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296.勇者アークトゥルスの戦い方

 次の瞬間、サィードの視界がグルリと回転した。


「うおっ!?」


 完全に油断をしていた自分が足を払われたのだと気が付いたのは、地面に背中を打ち付けた瞬間だった。

 サィードはその痛みに耐えつつすぐに立ち上がり、目の前にレウスの槍の先端が突き付けられて勝負あり! となるのをギリギリで回避して一旦距離を取った。

 そして、今の自分とレウスとの間に何が起こったのかを息を整えながら考えてみる。


(こいつ……俺が土を飛ばして来るまで読んでいたってのか? いや……違う。土を飛ばしてそれを避けて、その避けた所から素早くしゃがんで俺の足を払い飛ばしたのか。流石に百戦錬磨の勇者アークトゥルス様ってだけの事はあるぜ!)


 経験値では圧倒的に向こうの方が上、戦いの知識も向こうの方が上。

 しかし自分からレウスに仕掛けた手合わせなので、ここで負けてしまったらパーティーメンバー中の笑い者にされてしまうのは間違い無いだろう。

 それだけは何としても避けたいサィードに対し、レウスから屈辱的なセリフが飛ぶ。


「幾ら良い武器を持っていたとしても、それを使いこなす事が出来なかったらただの宝の持ち腐れだと俺は思う」

「な……何だと?」

「まぁ、仕方が無いか。お前にはまだその新しい武器は早かったと言う事だろうな。いわゆる格好だけの使い手って所だろう」

「う、うるせえよ……いきなり何なんだよ!?」


 いきなり自分を嘲笑うかの様なレウスの物言いに、一気に怒りのボルテージが上がるサィード。

 しかし、もしかしたらそれも彼の作戦なのかも知れないと一旦深呼吸をして冷静になる。


(いや待て……落ち着け。こうやって俺を挑発してるのもあの勇者様の作戦かも知れねえ。落ち着け俺、怒るな俺……)


 頭の中でそう繰り返し、再びハルバードを構えるサィードに対してレウスは感心する。


(ほう、やはりベテランの傭兵なだけの事はある。これがエルザやサイカだったらそうはいかないだろう。こうした挑発に対する自制心は持ち合わせているみたいだな)


 冷静にサィードの実力を分析しつつも、余り時間を掛けてもいられないと判断して一気に勝負に出るレウスは、手加減は一切無しに連続高速突きを繰り出す。

 槍の先端に近い方の左手は添えるだけで、手前の右手を前後に素早く動かしてサィードの動きを観察しながら何度も突き攻撃を繰り出すレウス。

 その連続高速突きをサィードはバックステップで後ろに避けるも、胸、首、顔と上半身ばかりを狙って来るその動きに対して無意識の内にこう考えてしまった。


(くそっ、上ばっかり狙いやがって……くっ!)


 そう思っていた次の瞬間、ふっ……と槍の先端が視界から消えたと思ったら先程と同じ様に再び視界がグルリと反転した。

 上半身の攻撃が連続していた事によって、下半身への注意が疎かとなっていたサィードに対してレウスは素早く槍の軌道を変え、彼の足を槍で払い飛ばしたのである。

 しかもそれだけに留まらず、今度はすぐに立ち上がれない様にサィードの右足を踏みつけて地面に抑え込み、足をすっぽ抜くのに気を取られたサィードの顔面に槍の先端を突き付けて今度こそ勝負あり! となった。


「そこまでだ! 勝者はレウス!」

「ふぅ……」


 ソランジュの号令が掛かり、ここでレウスの勝ちが決まって試合は終了となった。

 だが、サィードの表情はまだまだやれると輝いている。

 これがもし手合わせで無ければお互いの命が無くなるまでやっていただろうし、この状況でもサィードは決して諦めやしなかっただろうとレウスは思っていた。

 しかし、これはあくまでもお互いの実力を見極める為の戦いである。


(もしこれが戦場で敵同士だったら、俺だってこうして先端を突き付けて終わりじゃなかったよな)


 レウスはサィードの目前に突き付けていた槍を離して、彼が立ち上がるのを待った。

 一方のサィードは何だか納得が行ってないのだが、それでも負けは負けである。


「あーあ、やっぱ負けちまったかあ……五百年前の勇者アークトゥルス様相手に結構良い勝負をしたと思ったんだけどよぉ」

「何を言うか、まだまだ甘い」


 レウスの一言にサィードは頷く。


「ま、俺も最初から勝てるなんて思っちゃいなかったけどよー。でもこうもあっさりと決められちゃあ、逆にすがすがしいって言うか……あー、でもやっぱ納得は行かねえよな」

「悔しいか?」

「ああ、悔しいね。だけどよぉ、これで俺の弱点が分かった気がするぜ。俺は目先の事に囚われ過ぎる傾向にあるらしいってな」

「それが分かっただけでも成長だろう。確かにお前が自分で分かっている通り、俺がお前に対して同じ所にばかり攻撃したら、そこに意識が行くのは当然だろうな。だが、逆に言えば相手が同じ所ばかりに攻撃して来るのは、相手の攻撃パターンが読みやすいと言う事でもある。そこを突くのもまた戦術だ」


 そこで一旦言葉を切り、レウスは槍の先端で地面の土を軽く突いて続ける。


「それから土を飛ばして来たのは意表を突かれて面白いと思ったが、そこから俺は自分の避けた動きと位置を利用して、すぐに次の攻撃に繋げた。常に自分の立ち位置を自覚していなきゃ、勝てるバトルも落としてしまうぞ」

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