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27.騎士団長からの呼び出し

「え、騎士団長が俺を?」

「そうだ。あんた、何かやったのか?」

「いいや、全然心当たり無いです……」


 訓練場での実技授業を終え、魔術の座学を受けにクラスメイト達と教室に移動していたレウスの元に、学院の中に滞在しているセバクターが現れた。

 そして彼から告げられたのは、騎士団長の虎獣人ギルベルトがレウスを呼んでいる、との連絡だった。

 一体何をしたら呼び出される事になるのか見当が付かないままに、残りの授業を終えたらすぐに騎士団の本部へと向かう事となった。

 もしかしたらやっぱり編入は取り消しになったのかも知れない、とレウスは授業を受けつつ淡い期待を抱いていたが、彼に待っていたものはそれとは全く違う話題だったのである。



 ◇



(仲間も誰も付けず、しかも授業が終わってすぐに向かうのかと思ったらまたセバクター経由で連絡があって、まさかこんな夜更けに来てくれって……一体何を考えているんだろう、あの虎は?)


 カルヴィスの城下町が眠りについた真夜中、レウスは学生寮をこっそりと抜け出して王国騎士団の本部へとやって来ていた。

 セバクターを通じて騎士団長のギルベルトがレウスに伝えたのは、仲間を連れずに絶対に一人で来る様にとのお達しだったのである。

 しかも、必ず自分の武器を持って本部までやって来るのだと言う要望を受けたレウスの右手には、医務室で預けてから自分に与えられた寮の部屋に運び込まれていた愛用の槍が握られている。


(槍を持って行った所で、俺はまだ騎士学院に編入したてなんだから没収されると思うんだけど……)


 最初にギルベルトに会いに行った時に、厳重なボディチェックをされて武器を全て没収されたのは記憶に新しいレウスだが、わざわざ槍を持って来させると言うのは何かしらの理由があっての事だろう。

 それに自分一人で来いと言うのも気になるので、レウスの今の警戒心はマックスである。

 それでも自分だけ騎士団長に呼び出しを受けたのだから、理由も無しに断る訳にはいかなかった。


「お待ちしておりました。騎士団長のギルベルト様がレウス様をお待ちです」


 王国騎士団の本部で丁寧な物腰でレウスを出迎えたのは、最初にここに来た時にギルベルトの居る部屋まで案内してくれた、赤に近い茶髪の若い騎士団員であった。

 その騎士団員の事は全くと言って良い程レウスは覚えていなかったのだが、とにかく武器を預けようとスッと槍を差し出した……が。


「ああ、今回は武器はそのままお持ち頂いて結構です」

「えっ、預けなくて良いんですか?」

「はい。ギルベルト様から武器を預からないまま案内する様にと言われておりますので。それでは私の後に着いて来て下さい。ギルベルト様のいらっしゃる場所までご案内致します。どうぞこちらへ」

「あ、はい……」


 予想通りの展開ではあったものの、ここまですんなり予想が当たるとレウスの懐疑心は更にアップする。

 先導する若い騎士団員の後に着いて、広々とした騎士団の本部の中を歩き回りながら、レウスは警戒心を解かずに居た。

 一体何が目的なのか、それが分かるまでは絶対に気を抜けない。


 その精神状態をキープしたまま、レウスは以前ここに来た時とはまた別の場所に案内される。

 簡素な木製の扉を出入り口とするその場所は、扉の横に掲げられている、年季の入っている鉄製のボードに彫られた「個人鍛錬場」と言う名前の部屋だった。

 扉の前で案内役の騎士団員が足を止め、レウスの方を振り向いてから手でその扉を指し示した。


「こちらになります。この部屋の中にギルベルト様がお待ちですので、くれぐれも失礼の無い様にお願い致します」

「分かりました。それとすみません、貴方のお名前は?」

「私はアンリと申します。それでは失礼致します」


 一礼をして、アンリと名乗った騎士団員はスタスタと去って行った。

 残されたレウスは、改めてドアの方に向き直ってからコンコンとノックをし、自分の所属と名前を名乗った。


「マウデル騎士学院、二年のレウス・アーヴィン、ギルベルト様の呼び出しに応えて参上致しました」

「あー、そのまま入って来て良いぜー」

「失礼致します」


 相変わらず、騎士団長と言う立場にふさわしく無い自然体の返事を聞いたレウスはその木製の扉を開けて、未知の空間へと進む。

 そこは鍛錬場と言うには余り広く無い場所である。

 それこそ、自分が座学の授業を受けた教室位の広さしか無い部屋であり、どんなに頑張っても人間と獣人が合わせて八十人も入ればもうギチギチになってしまうだろうとレウスは試算する。


 地面を土にしたその部屋の奥側で、ハルバードを片手に騎士団長のギルベルトがレウスを待ち構えていた。

 しかも騎士団の制服には身を包まず、動きやすい白のシャツと黒いズボン、そして太ももの半分辺りまで覆っているロングブーツ姿の彼を見て、レウスはこの後に何が起こるのかを一瞬で察した。


(この部屋の名前、それからこの状況に向こうの格好……と来れば……)


 その察した様子のレウスに向けて、ギルベルトは驚きの言葉を口にする。


「さってと、それじゃまずはお前の実力をたっぷり見せて貰うぜ。……五百年前の勇者、アークトゥルス君よおっ!!」

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