した。


「……大体、こんな事をしてただで済むと思っているのか?」

「何?」

「このユディソスの城下町では武器を抜くのは禁止されている筈だ。なのに俺に対してこんな事をして、後で騎士団に通報したらどうなる? その時は例え、貴族のお前だってただでは済まない筈だぞ」

「見られていないんだから問題は無い。それよりもさっさと屋敷に帰るんだな。今ここで素直に帰れば、俺は何も見なかった事にしてやる」


 どうやらセバクターは話に応じる気はまるで無い所か、レウスに対して更なる要求をして来た。


「ああ、それからお前がギルドから請け負ったと言う仕事の依頼書もこちらに渡して貰おうか。誰か別の奴に頼むからな」

「俺には請け負わせてくれないのか?」

「俺の事情を知っている人間に任せられない。さぁ、さっさと渡せ」


 相変わらずトーンの低い声でそう言うセバクターに対し、レウスはハッキリとこう言った。


「お断りします」

「……もう一度言ってみろ」

「お断りします」

「首を撥ね飛ばされない内に、さっさと依頼書を渡せ。この警告が最後だ!」


 若干語気を強めたセバクターに対して、レウスは再びハァーッと息を吐くと答えを変えた。


「分かったよ……渡すよ」

「なら両手を上に上げて、ゆっくりとこちらを向け。妙な真似はするなよ?」

「はいはい……」


 そう言いながらホールドアップの姿勢になり、左回りでセバクターの方を向くレウス。

 しかし、その右手には既にエネルギーボールが握られていた。


「ふっ!」

「ぐっ……おああああっ!?」


 明け方の路地裏にセバクターの悲鳴が響く。

 ほぼゼロ距離からエネルギーボールを食らってしまったセバクターは、防御する暇も無く地面に倒れてしまった。

 その倒れて呻き声を上げるセバクターに向かって、レウスは冷たい声で言い放つ。


「渡すって言っても、俺は報告書を渡すなんて一言も言った覚えは無いからな?」

「くそ……ぐっ!」

「まぁ良いさ。この依頼書に従って仕事をさせて貰えば、お前の企みも何なのかすぐに分かる筈だからな」


 武器が駄目なら魔術も使用禁止なのだろうが、彼の言う通り見られていなければ問題無いのだろうし、先に武器を抜いたのはセバクターなのだからこれは正当防衛だ。

 そう自分を正当化させながら、レウスは地面に倒れた彼を放ってレストランの出入り口のドアをドンドンと叩く。


「ギルドからの依頼を受けて来た者だが……」

「えっ、あ……はーい!?」


 中から聞こえて来たのは女の声。それに続いてバタバタと慌ただしくドアに向かって駆けて来る音が聞こえる。

 あいにく愛用の武器である槍は持って来ていないのだが、いざとなったら徒手格闘で何とかするしか無いと腹を括ったレウスの目の前に現れたのは、数人の男女だった。


「ギルドからの依頼だ」

「あ、ええと……早くないですか?」

「時間の指定が無かったから来てみたんだが、迷惑だったか?」

「いや、そりゃ迷惑だよ。幾ら俺達のリーダーがギルドに依頼をしているからって、こんな夜明け前の時間に来るなんてちょっと常識が無さ過ぎないか?」


 戸惑う女と、自分に対して文句をつける男。

 その二人に対して肩をすくめたレウスは、ここでハッタリをかましてみる。


「あれ……おかしいな? さっきお前達のリーダーだって言う男とすれ違って、ここに行って作業をする様にって言われたんだが?」

「えっ、そうなのか!?」

「ああ。赤っぽい髪の毛の若い男じゃないのか? 黒い服を着た上に鎧を着けてる奴。人違いか?」

「……それ、確かにセバクター様の特徴よね」

「ああ、間違いないな。それじゃあんたは本当にリーダーと会ってそう言われたのか?」

「だからそうだと言っているだろう」


 話の風向きが変わった。

 実際に出会ったには出会ったし、ここに来て仕事をしろと言うのは依頼書に書いてあった内容だから嘘はついていない。

 畳み掛けるなら今だとばかりに、レウスはイライラした口調で続ける。


「時間を改めて来て欲しいって言うんであれば俺はまた来るけど、あんた達のリーダーはこれから屋敷に帰るって言ってたから話をつけるには時間が掛かるんじゃないのか?」

「ま、待ってくれ。セバクター様にそう言われたのであれば是非手伝ってくれ」

「分かった。それじゃこれがまず依頼書な」


 八割の真実と一割のハッタリ、そして一割の強引さで許可を貰ったレウスは内心でほくそ笑みつつ、大手を振ってアンノウンのレストランの中に足を踏み入れた。

 横の路地で倒れているセバクターがここで何をしようとしているのか、それを調べ終わるまで帰れないと決意しながら。

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